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2014
10.29

リラの門の切符切りLe poinçonneur des Lilas

Serge Gainsbourg Le poinçonneur des lilas


「リラの門Porte des Lilas」というルネ・クレールRené Clair監督の1956年の映画をご存知でしょうか。地下鉄3号線の終点のリラの門駅Porte des Lilasのプラットホームの壁にはこの映画に主演したジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensの肖像画が飾られています。

1958年のセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgのデビュー作は、この駅の切符切りが主人公の「リラの門の切符切りLe poinçonneur des Lilas」。この曲は、あるとき改札係に「なにか望みは」と尋ねたところ、「空が見たい」と答えたことから生まれたとか。どの駅でもよかったでしょうに、この駅を選んだのはこの映画を意識してのことだったかもしれません。歌詞のなかで繰り返されるtrous(穴)という語は、いわずもがなゲンズブール流の性的な隠喩。自動改札に慣れた私たち、切符切りなんて仕事があったことも忘れてしまっていますね。

来たる11月2日の《ゲンズブールを歌う》 は、歌い手10人のうち9人までが女性。唯一の男性である宇藤カザンが、この曲を歌います。



Le poinçonneur des Lilas         リラの門の切符切り
Serge Gainsbourg            セルジュ・ゲンズブール


J'suis le poinçonneur des Lilas
Le gars qu'on croise et qu'on ne regarde pas
Y a pas de soleil sous la terre, drôle de croisière
Pour tuer l'ennui, j'ai dans ma veste
Les extraits du Reader's Digest
Et dans ce bouquin y a ecrit
Que des gars se la coulent douce à Miami 注1
Pendant ce temps que j'fais le zouave 注2
Au fond de la cave
Parait qu'il y a pas de sots métiers 注3
Moi j'fais des trous dans les billets

  僕はリラの門の切符切り
  人がすれ違っても目も向けない若造さ
  地下には太陽はなく、
  退屈しのぎの奇妙な周遊、上着のポケットには
  リーダーズ・ダイジェストの
  ダイジェスト版
  この本には書かれている
  マイアミでは若者たちはぬくぬくと暮らしていると
  僕がこの穴ぐらの奥で
  つまらんことをしているあいだ
  馬鹿げた仕事はないというが
  僕ときたら切符に穴を開けているのさ

Le poinçonneur des lilas1


J'fais des trous, des p'tits trous, encore des p'tits trous
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous
Des trous de seconde classe, des trous de premiere classe.

  僕は穴を開ける、ちっちゃな穴、またちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴
  二等車の穴、一等車の穴。

J'fais des trous, des p'tits trous, encore des p'tits
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous
Des petits trous, des petits trous, des petits trous, des petits trous

  僕は穴を開ける、ちっちゃな穴、またちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴。

J'suis le poinçonneur des Lilas,
Pour Invalides changer à l'Opéra,
J'vis au cœur de la planète
J'ai dans la tête un carnaval de confettis
J'en ammene jusque dans mon lit.
Et sous mon ciel de faïence
J'n'vois briller que les correspondances

  僕はリラの門の切符切り、
  アンヴァリッドへはオペラで乗換え、
  僕はこの星の奥底に住み
  頭の中は紙吹雪舞うカーニヴァル
  それをベッドにまで持ち込む。
  陶製の空の下では
  乗換え案内板が光ってるのしか見えやしない

Parfois j'rêve, j'divague, j'vois des vagues 注4
Et dans la brume au bout du quai 注5
J'vois un bateau qui vient m'chercher

  しばしば僕は夢を見る、妄想にひたる、波のようなものが見える
  そしてプラットホームの埠頭の奥の霧の中に
  僕を探しに来た船が見える

Pour sortir de ce trou, je fais des trous
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous

  この穴から抜け出すために、僕は穴を開ける
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴

Le poinçonneur des lilas3


Mais le bateau se taille
Et je vois que je déraille 注6
Et je reste dans mon trou à faire des p'tits trous
Des petits trous, des petits trous, des petits trous, des petits trous

  だけど船はずらかっちまい
  僕は本筋からずれちまった自分に気づき
  元の穴ぐらでちっちゃな穴を開け続ける
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴

J'suis le poinçonneur des Lilas,
Arts et Métiers direct par Levallois
J'en ai marre, j'en ai ma claque de ce cloaque. 注7
J'voudrais jouer la fille de l'air 注8
Laisser ma casquette au vestiaire.

  僕はリラの門の切符切り、
  ルヴァロワ経由アール・ゼ・メティエ直通
  もうたくさんだ、この掃き溜めにはうんざりだ。
  僕は逃げ出したい
  制帽をロッカーに置き去りにしたいんだ。

Le poinçonneur des lilas2


Un jour viendra, j'en suis sur
Où je pourrai m'évader dans la nature
J'partirai sur la grand route
Et coûte que coûte 注9
Et si pour moi il est plus temps
J'partirai les pieds devant. 注10

  僕は確信する
  大自然の中に脱出できる、そんな日が
  きっと来ると
  僕は大旅行に出発するんだ
  どんな犠牲を払ってもね
  でも僕にそのチャンスがないなら
  僕は死出の旅路につくさ。

J'fais des trous, des p'tits trous, encore des p'tits trous
Des p'tits trous, des p'tits trous, toujours des p'tits trous

  僕は穴を開ける、ちっちゃな穴、またちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、いつもちっちゃな穴

Y a d'quoi devenir dingue 注11
De quoi prendre un flingue.
S'faire un trou, un p'tit trou, un dernier p'tit trou.
Un p'tit trou, un p'tit trou, un dernier p'tit trou

  気が狂うにもそれなりの訳があるし
  はじきを使うのにもね。
  自分に穴を開けるのさ、ちっちゃな穴、最後のちっちゃな穴
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、最後のちっちゃな穴

Et on me mettra dans un grand trou.
Et j'n'entendrais plus parler de trous
Des petits trous, des petits trous
Des petits trous, des petits trous

  そして僕は大きな穴に入れられるだろう。
  そしてもう穴についての話も聞くことはないだろう
  ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴、ちっちゃな穴

Le poinçonneur des lilas4


[注]
1 se la couler douce「安穏に暮らす」
2 faire le zouave「からいばりをする、無駄なことをする」
3 Il y a pas de sots métiers, il n’y a que de sottes gens.「ばかげた仕事はない、ばかげた人がいるだけだ」という諺がある。
4 vague「波」あるいは「虚空」のほか、「はっきりしない、不明瞭な」という形容詞とその意味の名詞がある。夢や妄想のような「はっきりしないもの」に「波」の意味を同時に重ねているようだ。
5 quai 駅の「プラットホーム」、港の「埠頭」。二つの意味を重ねている。
6 dérailler本来は「脱線する」の意味だが、「常軌を逸する、調子が狂う」の意味でも用いられる。地下鉄のレールという意味合いを持たせつつ後者の意味で用いられているようだ。
7 en avoir marre「もうたくさんだ、飽き飽きする」。en avoir sa claque「がっくりする、うんざりする」
8 jouer la fille de l'air「逃げ出す、風をくらう」
9 coûte que coûte「どんな犠牲を払っても」
10 les pieds devant出棺の時、足が先になることから、partir(sortir) les pieds devant「埋葬される、死ぬ」
11 de quoi+inf.「…するのに必要なもの」「…する理由、値打ち」



コメント
ありがとうございます。
この曲について、これほど丁寧で素晴らしいページがあるとは感激です。
昨年はゲンズブールが生まれたシテ島のHotel Dieu Hospitalに宿泊しました。
釈迦に説法恐縮ではありますが、ノートルダム寺院眼前のこの病院の屋根裏にホテルがあります。
そして今年は14区Rue d'Alésiaのホテルに宿泊し、ゲンズブールが通ったモンパルナスの美術学校に二週間デッサンに通いました。
毎日ゲンズブールが眠るモンパルナス墓地の真ん中を突っ切るRue Emile Richardを歩いて通学しました。
不勉強で、これらのゲンズブールゆかりについては全て後で知りました。
ブリジット・バルドーやジェーン・バーキン相手に"Je t'aime... moi non plus"なんてやり取りを作って歌って許される男は彼以外にいるだろうか?カバーする勇気のある歌手はいるだろうか?と考えると、改めて彼の特別な存在性に感服し、子供時代に無数に耳に入って染み込んでいるフランス・ギャル「夢見るシャンソン人形」の作者だと知っていながら、せっかく同時代にいられたというのに彼の生前に殆ど目を向けていなかったことが悔やまれます。
我が家では最近俄かにゲンズブール再評価ブームが沸き起こり、延いてはシャンソンをよく聴くようになりました。
今後もたくさん良いシャンソンをご紹介ください。
次回訪仏時には、ゲンズブール邸のあるRue de Verneuilを通ってみたいと思っております。
無造作凡人dot 2017.12.20 00:18 | 編集
コメントありがとうございます。
お名前はひょっとして、「アクワボニスト(無造作紳士)L'aquoiboniste」に関連があるのでしょうか?

ゲンズブールは本当に天才ですね。言葉遊びだけではなく、美しい歌もたくさんあります。

私は、インターネットと書物のなかだけ訪ね歩いておりますので、実地を訪ね歩かれるのはうらやましいです。
Rue de Verneuilに行かれたら、そのご経験をまたお知らせください。
朝倉ノニーdot 2017.12.25 10:08 | 編集
朝倉様、クリスマスの日にご返事のプレゼントをいただき、感激しております。
ゲンズブール絡みの気の利いたハンドルネームをと考えたのですが、詰まらないものになってしまいました。
おっしゃる通りアクワボニストに因みましたが、彼に対しては自分はまさに凡人、そんな言葉が浮かびました。

詰まらないお話を重ねてしまいますが、私はかれこれ半世紀あまり縷縷クラシックピアノを下手くそながらやっておりまして、その筋から気付いたことがあります。

時折語られる美学校出身の音楽家についてですが、中でも天才と言われる人たちには共通点があると思うのです。

ポール・マッカートニー、松任谷由実、そしてゲンズブールが思い浮かぶのですが、彼らはクラシックから現代の様々な芸術・文化まで、非常に熱心な研究家だということで、この辺りに音楽アカデミズム出身の方たちと異なる、彼らの不思議さのミソがあるのではないかと感じるのです。

ビートルズの楽曲中唯一フランス語のフレーズが登場する「ミッシェル」は、ポール・マッカートニーがビゼー(勿論フランス人作曲家)を研究して和声進行に取り入れたと言っています。

松任谷由実、、、当時は荒井由実さんのデビュー曲「ひこうき雲」はバッハの「G線上のアリア」とプロコル・ハルム「青い影」が元になっているというようなことをご本人がおっしゃています。

ゲンズブールがジェーン・バーキンに提供した「ジェーン・B」は、申すまでもなくショパンの前奏曲4番です。

これら三曲は彼らのクラシックへの造詣を表すことの他に、「クリシェ」が印象的に使われているという共通点もあります。
本来「常套句」という意味のクリシェですが、音楽では和音の一部が変化する進行、大抵は低音が概ね半音ずつ下がっていく和声進行ですが、厳かで悲劇的で、生や死について感じる宗教的な空気に包まれます。
長い訓練を経た音楽畑の作曲家はおそらく考えつかないシチュエーションにこれを当てており、それは広範な知識と直感の交差点のような感じがします。

ゲンズブールの美学生時代の事はあまり紹介されていないのですが、私が短期留学しました学校の資料にかつての在校生の1人として確かに書かれてありました。
おそらく長くは通っていなかったと思われます。
それにしましても、本当にこの世紀の天才の存在にどうして今まで気づかなかったのか、我が凡人ぶりが哀しく可笑しいです。

長々と僭越を申してしまいました。
事情で次回の訪仏が何時になるのか見通せない状態なのですが、世界中のどこにも無い磁力を持った奇跡の街パリの奇跡の人の家を必ずや訪れたいと思います。
無造作凡人dot 2017.12.27 13:13 | 編集
すばらしいご意見、拝読しながらお返事できないでおりました。
私は、ポール・マッカートニーの「ワーキング・クラシック」という自作のクラシック音楽のCDを以前購入して聴いておりました。
ゲンズブールの作品は、クラシック音楽をアレンジした曲が幾つもありますね。「ジェーン・B」のほか、「ロースト・ソングLost song」「公園を通りすぎる憂うつDépression au-dessus du jardin」など思いつきますが、ほかにもあるかもしれません。
松任谷由実さんはあまり知らないのですが、「中央フリーウェイ」の歌詞にあるビール工場のすぐ近くに住んでおりますので、以前から気にはなっていました。これを機にいろいろ聴いてみたいと思います。

ブログ「アミカル・ド・シャンソン」http://lapineagile.blog.fc2.com/のオーナーで私のパートナーの宇藤カザンも、本業が水彩画家で若い頃パリに留学し、その後長年フランスに住んでいました。ずっとクラシック音楽が好きで、イイ歳になってからシャンソンにのめり込み始めました。無造作凡人さんと共通点が多いようですから、ぜひ彼のブログも覗いてみてください。
朝倉ノニーdot 2018.01.11 08:11 | 編集
追加します。ジェーン・バーキンの「鬱Dépressive」もそうでした。忘れているものがまだあるかもしれません。
朝倉ノニーdot 2018.01.11 08:32 | 編集
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