
1964年、シャルル・アズナヴールCharles Aznavourが40歳のときに作詞・作曲した「帰り来ぬ青春Hier encore」は、過ぎ去った青春の日々を「つい昨日のことのようだ」と言って惜しみ懐かしみ、当時の自分のあり様を後悔するという、その年齢にふさわしい内容。前回取り上げた、「青春という名の宝Sa jeunesse」と対をなすものだということで、続けて取り上げることにしました。前回の曲では、その制作年が、アズナヴール本人が言うのと実際の登録年が違うことに触れましたが、今回の曲にも同様の疑問が有ります。
Aznavourは1968年1月から3月までのOlympia出演の際、MCで、「私がこの曲Sa jeunesseを書いたのは25年前だ.25年の間に同じインスピレーションで二つの曲を書くことはあり得ることだ。私は今夜、二つをつなぎたいと思う。14年の年齢の開きのある二つを」と語ってからSa jeunesseとHier encoreを歌ったそうです。1968ー25=43で、ほぼ1942年として、+14=1956年ですから、Hier encoreに関しても、本人が最初に書いた年と登録年が違うということでしょうか。
いえ、数字云々より、本人もこの二つを一対のものと意識しているということが、このことであらためて確認されました。
ダニー・ブリアンDany Brillantもいいですね。
Hier encore 帰り来ぬ青春
Charles Aznavour シャルル・アズナヴール
Hier encore 注1
J'avais vingt ans
Je caressais le temps
Et jouais de la vie
Comme on joue de l'amour
Et je vivais la nuit
Sans compter sur mes jours 注2
Qui fuyaient dans le temps
つい昨日のこと
僕は二十歳だった
僕は刹那を愛しみ
僕は人生を満喫していた
ちょうど恋愛を愉しむみたいに
そして僕は夜に生きて
日数を数えるのを怠っているうちに
日々はいつしか過ぎ去って行った
J'ai fait tant de projets
Qui sont restés en l'air 注3
J'ai fondé tant d'espoirs
Qui se sont envolés
Que je reste perdu
Ne sachant où aller
Les yeux cherchant le ciel
Mais le cœur mis en terre
ずいぶん計画を立てたが
宙に浮いたままになった
ずいぶん希望を抱いたが
消えてしまい
僕は希望を失ったまま
行く先も分からず
目は空を探し求めながらも
心は地に埋もれていた

Hier encore
J'avais vingt ans
Je gaspillais le temps
En croyant l'arrêter
Et pour le retenir
Même le devancer
Je n'ai fait que courir
Et me suis essoufflé
つい昨日のこと
僕は二十歳だった
僕は時を浪費していた
時を止められると信じつつ
そしてそれを取り戻そうと
先取りさえもしようと
ひた走りに走り
そして息を切らしてしまった
Ignorant le passé
Conjuguant au futur
Je précédais de moi 注4
Toute conversation
Et donnais mon avis
Que je voulais le bon
Pour critiquer le monde
Avec désinvolture
過去は捨て
未来を当て込み
僕はみずから
会話をつねに先導し
世の中を批判するのに
適すと思われる
自分の意見を
無遠慮に言った
Hier encore
J'avais vingt ans
Mais j'ai perdu mon temps
A faire des folies
Qui ne me laissent au fond
Rien de vraiment précis
Que quelques rides au front
Et la peur de l'ennui
つい昨日のこと
僕は二十歳だった
だが僕は自分の時間を費やしてしまった
無軌道なおこないを重ねるうちに
そんな時間は心の奥に
ほんとうに確かなものは何も残さない
額の皺と
倦怠への怖れしか

Car mes amours sont mortes
Avant que d'exister
Mes amis sont partis
Et ne reviendront pas
Par ma faute j'ai fait
Le vide autour de moi 注5
Et j'ai gâché ma vie
Et mes jeunes années
なぜなら僕の恋はみな
育まれる前に死んでしまった
僕の友人たちは去って行った
もう戻っては来ないだろう
自らの過ちで
周りから乖離してしまった
そして自分の人生と
青春を浪費してしまった
Du meilleur et du pire 注6
En jetant le meilleur
J'ai figé mes sourires
Et j'ai glacé mes pleurs
Où sont-ils à présent
A présent mes vingt ans?
最良のこともあったし最悪のこともあったが
最良のものをほうり出して
僕は笑みをこわばらせ
涙も凍りつかせた
どこに行ってしまったのか、今
今、僕の二十歳の時は?
[注]
1 hier encore「つい昨日のことのようだ」
2 compter sur qc.「…を数える」
3 rester en l'air「宙に浮いたままになる」ここは、「宙に浮いたままの計画を立てた」と訳すと不自然。続く部分も、「消えた希望を持つ」としてはまずい。
4 自分がtoute conversationにde moi「みずから」précéder「先行する」。
5 j'ai fait le vide autour de moiは直訳すると、「自分の周りに隙間を作ってしまった」だが、意訳した。
6 行のあたまにJ’avaisを補って解釈。du(de+le)は部分冠詞で、抽象名詞meilleur「最良のこと」とpire「最悪のこと」を具象化。
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