
エディット・ピアフEdith Piafの「愛の讃歌L'hymne à l'amour」が愛を歌うシャンソンの代名詞なら、失恋のシャンソンの代名詞ともいえるのが、この「枯葉Les feuilles mortes」。
この曲は、ジョゼフ・コズマJoseph Kosmaが、1945年にローラン・プティRoland Petit演出によるバレエ「ランデヴーLe rendez-vous」のパ・ド・ドゥのために書いた曲が原型。先に取り上げた「バルバラBarbara」の歌詞を書いた詩人ジャック・プレヴェールJacques Prévertがそれに詩をつけました。
プレヴェールが脚本を、コズマが音楽を担当した、マルセル・カルネMarcel Carné監督の1946年の映画「夜の門Les portes de la nuit」のなかで、当時新人歌手だったイヴ・モンタンYves Montandが歌いましたが、映画共々ヒットしませんでした。しかし、続いてジュリエット・グレコJuliette Grécoが歌ったことで知られるようになりました。最初の録音は1949年、コラ・ヴォケールCora Vaucaire。続いて同年にモンタンも録音しました。
「枯葉」はモンタンだと思う方が多いでしょうが、彼は最初の節を歌わずに語ったり、2節目から歌い出したりします。コラのほうが忠実な歌い方をしていますし、最初に録音した歌手でもあり、あえて彼女を選びました。きれいな発音がフランス語の教材にも使われたそうです。冒頭の画像は私のお勧めのアルバムLa dame blanche de Saint-Germain-des-Prés。動画にも同じ画像が使われていて、同様にピアノ伴奏ですが、音源は異なるようです。
コラ・ヴォケール
イヴ・モンタン
英語に翻案されたAutumn leavesを最初に歌ったのは、1950年のビング・クロスビーBing Crosbyで、続いてナット・キング・コールNat King Cole。エディット・ピアフÉdith Piafも英語で録音しています。枯葉の舞い散る様をピアノで模したロジャー・ウィリアムズRoger Williamの演奏も大人気となりました。元の歌詞では枯葉はすでに落ちて地面に積もっているのですが、英語ではdrift by my windowあるいはstart to fallと表現されていて、まったく違う光景なのです。
この曲はアドリブ演奏の格好の素材となるためか、ジャズの分野でも多くのミュージシャンが取り上げ、スタンダード曲となりました。実は私は今のようにシャンソンに専念する前はジャズをよく聴いていましたので、キャノンボール・アダレイCannonball Adderleyの演奏などとても懐かしいです。
エディット・ピアフ(英語+仏語)
Les feuilles mortes 枯葉
Cora Vaucaire コラ・ヴォケール
Oh ! je voudrais tant que tu te souviennes
Des jours heureux où nous étions amis.
En ce temps-là la vie était plus belle,
Et le soleil plus brûlant qu'aujourd'hui.
Les feuilles mortes se ramassent à la pelle. 注1
Tu vois, je n'ai pas oublié...
Les feuilles mortes se ramassent à la pelle,
Les souvenirs et les regrets aussi
Et le vent du nord les emporte
Dans la nuit froide de l'oubli.
Tu vois, je n'ai pas oublié
La chanson que tu me chantais. 注2
おぉ!あなたに思い出してもらいたい
私たちが恋人同士だった幸せな日々を。
あのころ人生はもっと素晴らしく、
太陽も今よりもっと輝いていた。
枯葉がいっぱい吹き集められているわ。
ほら、私は忘れてはいない…
枯葉がいっぱい吹き集められている、
思い出も心残りもまた
そして北の風がそれらを運び去っていく
忘却の夜の冷たさのなかへと。
ほら、私は忘れていない
あなたが歌ってくれたこの歌を。

{Refrain:}
C'est une chanson qui nous ressemble.
Toi, tu m'aimais et je t'aimais
Nous vivions tous les deux ensemble,
Toi qui m'aimais, moi qui t'aimais.
それは私たちに似つかわしい歌。
あなたは私を愛し 私はあなたを愛していた
私たちはふたり一緒に生きていた、
私を愛するあなたと、あなたを愛する私は。
Mais la vie sépare ceux qui s'aiment,
Tout doucement, sans faire de bruit
Et la mer efface sur le sable
Les pas des amants désunis. 注2
けれど人生は愛し合う者たちを引き離す、
そっと、音も立てずに
そして海は洗い流す 砂の上の
結ばれぬ恋人たちの足跡を。

[注] コラの歌として紹介するので、訳は女性の言葉で表現した。
1 se ramasserは代名動詞で「まとめられる、拾われる、かき集められる」。pelleは「シャベル」だが、à la pelleは「多量に、たくさん」という熟語。se ramasser à la pelle全体で、「いっぱいある」くらいの意味。後に、Les souvenirs et les regrets aussiとあるので、思い出や心残りにも通用する表現が必要なことからも、シャベルを持ち出すとまずい。
2 「あなたが歌ってくれたこの歌」「私たちに似つかわしい歌」とは、この「枯葉」自体だと伺わせるが、それは矛盾する。
3 désuniは「仲たがいした、別れた」の意味でdes amantsにかかるが、いっしょに歩いていた時はまだ別れていないから「別れた恋人たち」ではまずい。後日の視点での表現なので「結ばれぬ恋人たち」とした。
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コメント
涙が出るほど懐かしいです。1963〜1965 在パリ Cora Vaucaire の歌を聞きにゆき
レコードのジャケットにサインを貰ったのでした。以来 彼女の大フアンに。
レコードのジャケットにサインを貰ったのでした。以来 彼女の大フアンに。
IKUTCHAN
2021.02.19 22:11 | 編集
