
セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作りジェーン・バーキンJane Birkinが歌った曲を続けます。「アクワボニスト(無造作紳士)L'aquoiboniste」です。1978年のアルバム「想い出のロックン・ローラーEx-Fan des Sixties」に収録され、1999年に、TBSドラマ「美しい人」の主題歌に使用されて日本でも知られるようになりました。11月2日の《ゲンズブールを歌う》で、私はこれも歌います。
この曲も「ロスト・ソングLost song」や前回の「コワQuoi」同様、ゲンズブール自身のようなアナーキーな性格の男と付き合っている女性の立場の歌詞ですが、この曲では、「いいかげんにしてよ」とはまだ思っていなくて、「彼ってこんな人なのよ」とのろけているような内容。この男のモデルはゲンズブール自身ではなくて、フランソワーズ・アルディFrançoise Hardyのダンナのジャック・デュトロンJaques Dutroncだそうです。ですから、アルディの立場の歌詞ということになりますね。(歌詞中の画像はゲンズブール。)
原題のL'aquoibonisteは造語で日本語に訳しにくいので「コワ」同様にカナ表記の「アクワボニスト」を邦題にしました。どんな人なのかは歌詞が語っていますので。「無造作紳士」って誰が考えたのでしょう、「無頓着紳士」としたほうが近い気がしますが…。ともかく定着していますし、なかなかインパクトがあって面白いので副題といたしましょう。
L'aquoiboniste アクワボニスト(無造作紳士)
Jane Birkin ジェーン・バーキン
C'est un aquoiboniste 注1
Un faiseur de plaisantristes 注2
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Un modeste guitariste
Qui n'est jamais dans le ton
À quoi bon
彼はアクワボニスト
ふざけてばかりいるヒト
なんにもならない
なんにもならないといつも言って
アクワボニスト
さえないギタリスト
いつだって調子っぱずれで
なんにもならない

C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Un peu trop idéaliste 注3
Qui répèt' sur tous les tons
À quoi bon
彼はアクワボニスト
ふざけてばかりいるヒト
なんにもならない
なんにもならないといつも言って
アクワボニスト
ちょっとあまりにもイデアリスト
あらゆる口調でくり返すヒト
なんにもならないと
C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Un drôl' de je m'enfoutiste 注4
Qui dit à tort à raison 注5
À quoi bon
彼はアクワボニスト
ふざけてばかりいるヒト
なんにもならない
なんにもならないといつも言って
アクワボニスト
とんでもなく無頓着なヒト
間違っていても正しくても言うのよ
なんにもならないと

C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Qui s'fout de tout et persiste 注6
À dire j'veux bien mais au fond 注7
À quoi bon
彼はアクワボニスト
ふざけてばかりいるヒト
なんにもならない
なんにもならないといつも言って
アクワボニスト
なんでもばかにするくせに こだわるヒト
はい喜んでと言うことに でも本音は
なんにもならない
C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Qu'a pas besoin d'oculiste 注8
Pour voir la merde du monde
À quoi bon
彼はアクワボニスト
ふざけてばかりいるヒト
なんにもならない
なんにもならないといつも言って
アクワボニスト
目医者なんていらないヒト
腐った世界見たって
なんにもならないさ
C'est un aquoiboniste
Un faiseur de plaisantristes
Qui dit toujours à quoi bon
À quoi bon
Un aquoiboniste
Qui me dit le regard triste
Toi je t'aime, les autres ce sont
Tous des cons
彼はアクワボニスト
ふざけてばかりいるヒト
なんにもならない
なんにもならないといつも言って
アクワボニスト
わたしに哀しい目で語るヒト
きみが好き、他の人は
みんな馬鹿だよと

[注]繰り返し部分は、文字の色を変えた。
ゲンズブール特有の言葉遊びで造語が多く用いられているので、厳密な訳は不能。その点は了承願いたい。
1 タイトルでもあるaquoibonisteは、à quoi bon「何になる?何にもならない」に…iste「…する人」の語尾をつけて作られた造語。言葉遊びを活かしたいということで、歌詞中でもカナ表記した。quoiが中に含まれた語でありアコワボニストという表記も考えられるが、「コワQuoi」の注1に書いたように発音記号は[qwa]なのでアクワボニストとした。同じisteの語尾を付けたほかの造語は、少々語呂を合わせて「…ヒト」という表現を用いた。
2 faiseur de +無冠詞名詞「…を繰り返す人」plaisantristesはplaisantrie「冗談、悪ふざけ」の語尾をisteに変えた造語。「…する人」という意味は加わらない。
3 idéaliste「観念論者、理想主義者」だが、訳語は読みのカナ書きで「イデアリスト」とした。
4 drôleは形容詞の名詞的用法で、drôle de+無冠詞名詞で「変な」という意味。je m'enfoutiste全体がその無冠詞名詞の部分で、se foutre de…「…を馬鹿にする」を元に、isteを付けて作った造語。
5 à tort「間違った」à raison「正しい」à tort ou à raisonで「是非はともかく」
6 persisteはpersisterの活用語尾がそのまま、aquoibonisteと同じ形。
7 j’veux bienは言う内容で、本来なら引用符で囲むべき部分。最後の節でも同様の箇所がある。
8 Qu’a pas=Qui n’a pas
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