
「小さな紙切れLes petits papiers」は、1997年にセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgがローラン・ヴールズィーLaurent Voulzyの協力で女性歌手レジーヌRégineのために作りました。ただの言葉遊びのようなものだったこの曲が、のちに大きな役割を担うようになろうとは、ゲンズブールには想像し得なかったことでしょう。
まず、1999年に小さなNGO団体GISTI(移民支援情報グループ)が開いたコンサートで、支援CD録音のために集ったロックバンドのノワール・デジールNoir Désirらがこの歌を抗議の歌として歌いました。
そして2007年9月4日、ジェーン・バーキンJane Birkin、レジーヌなどが、当時の移民相エリック・ベッソンのいる窓の下で、この歌を歌いました。レジーヌはもともと、ニコラ・サルコジと親しかった人で、大統領選でも積極的に支持していました。しかし、その夏の「ロマ狩り」が始まるや、サルコジの移民政策に賛同できなくなり、バーキン等の反対派と共に歌うことになったのです。滞在許可(紙切れpapier)がない人たち、つまり「サン・パピエsans papier」の人たちのための歌として、この曲「小さな紙切れLes petits papiers」が選ばれたわけです。
この音楽による抗議は、フランスとヨーロッパの130の都市で行われるデモの幕開けとなり、またそれは9月18日にベルシーで行われるコンサート" Rock Sans Papiers"の宣伝でもありました。コンサートには多くのアーティストが参加し、デモでは市民団体などが、フランス政府の「外国人嫌いxénophobie」を告発するように呼びかけました。
こうした情報は、私の大好きなブログ「カストル爺の生活と意見」などに詳しく書かれていて、その2回の抗議の歌の動画も掲載されています。
抗議の歌としてはそちらでご覧いただくこととして、ここでは楽しんで歌える歌としてご紹介しましょう。11月2日のプティ・コンセール《ゲンズブールを歌う》では、この曲の歌い手の高岡さんは会場の皆さんにも声を出してもらおうと考えているようですよ。
ジェーン・バーキンと旦那のゲンズブール、そしてジェーンの親しい友人フランソワ・アルディFrançoise Hardyの旦那のジャック・デュトロンJacques Dutroncの3人。
御本家のレジーヌの歌はこちら
Les petits papiers 小さな紙切れ
Régine レジーヌ
Laissez parler
Les p’tits papiers
A l’occasion 注1
Papier chiffon
Puissent-ils un soir 注2
Papier buvard
Vous consoler
しゃべらせよう
小さな紙切れに
時には
紙くずにも
彼らがいつかの夜に
吸い取り紙も
あんたたちを癒してくれるといいね

Laisser brûler
Les p’tits papiers
Papier de riz 注3
Ou d’Arménie
Qu’un soir ils puissent 注4
Papier maïs
Vous réchauffer
燃やそう
小さな紙切れを
ライス・ペーパー
あるいはアルメニア紙
彼らがいつかの夜に
トウモロコシ紙も
あんたたちを暖めてくれるといいね
Un peu d’amour 注5
Papier velours
Et d’esthétique
Papier musique
C’est du chagrin
Papier dessin
Avant longtemps
少しの愛が
滑らかな紙に
そして美が
楽譜の紙に
それは哀しみ
デッサンの紙に
そのうち表れるのは

Laissez glisser
Papier glacé
Les sentiments 注6
Papier collant
Ça impressionne
Papier carbone
Mais c’est du vent 注7
滑らせよう
光沢紙を
恋愛感情さ
糊付きの紙は
写すものさ
カーボン紙は
だが当てにはならない
Machin Machine 注8
Papier machine
Faut pas s’leurrer
Papier doré
Celui qu’y touche
Papier tue-mouches
Est moitié fou
なにがし君 なにがし嬢
機械の紙
騙されちゃいけないよ
金色の紙には
ハエ取り紙に
さわるヤツは
半ば狂ってる
C’est pas brillant
Papier d’argent
C’est pas donné
Papier-monnaie
Ou l’on en meurt
Papier à fleurs
Ou l’on s’en fout
ギンギラじゃないよ
銀紙は
タダじゃないよ
お札の紙は
人はそのせいで死ぬのさ
花模様の紙は
人は気にもかけないさ

Laissez parler
Les p’tits papiers
A l’occasion
Papier chiffon
Puissent-ils un soir
Papier buvard
Vous consoler
しゃべらせよう
小さな紙切れに
時には
紙くずにも
彼らがいつかの夜に
吸い取り紙も
あんたたちを癒してくれるといいね
Laisser brûler
Les p’tits papiers
Papier de riz
Ou d’Arménie
Qu’un soir ils puissent
Papier maïs
Vous réchauffer
燃やそう
小さな紙切れを
ライス・ペーパー
あるいはアルメニア紙を
彼らがいつかの夜に
トウモロコシ紙も
あんたたちを暖めてくれるといいね

[注]
1 à l’occasion「機会があれば」。d’occasionだと「中古の」で、この意味も含ませたい表現のようだ。
2 Puissent-ilsは、接続法であり、Queを先立てない願望文。古い言い回しの名残と説明される。
3 燃やすということに関連させて、いろんな材質の紙を挙げている。papier de riz「ライス・ペーパー」はタバコ、マリファナに、papier d’Arménie「アルメニア紙」は、お香などに用いられる。トウモロコシ紙はスピーカー用ほか多用途に。これらは、心を暖めてくれると言いたいようだ。
4 Que+接続法で願望をあらわしている。
5 この節は、芸術方面で精神面に与える作用をテーマにしている。
6 les sentimentsは複数なので、「思いやり」あるいは「恋愛感情」となる。papier collant「糊付きの紙」というニュアンスから「恋愛感情」を選んだ。
7 c’est du vent「そうなる見込みはない、それはから約束だ」
8 machin「(名前が分からない)なんとかいう物(人)」。人の場合は大文字。女性の場合は Machineで、machine「機械」と同じ綴りになる。タイプライター、ミシン、車も単にmachineと言うので、papier machine「機械の紙」とはタイプライターの用紙と思われる。
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