
「ベルヴィル・ランデブーLes Triplettes de Belleville」は、シルヴァン・ショメSylvain Chomet監督による2002年の初長編アニメーション映画で、人物や街、船などに過剰なまでのデフォルメが加えられていることが特徴で、カンヌ国際映画祭のパルム・ドッグ(特別賞、犬のブリュノに対して)、セザール賞の最優秀音楽賞、ジニー賞の最優秀作品賞、リュミエール賞の最優秀映画賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞のアニメ映画賞などを受賞しました。
マチュー・シェディッドMatthieu Chedid(アーティスト名:-M-)が歌った、この映画のテーマソング「ベルヴィル・ランデヴーBelleville rendez-vous」(作曲:ブノワ・シャレBenoît Charest、作詞:シルヴァン・ショメSylvain Chomet)を、今年の《第3回東京シャンソン・コンクール》フランス語部門でグランプリを獲得したデュオ:Com’Ci Com’Çaが歌っています。今回はそれを取り上げましょう。
歌詞の内容に関連するので、映画のあらすじをウィキペディアから引用しましょう。
「第二次世界大戦後のフランス、一人寂しい孫のシャンピオンを元気づけようと、シャンピオンのおばあちゃんはテレビで人気歌手トリオ"トリプレット"の番組を見せたり、ピアノや犬のブルーノを与えたりするが、シャンピオンはどれにも興味を示さない。
だがある日、おばあちゃんはシャンピオンのベッドから自転車の写真や新聞記事がスクラップされたノートを見つける。そこでおばあちゃんはシャンピオンに三輪車を与えたところ、彼は嬉々としてそれを乗り回すのだった。
やがてシャンピオンは成長し、ツール・ド・フランスに出場するためトレーニングを重ねていた。
しかし大会中にシャンピオンと2人の選手がマフィアによって連れ去られてしまう。
おばあちゃんはシャンピオンたちを追って、大都市ベルヴィルにたどり着く。
おばあちゃんは老いさらばえたトリプレット(三つ子)たちの助けを得て、シャンピオンの救出に奔走する。」さらに詳しくは→こちら。
ついでながら、この映画には、実在の人物や作品が登場しています。
ジャンゴ・ラインハルトDjango Reinhardt:ベルギー生まれの二本指奏法のギタリスト
ジョセフィン・ベーカーJosephine Baker:アメリカ生まれフランス国籍の黒人歌手
フレッド・アステアFred Astaire:アメリカのタップダンサー
シャルル・ド・ゴールCharles André Joseph Pierre-Marie de Gaulle:フランス大統領
グレン・グールドGlenn Herbert Gould:カナダのピアニスト
ファウスト・コッピAngelo Fausto Coppi:ツール・ド・フランスで2度の総合優勝を果たしたイタリアの自転車競技選手。
Belleville rendez-vous ベルヴィル・ランデヴー
-M- エム
J'veux pas finir mes jours à Tombouctou (Tombouctou) 注1
La peau tirée par des machines à clous 注2
Moi je veux être fripé, triplement fripé
Frippé comme une triplette de Belleville
わたしゃトンブクトゥで命を終えたくないよ(トンブクトゥで)
皮膚を釘付きの機械で引き伸ばされてなんて
わたしゃ皺くちゃでいたい、3倍も皺くちゃで
ベルヴィルの三つ子みたいに皺くちゃで

J'veux pas finir ma vie à Acapulco (Acapulco) 注3
Danser tout raide avec des gigolos
Moi je veux être tordu, triplement tordu
Balancé comme une triplette de Belleville
わたしゃアカプルコで命を終えたくないよ(アカプルコで)
ジゴロたちとまったくぶざまにダンス踊ってなんて
わたしゃひねくれていたい、3倍もひねくれて
ベルヴィルの三つ子みたいに
(Allez les filles, allons...)
(ソレお嬢ちゃんたち、行こうよ…)
{Refrain :}
Swinging Belleville rendez-vous
Marathon dancing doum dilou 注4
Vaudou cancan, balais tabou 注5
Au Belleville swinging rendez-vous
スィングしてベルヴィルでランデヴー
踊りながらマラソンしてドゥン・ディルー
ヴォードゥ教の悪口、タブーを一掃
ベルヴィルでスィングしてランデヴー

J'veux pas finir ma vie à Singapour (Singapour) 注6
Jouer au dico, manger des petits fours 注7
Moi je veux être idiot, triplement z'idiot 注8
Gondolé comme une triplette de Belleville
わたしゃシンガポールで命を終えたくないよ(シンガポールで)
ディスコで踊って、一口菓子食べてなんて
わたしゃバカでいたいんだよ、3倍もバカで
ベルヴィルの三つ子みたいにひん曲がって
J'veux pas finir ma vie à Honolulu (Honolulu) 注9
Chanter comme un oiseau ça n'se fait plus
Je veux ma voix brisée, triplement brisée
Swinguer comme une triplette de Belleville
わたしゃホノルルで命を終えたくないよ(ホノルルで)
小鳥みたいに歌ってなんてそんなのもうごめんだね
わたしゃしわがれ声でいたいんだよ、3倍もしわがれ声で
ベルヴィルの三つ子みたいにスウィングして
{Refrain}
J'voudrais finir ma vie à Katmandou (Katmandou) 注10
C'est bien plus doux de faire des rimes en "ou"
Mais je veux être givré, triplement givré 注11
Swinguer comme les triplettes de Belleville
わたしゃカトマンドゥで命を終えたいもんだ(カトマンドゥで)
「ウ」で韻を踏むのはずっとステキだよ
けどわたしゃイカれていたいんだよ、3倍もイカれて
ベルヴィルの三つ子みたいにスウィングして
(Allez les filles...)
(ソレお嬢ちゃんたち…)
{Refrain×2}

[注] Belleville「ベルヴィル」は、架空の都市で、パリ、ケベック、モントリオール、ニューヨークを合わせたようなイメージで作られたという。名前は「美しい街」の意味。
この歌詞は、ジゴロと踊るという表現もあるので女性の立場であり、主役のおばあちゃんの立場だと判断して訳したが、ほとんどの歌詞サイトで形容詞が女性形になっていなくて確かに-M-もidioteとは歌っていない。男性である-M-自身の立場で歌っているためか。
1 Tombouctou「トンブクトゥ」西アフリカのマリ共和国内のニジェール川の中流域に位置する都市。マリ帝国、ソンガイ帝国時代に繁栄し、西欧では「黄金郷」として知られた。
2 machine à clous「製釘機械」をこう呼ぶが、ここでは、釘にひっかけて皮膚を引き伸ばすための機械の意味のようだ。
3 Acapulco「アカプルコ」メキシコ合衆国の太平洋岸のゲレーロ州にあるリゾート都市。正式名称はアカプルコ・デ・フアレスAcapulco de Juárez。
4 doumは「ドーム椰子」の意味があるが、dilouは辞書に無い。doum dilouの2語をオノマトペとしてrendez-vousと韻を踏むため用いている。
5 vaudou「ブードゥー教」、cancan「悪口、陰口」
6 Singapour「シンガポール共和国」赤道直下、東南アジアのほぼ中心に位置し、シンガポール島ほか63の島からなる島国で、国土面積は東京23区とほぼ同じ広さ。
7 petit four「プティフール、一口菓子」
8 z'idiot=d'idiot
9 Honolulu「ホノルル」アメリカ合衆国ハワイ州オアフ島にある州都。
10 Katmandou「カトマンドゥ」カトマンズとも呼ばれるネパールの首都。単にou「ウ」と韻を踏めるから選んだというだけ。
10 givré「霧氷(霜)で覆われた」「砂糖をまぶした」が本義だが、話し言葉で「酔っ払った、イカれた」の意味で用いられる。
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