
ジルベール・ベコーGilbert Becaudの「ナタリーNathalie」(1964年 作詞:ピエール・ドラノエPierre Delanoë、作曲:ジルベール・ベコーGilbert Becaud)は、舞台がロシアで、ロシア民謡の「カリンカКалинка」のメロディーが挿入されたステキな曲です。フリオ・イグレシアスJulio Iglesiasがスペイン語で歌っている「黒い瞳のナタリーNathalie」(1982年) は原語のタイトルは同じですがまったく別の曲。でもロシア民謡の「黒い瞳Очи чёрные」をもとにして作られた曲なので、こちらもまたロシアに縁があります。
ナタリーNathalieとは、英語、フランス語、ドイツ語の女性名で、南欧から東欧にかけて広く見られるナタリアNataliaの異型とされます。この曲ではロシア人のガイドの名前ですから、本来ならナターリャNatalyaまたはナターシャNatashaとなるはず。でもフランス人の旅行者である男性の立場の歌詞にするため、あえてフランス風にしているのでしょう。
ドラノエによると、最初は「ナターシャ」という名にしていたこの曲をベコーが受け入れるまで1年かかったそうです。ベコーはドラノエが用意した歌詞を何度もはねつけ、「もっと強いイメージを作り出せ!」と言ったそうです。そこで、出だしを現在の形にして見せたところ、すぐさま彼はピアノに向かい、1時間で曲が出来上がった、ということです。1965年のアルバム:La Vie d'garçonに収録。
Nathalie ナタリー
Gilbert Becaud ジルベール・ベコー :
La place Rouge était vide 注1
Devant moi marchait Nathalie
Il avait un joli nom, mon guide
Nathalie
赤の広場はがらんとしていた
僕の前をナタリーが歩く
僕のガイドはすてきな名だ
ナタリー
La place Rouge était blanche
La neige faisait un tapis
Et je suivais par ce froid dimanche
Nathalie
赤の広場は真っ白で
雪が絨毯のようだった
そして僕はこの寒い日曜日
ずっとついて歩いた
ナタリーに

Elle parlait en phrases sobres
De la révolution d’octobre 注2
Je pensais déjà
Qu’après le tombeau de Lénine 注3
On irait au cafe Pouchkine 注4
Boire un chocolat
彼女は簡潔な言葉で
十月革命について話してくれた
僕はもう考えていた
レーニン廟の次は
カフェ・プーシュキンに
ココアを飲みに行きたいと
La place Rouge était vide
J’ai pris son bras, elle a souri
Il avait des cheveux blonds, mon guide
Nathalie, Nathalie...
赤の広場はがらんとしていた
僕は彼女の腕を取り、彼女は微笑んだ
僕のガイドはブロンドだった
ナタリー、ナタリー…
Dans sa chambre à l’université
Une bande d’étudiants
L’attendait impatiemment
On a ri, on a beaucoup parlé
Ils voulaient tout savoir
Nathalie traduisait
大学の彼女の部屋に
学生たちが集まり
彼女を待ちかねていた
僕らは笑い、いっぱい話した
彼らはなんでも知りたがり
ナタリーは通訳した

Moscou, les plaines d’Ukraine
Et les Champs-Élysées
On a tout melangé
Et l'on a chanté
モスクワも、ウクライナ平原も
シャンゼリゼ通りも
僕らは混ぜこぜにして
僕らは歌った
Et puis ils ont débouché
En riant à l’avance
Du champagne de France
Et l'on a dansé
それからまず彼らは笑いながら
フランスのシャンペンの
栓を抜いた
そして僕らは踊った

Et quand la chambre fut vide
Tous les amis etaient partis
Je suis resté seul avec mon guide
Nathalie
仲間たちがみんな去って
部屋はからっぽになり
僕はガイドと二人だけになった
ナタリーと
Plus question de phrases sobres
Ni de révolution d’octobre
On n’en était plus là
Fini le tombeau de Lenine
Le chocolat de chez Pouchkine
C’est, c’était loin déjà
簡潔な説明も
十月革命も
もう関係ない
心はもはやそこになかった
レーニン廟もおしまい
プーシュキンの店のココアも
それは、すでに遠い話

Que ma vie me semble vide
Mais je sais qu’un jour à Paris
C’est moi qui lui servirai de guide
Nathalie, Nathalie
人生がなんと空しく感じられることか
でも僕には分かっているいつの日かパリで
彼女のガイドになるのは僕なんだと
ナタリー、ナタリー
[注]
1 La place Rouge「赤の広場」ロシアの首都モスクワの都心部にある広場
2 révolution d’octobre「十月革命」は、1917年ユリウス暦10月25日、当時のロシアの首都ペトログラードで起きた労働者や兵士らによる武装蜂起を発端として始まった革命。続いてロシア内戦が起こり、その結果1922年に史上初の共産主義国家であるソビエト連邦が誕生した。
3 le tombeau de Lénine「レーニン廟」は「赤の広場」にあり、レーニンの遺体に保存処理(エンバーミング)が施され祭られている。ミッシェル・サルドゥーMichel Sardouの「ウラジーミル・イリイチVladimir Ilitch」参照。
4 le cafe Pouchkine「カフェ・プーシュキン」ロシアの詩人プーシュキンの名を店名としたモスクワのカフェ。ザーズZazの「オニラ On ira」http://chantefable2.blog.fc2.com/blog-entry-813.html参照。
Comment:1
コメント
映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』を観に行ったら、冒頭で流れていました。フランス語が流れると思ってなかった映画だったので、ビックリ。気になって後で検索して、こちらにたどり着き、歌手名なども分かってすっきりしました。
さひぐー
2018.12.12 22:22 | 編集
