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2014
10.27

プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)La chanson de Prévert

Serge Gainsbourg La chanson de Prévert


前回、「枯葉Les feuilles mortes」を取り上げましたが、その曲をモチーフにして、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgは、作詞者の詩人ジャック・プレヴェールJacques Prévertの名を冠した曲、La chanson de Prévertを作りました。1961年のアルバム「驚異のゲンズブールL'étonnant Serge Gainsbourg」に収録されています。「枯れ葉に寄せて」という既存の邦題は副題とし、「プレヴェールのシャンソン」という直訳の邦題にいたします。
「枯葉」の歌詞に、「ほら、私は忘れていない あなたが歌ってくれたこの歌を。それは私たちに似つかわしい歌…」とあります。「この歌」とは「枯葉」自体だと伺わせる表現ですが、ジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensの「オーヴェルニュ人に捧ぐChanson pour l'auvergnat」の歌詞中の「この歌」が明らかにその歌自体なのとは違って、「枯葉」の場合は、その歌詞をかつてあなたが歌ったとするのは無理があります。また、最後の節の「結ばれぬ恋人たちの足跡」という部分も、いっしょに歩いていた時はまだ別れていない…。いえ、歌は理屈で考えてはいけませんね。さて、ゲンズブールの曲では「この歌」は「枯葉」です。でも、それはちょっとひねった形で、そのタイトルや歌詞を地の歌詞のなかにうまく織り込んでいるのです。そして、les feuilles mortes「枯葉」すなわち「死んだ葉」にles amours mortes「死んだ恋」を重ね合わせます。



La chanson de Prévert  プレヴェールのシャンソン(枯れ葉に寄せて)
Serge Gainsbourg     セルジュ・ゲンズブール


‟Oh je voudrais tant que tu te souviennes” 注1
Cette chanson était la tienne
C'était ta préférée je crois
Qu'elle est de Prévert et Kosma

  「おぉ君に思い出してもらいたいものだ」
  この歌は君のもの
  僕が思うに 君のお気に入りだった
  これはブレヴェールとコスマの作品だ

Et chaque fois les feuilles mortes 注2
Te rappellent à mon souvenir 注3
Jour après jour les amours mortes 注4
N'en finissent pas de mourir 注5

  そして枯葉の季節はその都度
  君を記憶によみがえらせ
  来る日も来る日も 過去の恋は
  死にきらない

La chanson de Prévert1


Avec d'autres bien sûr je m'abandonne 注6
Mais leur chanson est monotone 注7
Et peu à peu je m' indiffère
À cela il n'est rien à faire 注8

  もちろん 他の女たちとも関係したよ
  だが 彼女たちの歌は単調で
  しだいに僕は無関心になった
  そんなものにね どうしようもないさ

Car chaque fois les feuilles mortes
Te rappellent à mon souvenir
Jour après jour les amours mortes
N'en finissent pas de mourir

  だって枯葉の季節はその都度
  君を記憶によみがえらせ
  来る日も来る日も 過去の恋は
  死にきらない

La chanson de Prévert2


Peut-on jamais savoir par où commence 注9
Et quand finit l'indifférence
Passe l'automne vienne l'hiver 注10
Et que la chanson de Prévert 注11

  無関心がどこから始まっていつ終わるのか
  いつか分かるだろう
  秋よ過ぎ去れ 冬よ来い
  そしてプレヴェールの歌

Cette chanson ‟Les feuilles mortes” 注12
S'efface de mon souvenir 注13
Et ce jour là mes amours mortes
En auront fini de mourir

  この歌 「枯葉」も
  僕の記憶から消え去ってくれ
  その頃には 僕の過去の恋は
  死に絶えてしまっていることだろう

La chanson de Prévert3


[注]曲名
1 プレヴェールのシャンソン「枯葉」の冒頭であるが、引用しつつ歌詞内容に組み込んでいる。
2 chaque fois que..「…するたびに」.ではない。les feuilles mortesは、ここと4節目では、普通名詞とシャンソンの題名を兼ねており、普通名詞として表記する。
3 te「君」をà mon souvenir「私の記憶」にrappeler「呼び戻す」。すなわち、rappeler qc/qn à qn「…に…を想い出させる、想起させる」という表現と同義。
4 amour は男性名詞だが、文章語で複数形が女性名詞として扱われるため、mortesとなっている。Les feuilles mortesと合わせた表現。
5 死んだ恋が死ぬという矛盾した表現である。ne pas finir de+infは「…することを終えない」の意で、mourir「死ぬ」過程が完了しない。恋人との関係は終わったが、心のなかに残る思いは消えずに、「枯葉」の季節になるたびに息を吹き返し、来る日も来る日も、死んだはずの恋が死に切っていない状態が続いているのである。ちょうど、消えた火がまだくすぶっているように。
6 s'abandonner「身をゆだねる、気楽にやっていく」女性の場合なら「身を任せる」といった訳語になる。ゲンズブールの歌なので、男性の立場での訳文にしたが、女性の歌にしたほうがいいかもしれない。お試しあれ。
7 leur chanson est monotone「つまらない相手だった」という意味。
8 il est=il y a「…がある」。il n'est rien à faire=il n'y a rien à faire「なす術がない、どうしようもない」
9 jamaisは否定の意味ではなく、un jour「いつの日か」の意味。
10 Vienne la nuit sonne l'heureという、アポリネールGuillaume Apollinaireの「ミラボー橋Le pont Mirabeau」の歌詞を思い出させる、接続法を使った願望表現。Que l'automne passe/Que l'hiver vienne.
11 que以下、願望の付け加えで、次の節につながる。
12 cette chanson ‟Les feuilles mortes” ここだけシャンソンの題名として表記されている。前節のla chanson de Prévertを言い換えている。
13 s'effacer de「…から消え去る」



コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2023.01.08 22:07 | 編集

注5の部分に関していただいた貴重なご意見を参考に、訳文と注の記述を大幅に訂正いたしました。ありがとうございました。
朝倉ノニーdot 2023.01.05 07:19 | 編集
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dot 2023.01.03 22:20 | 編集
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