
前回、イザベル・アジャーニIsabelle Adjaniの「マリン・ブルーのセーターPull marine」を取り上げましたが、ジェーン・バーキンJane Birkinがセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgに、自分もその曲を歌いたいと言ったところ、その代わりにとゲンズブールが書いたのがこの、Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauveです。アラン・シャンフォールAlain ChamfortとミッシェルMichelも制作に加わり、前々回取り上げた「バビロンの妖精Baby Alone in Babylone」と同じアルバム:Baby Alone in Babylone(1983年)に収録されています。「虹の彼方」という邦題で知られていますので、それをサブタイトルとし、原題の意味に即した「しあわせは逃げていく」をメインタイトルとしました。
たしかに、歌詞のなかにover the rainbowという言葉が英語のままで入っていて、ゲンズブールは、映画「オズの魔法使いThe Wonderful Wizard of Oz」で主役のジュリー・ガーランドJudy Garlandが歌った「虹の彼方にOver the Rainbow」を意識して作ったようです。
ジェーン・バーキン「しあわせは逃げていく(虹の彼方)
Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve」
Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve しあわせは逃げていく(虹の彼方)
Jane Birkin ジェーン・バーキン
Fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve 注1
que le ciel azuré ne vire au mauve
penser ou passer à autre chose
vaudrait mieux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと
青い空が薄紫に変わりやしないかと恐れていると
ほかのことを考えるかほかのことに移った
ほうがいいわ
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow 注2
toujours plus haut le soleil above
radieux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
虹の彼方には
常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
燦々と輝いて

croire aux cieux croire aux dieux
même quand tout nous semble odieux
que notre cœur est mis à sang et à feu
天を信じ神を信じることよ
私たちの心が血にそして炎にまみれて
すべてが私たちには耐え難く思えるときも
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
comme une petite souris dans un coin d’alcôve 注3
apercevoir le bout de sa queue rose
ses yeux fiévreux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
寝室の隅にいる小さなネズミみたいに
そのピンクのしっぽの先や
不安げな目に気づくことね
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow
toujours plus haut le soleil above
radieux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
虹の彼方には
常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
燦々と輝いて

croire aux cieux croire aux dieux
même quand tout nous semble odieux
que notre cœur est mis à sang et à feu
天を信じ神を信じることよ
私たちの心が血にそして炎にまみれて
すべてが私たちには耐え難く思えるときも
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
avoir parfois envie de crier sauve
qui peut savoir jusqu’au fond des choses
est malheureux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
ときどき叫びたい欲求を持つことは助けてくれる
事物の内奥まで知ることのできる人は
不幸だわ
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow
toujours plus haut le soleil above
radieux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
虹の彼方には
常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
燦々と輝いて

croire aux cieux croire aux dieux 注4
même quand tout nous semble odieux
que notre cœur est mis à sang et à feu
天を信じ神を信じること
私たちの心が血にそして炎にまみれて
すべてが私たちには耐え難く思えるときも
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
dis-moi que tu m’aimes encore si tu l’oses
j’aimerais que tu te trouves autre chose 注5
de mieux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
あなたが私をまだ愛していると言ってよ もしあなたがそうして下さるなら
あなたは今よりもっとましな
人になってもらいたいわ
fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve
se dire qu’il y a over the rainbow
toujours plus haut le soleil above
radieux
しあわせは逃げていく それが逃げやしないかと恐れていると
虹の彼方には
常にずっと上のほうに太陽があると言われるわ
燦々と輝いて

[注] イヴ・デュテイユYves Duteilの「子供を抱いてPrendre un enfant」と同様、不定詞を多用した歌詞。
1 de peur que+sub.「…することを恐れて」。neは虚辞。
2 over the rainbowと次行のaboveは英語。ちなみにバーキンはイギリス人。
3 alcôve「アルコーヴ」とは、寝台を納めるための凹処。
4 cieuxはcielの複数形で、「(神のいる)天、天理、天国、神」といった意味。
5 se trouver「(ある状態に)なる」[自分を…と思う、感じる]。autre choseは人の場合にも用いられる。
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