2014
11.10

モンマルトルの丘La complainte de la butte

Cora Vaucaire La Complainte de la butte


「サン・ジェルマン・デ・プレの白い貴婦人」という別名を持つ大物歌手、コラ・ヴォケールCora Vaucaireが歌った「モンマルトルの丘La complainte de la butte」は、映画監督で文筆家でもあるジャン・ルノワールJean Renoirが自作の映画「フレンチ・カンカンFrench Cancan」(1955)のために作詞しジョルジュ・ヴァン・パリスGeorges van Parysが作曲した曲です。ジャンは印象派の画家オーギュスト・ルノワール Auguste Renoirの次男。

映画でこの歌が歌われるシーン。出演している女優の口パクとしてコラが歌っています。



題名のcomplainteは「悲歌」の意味。butteは「丘」で、「モンマルトルの丘」を指します。直訳すると「モンマルトルの丘の悲歌」です。詩人がモンマルトルの丘で出会い愛したのは、未成熟の痩せこけた貧しい娼婦。「丸い胸」や「白い肌の女」といった形容を含んだ日本語の歌詞とは次元の異なる世界がここにはあります。美しく悲しく五感のすべてに語りかけてくるメルヘンの世界が。

モンマルトルの風景写真を数多く用いた動画です。



La complainte de la butte    モンマルトルの丘
Cora Vaucaire           コラ・ヴォケール


En haut de la rue St-Vincent
Un poète et une inconnue
S'aimèrent l'espace d'un instant
Mais il ne l'a jamais revue

  サン・ヴァンサン通りの上手で
  ひとりの詩人と見知らぬ娘は
  ほんのひと時のあいだ愛し合った
  けれど彼はその娘に二度と会わなかった

La Complainte de la butte5


Cette chanson il composa
Espèrant que son inconnue
Un matin d'printemps l'entendra
Quelque part au coin d'une rue

  その見知らぬ娘が いつか春の朝に
  通りの片隅のどこかで
  聞いてくれることを願い
  彼はこの歌を作った

La lune trop blême
Pose un diadème
Sur tes cheveux roux
La lune trop rousse
De gloire éclabousse
Ton jupon plein d'trous 注1

  とても青ざめた月は
  きみの赤茶けた髪の上に王冠を載せ
  (君の髪の色で)とても赤みを帯びた月は
  後光となって
  穴だらけのきみのスカートに光を散らす

La lune trop pâle
Caresse l'opale
De tes yeux blasés 注2
Princesse de la rue
Soit la bienvenue 注3
Dans mon cœur blessé

  とても青白い月は
  きみの醒めたオパール色の瞳を
  優しく撫でる
  通りのお姫さま
  僕の傷ついた心に
  ようこそいらっしゃい

La complainte de la butte 2


Les escaliers de la butte sont durs aux miséreux
Les ailes des moulins protègent les amoureux

  丘の階段は貧しい者たちにはきびしく
  風車の羽根は恋人たちを見守ってくれる

Petite mandigote
Je sens ta menotte 注4
Qui cherche ma main
Je sens ta poitrine
Et ta taille fine
J'oublie mon chagrin
Je sens sur ta lèvre 注5
Une odeur de fièvre
De gosse mal nourri
Et sous ta caresse
Je sens une ivresse
Qui m'anéantit

  小さな乞食娘よ
  きみのちっぽけな手が
  僕の手を求めているのを感じる
  僕はきみの胸と
  か細い身体を感じて
  自分の苦しみを忘れる
  きみの唇に
  栄養の足りない子供の
  熱の匂いを感じる
  そしてきみの愛撫に
  僕は酔いを感じ
  その酔いが僕を骨抜きにする

Les escaliers de la butte sont durs aux miséreux
Les ailes des moulins protègent les amoureux

  丘の階段は貧しい者たちにはきびしく
  風車の羽根は恋人たちを見守ってくれる

La complainte de la butte 3


Mais voilà qu'il flotte 注6
La lune se trotte
La princesse aussi
Sous le ciel sans lune
Je pleure à la brune 注7
Mon rêve évanoui

  けれど雨がぱらついて
  月はゆっくりと歩み去り
  通りのお姫さまもまた…
  月のない空のもと
  僕は あかつき時に
  消え去った夢を嘆く

[注]
1 un juponは下着のペティコートだが、ここでは粗末なスカートを示している。
また、前行の動詞éclabousserはもともと泥をはねるという意味だが、ここでは光が散るさまを表現している。
2 tes yeux blasés つらい生活に打ちひしがれて感動を失っている状態をあらわしている。l'opaleも同じニュアンスを色彩で表現しているようだ。
3 tu(君)に対する命令形としてSois la bienvenueとする歌詞もあるが、Princesse de la rue が前にあるので、間接的に第三人称で示すsoitを選択しよう。Soyez le bienvenu ! 「ようこそいらっしゃい」(vousの場合の男性形)はよく使われる表現。
4 menotteは(複数形で)「手錠」の意味だが、話し言葉で「(特に幼児の)小さな手、おてて」の意味で用いられる。相手のpetite mandigote「小さな乞食娘」は、幼児ではないにせよ、まだ成熟していない少女。sein「乳房」ではなくpoitrine「胸」としているのも、押韻のためだけではない。
5 「唇」は、本来は複数形(tes lèvres)だが、コラは単数形で歌っている。
6 flotterは「浮く」の意の動詞とは別で、話し言葉でpleuvoir同様「雨が降る」の意で用いられる動詞。
7 la bruneは夕暮れまたは明け方の暗い空の色を示し、さらにはその時刻を示す。ここでは、文脈上、夜が明ける時刻。



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