
今回取り上げる曲は、エロディー・フレジェElodie Frégéの「パリParis」。明後日28日の《第4回アミカル・ド・シャンソン コンサート》にエントリーされた曲のうち、宇藤カザンと私のブログでまだ訳していない最後の曲となりましたので、なんとか取り上げたいと思いました。
ところが、とても分かりづらく訳しづらい歌詞で、原詞のフィーリングだけでも表わせればと、可能な範囲で一応訳しました。そして、28日にこれを歌った人から、私が理解できなかった幾つかの言葉が、パリを周知している人ならすぐ分かる固有名詞であることを教えてもらって謎がだいぶ解け、大幅に訳し直しました。
エロディー・フレジェElodie Frégéは、1982年生まれの歌手・女優でギターも弾きます。
2003年に、テレビ番組:スター・アカデミーStar Academyに出演して、アルバムのリリースと賞金を獲得してデヴューを果たし、すでに4枚のアルバムを出しています。
スター・アカデミーで「黒いワシL'aigle noir」を歌った動画
YouTubeには、スター・アカデミーのほかの出演者たちのいろんな動画が出ていますので、Star Academyで検索してご覧ください。
「パリParis」は、2006年にリリースされた、バンジャマン・ビオレーBenjamin Biolayが製作に関わったセカンド・アルバム:Le jeu des 7 erreursに収録されています(Wikipédiaのデータではこの曲は入っていなくて、musicMeではこのアルバムの曲として出ていますので、ボーナストラックとして追加されたようです)。
名前の出てくるカフェやレストラン、そして美しすぎるエロディーの写真をはさみながら歌詞をご紹介しましょう。
Paris パリ
Elodie Frégé エロディー・フレジェ
Devant un chocolat chaud
A minuit au café de flore 注1
Et la pluie qui coule a flot
Et tes mains douces qui m’effleurent
Quelques traces au coin des lèvres
Un souffle un baiser rouge nuit
Déposé sur fond de fièvre
Pour y essuyer ton ennui
ホット・ショコラを前に
真夜中にカフェ・ド・フロールで
そして流れるようにざぁっと降る雨
そして私に軽く触れるあなたの両手
唇の隅になにかしらの跡
ルージュのキスが妨げる息
熱情の深みに身を置くあなた
そこで倦怠を拭い去るために

A la closerie des lilas 注2
Un whisky entre les voix
Et la saveur de l’absinthe
Brûle au coin de ses yeux de sainte
Laisse goutter dans mon cou
Le goût d’un liquide aigre doux
Jouant la Seine sur ma chair
Pour s’éterniser dans mon verre
クロスリー・ド・リラで
話し声の合間にウィスキー
そしてアプサンの味が
彼の聖人の目の隅に燃える
私の喉にしたたらせてよ
強くて甘い液体の味を
私の身体の上でセーヌ川になって
私のグラスに長くとどまるために

Paris en touriste chez l’interdit 注3
En terre inconnue on se fuit 注4
Taxi, on bat le pavé chaque nuit 注5
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis
滞在を禁じられ旅行者としてパリに
ひとは見知らぬ地へと逃亡する
タクシー、ひとは夜ごと街をうろつく
ひとはある人生から別の人生へとさまよう
しかたないこと
Un café sur un quai de gare
Au train bleu, noir c’est noir 注6
Sous les ombres je te cherche
Mais les wagons pleins sont de mèche 注7
Je t’attrape un dernier regard
Il aurait fallu un retard
Pour qu’à mes rails tu t’attaches
Pour qu’on s’apprenne
pour qu’on se sache
駅のプラットホームのカフェ
ブルー・トランで、暗い、その店は暗い
影たちのなかに私はあなたを探す
でも込み合った車両は団子状
私はあなたを最後に見つける
時間の猶予が必要だったのよ
私のレールにあなたが引き込まれるには
私たちがおたがいを知るには
私たちがおたがいを理解するには

Un perrier rondelle sur la butte 注8
Nos souvenirs accusent la chute
Et reviennent en reflet reluire
Dans mon dos drapé de cuir
Relire sans fin tes missives
Empreintes de tes mains attentives
Trop d’images sous mon front brûlant
Nos clichés je te les rends
モンマルトルでソーダ水を1杯
私たちの想い出は消失するかに見え
そして再び燦然と輝くようになる
革着をまとった背中で
あなたの手紙を何度となく読み返す
あなたの慎重な手の跡
私の燃える額の裏に幾多の心象が浮かぶ
私たちのネガをあなたに返すわ

Paris en touriste chez l’interdit
En terre inconnue on se fuit
Taxi, on bat le pavé chaque nuit
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis
滞在を禁じられ旅行者としてパリに
ひとは見知らぬ地へと逃亡する
タクシー、ひとは夜ごと街をうろつく
ひとはある人生から別の人生へとさまよう
しかたないこと
Paris en touriste chez l’interdit
En terre inconnue on se fuit
Taxi, on bat le pavé chaque nuit
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis
Taxi, on mord le pavé chaque nuit 注9
On erre de l’une a l’autre vie
Tant pis
滞在を禁じられ旅行者としてパリに
ひとは見知らぬ地へと逃亡する
タクシー、ひとは夜ごと街をうろつく
ひとはある人生から別の人生へとさまよう
しかたないこと
タクシー、ひとは夜ごとパヴェをかじる
ひとはある人生から別の人生へとさまよう
しかたないこと
[注] パリにある店の名前などの固有名詞が出てくるが、すべて大文字で書かれていない。
1 Café de Flore「カフェ・ド・フロール」は、戦後の左岸文化人のたまり場だったサンジェルマン大通りのカフェで、現存する。floreは本来、学術用語で「植物相」。大文字のFloreはローマ神話で花と豊穣の春の女神。
2 la Closerie des Lilasはモンパルナスにあるカフェ。closerieには「(農家の周りの)小耕地」と「(19世紀にパリで公園に設けられた)舞踏会場」の意味がある。
3 interditは名詞として、民法の「禁治産者」と、刑法の「滞在禁止者」の両義があり、後者を選んだ。chezは「…の家に、」ではなく「…にあっては」で、住むことが禁じられた身で、en touriste「観光客として」パリにいる、ということか。
4 onは「私たち」とせず「(不特定の)ひと」として訳した。
5 battre le pavé直訳すれば「舗道を叩く」だが、「街のあちこちをうろつく、ほっつき回る」こと。
6 Le Train Bleuは1900年代に作られたリヨン駅構内にあるベルエポック調のレストラン。古いクラシックな「青列車」すなわち北フランスのカレーあるいはパリと南フランスのコート・ダジュール(リヴィエラ)地方を結んでいた「夜行列車」をも言うので、あとの行では列車の話に変えてles wagons車内と表現し、mes rails「私のレール」という言葉も用いている。
7 話し言葉でêtre de mèche avec qn.「…と共謀する、ぐるになる」という表現があり、団子状に混み合った様子を表わしているのだろう。
8 Perrier Rondelle「ペリエ・ロンドル」は炭酸飲料。la butte「丘」はパリではMontmartre「モンマルトル」の代名詞。
9 battre le pavé(注5参照)のbattre「叩く」をmordre 「かじる」に変えている。pavéは「舗道」の意味のほかに、チーズやケーキなどを敷石状にかたどった料理「パヴェ」の意味がある。
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