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2014
11.06

忘却J'oublie(Oblivion)

Milva&Piazzolla Joublie(Oblivion)


1988年にアルゼンチンのバンドネオン奏者のアストル・ピアソラAstor Piazzollaが、イタリアの歌手のミルヴァMilvaとともに来日した折、まだピアソラのことをよく知らないまま、新宿厚生年金会館に聴きに行き、最高に感動しました。千秋楽ということで、スタッフがサプライズとして最後に舞台の上方から花をいっぱい落としてミルヴァを喜ばせたように記憶しています。それからしばらくの間は、ピアソラのCD、ピアソラの曲を他のミュージシャンが演奏しているCDを買い集めてしょっちゅう聴いていました。もう四半世紀も昔のことでした。

2009年の末に「ライヴ・イン・東京1988」が発売されました。これは、中野サンプラザホールでの演奏を収録されたもので、84年のパリ公演のライブ盤Live At The Bouffes Du Nordをしのぐ出来だと非常に評判がいいものです。シャンソンにのめり込むようになった耳で、パリ公演盤ともにあらためて聴いてみて、あの公演でミルヴァが歌った「忘却J'oublie(Oblivion)」という曲が、ひどいイタリア訛りながらフランス語だったことに初めて気づきました。この曲に満ち溢れている、けだるい郷愁のようなものがなんとも魅力的です。

東京公演の動画は残念ながら削除されたようなので、パリ公演の動画に差し替えます。



アストル・ピアソラAstor Piazzollaは1921年生まれ。アルゼンチン・タンゴに大革命を起こした人物です。彼の音楽はアルゼンチン本国よりも、ニューヨークなどの他の地で先に評価され、20年も時代を先取りしていたとも、彼の音楽を引き継げる者はいないともいわれます。Wikipediaには、「元来タンゴは踊りのための伴奏音楽であり、強いリズム性とセンチメンタルなメロディをもつ展開の分かりやすい楽曲であった。ピアソラはそこにバロックやフーガといったクラシックの構造や、ニューヨーク・ジャズのエッセンスを取り入れることで、強いビートと重厚な音楽構造の上にセンチメンタルなメロディを自由に展開させるという独自の音楽形態を生み出した。」と書かれています。私は「天使のミロンガMilonga del angel」という曲が特に好きです。
彼はフランスとも関連が深く、1954年にクラシックの作曲家を目指して渡仏したことが、タンゴ革命の可能性に目覚めるきっかけになったそうです。また、1990年パリの自宅で脳溢血により倒れ闘病生活に入ったとのことで、晩年はパリに住んでいたようです。そして、アルゼンチンに帰国し、1992年ブエノスアイレスの病院で亡くなりました。71歳でした。

この曲は、ピアソラが音楽を担当したマルコ・ベロッキオ Marco Bellocchio監督の映画『エンリコ四世 Henri IV, le roi fou』(1984年)のメインテーマとして1982年に作曲されました。甘美なメロディながらどこかはかないこの曲は、狂気と正気の交錯するようなこの映画の内容に合っています。バンドネオン、ピアノ、コントラバスのために書かれました。ミルヴァMilvaが歌っているフランス語の歌詞は、後年、ニューヨークの作曲家デヴィッド・マクニールによるものです。

フランス語歌詞より前に、タランツィAngela TarenziとシモンルーカSimonlucaによるイタリア語歌詞が作られていました。



オラシオ・フェレールHoracio Ferrerによるスペイン語歌詞もアルゼンチンではよく歌われます。



クラシックの演奏家たちも好んで演奏する曲です。→マルタ・アルゲリッチMartha Argerichのピアノ演奏 
ギドン・クレメルGidon Kremerのヴァイオリン演奏 

J'oublie(Oblivion)   忘却
Milva&Piazzolla   ミルヴァ&ピアソラ


Lourds, soudain semblent lourds
les draps, les velours de ton lit
quand j'oublie jusqu'à notre amour...

  重たく、とつぜん重たく感じられる
  あなたのベッドのシーツが、ビロードが
  わたしたちの愛さえ忘れてしまったとき…

Joublie4.jpg


Lourds, soudain semblent lourds
tes bras qui m'entourent déjà dans la nuit
un bateau part, s'en va quelque part
les gens se séparent, j'oublie, j'oublie...

  重たく、とつぜん重たく感じられる
  暗闇のなかでわたしに巻きついたあなたの腕が
  一艘の船が出発し、どこかへと向かう
  人々は別れ、わたしは忘れる、忘れる…

Tard, autre part dans un bar d'acajou
des violons nous rejouent
notre mélodie, mais j'oublie...

  夜更けに、マホガニーのバーの片隅で
  ヴァイオリンがわたしたちにまた奏でる
  わたしたちのメロディーを、でもわたしは忘れる…

Tard, dans ce bar dansant joue contre joue 注1
tout devient flou
et j'oublie, j'oublie...

  夜更けに、このバーで、頬を寄せて踊りながら
  すべてはあいまいになり
  わたしは忘れる、忘れる…

Joublie2.jpg


Court, le temps semble court
le compte à rebours d'une nuit 注2
quand j'oublie jusqu'à notre amour...

  短く、時は短く感じられる
  一夜が過ぎるのを振り返ると
  わたしたちの愛さえ忘れてしまったとき…

Court, le temps semble court
tes doigts qui parcourent ma ligne de vie.
Sans un regard, des amants s'égarent
sur un quai de gare, j'oublie, j'oublie...

  短く、時は短く感じられる
  私のいのちの輪郭をなぞるあなたの指。
  目も向けず、恋人たちは離れる
  駅のプラットホームで、わたしは忘れる、忘れる…

Joublie3.jpg


[注]
1 danser joue contre joue「チークダンスをする」
2 compte à rebours成句としては「(日程などの)逆算、秒読み」だが、compter「数える」+ à rebours「さかさまに」という原義に戻した訳語にした。




コメント
ありがとうございました。
そこのところもう一度勉強しなおします。
浜田昌子dot 2020.11.09 07:45 | 編集
qc. semble…はil me semble que qc. est…と同じ意味で「あるもの(主語)が…であるように私には見える(感じられる)」ということですから、jeが主語ではありません。
歌詞や詩の場合、散文とは語順が変わることが多いので分かりにくいですね。
散文の形に語順および文体を変えてお答えしましょう。

les draps, les velours semblent lourds
=il me semble que les draps, les velours sont lourds

tes bras semblent lourds
=il me semble que tes bras sont lourds

le temps semble court
=il me semble que le temps est court
朝倉ノニーdot 2020.11.09 05:48 | 編集

semblentは
  les draps .les velours
sembleは
  le temps
 が主語になるんですね。
浜田昌子dot 2020.11.09 01:47 | 編集
こんにちわ、いつもこのサイトで勉強しています。教えていただけないでしょうか。

始めのほうのsemblentの主語は誰になるのでしょうか。
2コーラス目の semble の主語はje
だと思うのですが。
よろしくお願いします。
浜田昌子dot 2020.11.08 21:59 | 編集
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