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2016
07.08

幸せな愛はないIl n'y a pas d'amour heureux

Il ny a pas damour heureux


「幸せな愛はないIl n'y a pas d'amour heureux」 は、1943年に書かれたルイ・アラゴンLouis Aragonの詩。アラゴンは「愛」の概念を「絶対に到達不能のものun absolu inaccessible」として描きました。なかでも最後の節は、レジスタンス運動につながる内容を込められたものとなっています。この詩は、最後の節を除き、ジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensによって、彼独特の祈りを込めたメロディーに乗せてシャンソンとして歌われ、その後、さまざまなアーティストによって 60 回以上も歌われました。例えば、ユーグ・オーフレイHugues Aufray、バルバラBarbara、カトリーヌ・ソヴァージュCatherine Sauvage、ニーナ・シモンNina Simone、フランソワーズ・アルディーFrançoise Hardy、ケレン・アンKeren Annそして、映画「8人の女たち Huit Femmes」のなかのダニエル・ダリューDanielle Darrieuxなどです。

ルイ・アラゴン自身の朗読



ジョルジュ・ブラッサンス



ほかは、バルバラだけ選びました。最後、途中で切れているみたいです。



Il n'y a pas d'amour heureux  幸せな愛はない
Georges Brassens        ジョルジュ・ブラッサンス


Rien n'est jamais acquis à l'homme 注1
Ni sa force, ni sa faiblesse, ni son cœur
Et quand il croit ouvrir ses bras
Son ombre est celle d'une croix
Et quand il veut serrer son bonheur
Il le broie
Sa vie est un étrange et douloureux divorce

  人にはちゃんと獲得し得たものなどまったくなにもない
  自分の強さも、弱さも、心も
  そして自分では腕を広げて迎え入れているつもりでも
  その影は十字架の形をしている
  また幸せをつかみたくても
  それを押しつぶしている
  その人生は奇妙な苦しい離別だ

Il n'y a pas d'amour heureux

  幸せな愛はない

Louis Aragon2


Sa vie, elle ressemble à ces soldats sans armes
Qu'on avait habillés pour un autre destin
A quoi peut leur servir de se lever matin
Eux qu'on retrouve au soir désarmés incertains
Dites ces mots ma vie et retenez vos larmes 注2

  その人生、それは武器のないこの兵士たちに似る
  なにか別の定めのために軍服を着せられた兵士たちに
  朝起きることが彼ら自身になんの役に立つのか
  夕べには武装解除され無力な姿を人目にさらす彼らに
  わが人生よこの言葉を呟いて涙をこらえるがいい

Il n'y a pas d'amour heureux

  幸せな愛はない

Mon bel amour, mon cher amour, ma déchirure
Je te porte dans moi comme un oiseau blessé
Et ceux-là sans savoir nous regardent passer
Répétant après moi ces mots que j'ai tressés 注3
Et qui pour tes grands yeux tout aussitôt moururent

  わが美しき愛よ、わがいとしき愛よ、わが苦痛よ
  私はお前を傷ついた小鳥のように心に抱く
  そして彼らはそんなことも知らずに私たちが通るのを眺める
  私が編み出したこの言葉を復唱しながら
  そして彼らはお前の大きな目に見つめられると即、死に絶えた

Il n'y a pas d'amour heureux

  幸せな愛はない

Louis Aragon4


Le temps d'apprendre à vivre 注4
Il est déjà trop tard
Que pleurent dans la nuit nos cœurs à l'unisson 注5
Ce qu'il faut de regrets pour payer un frisson
Ce qu'il faut de malheur pour la moindre chanson
Ce qu'il faut de sanglots pour un air de guitare

  生きることを学んでいる間に
  時すでに遅し
  私たちの心は夜なかに声を合わせてどれだけ泣くことか
  身の震えを償うのにどれほど悔やまねばならないのか
  ささいな歌にどれほど不幸が必要とされるのか
  ギターの音色にどれほどすすり泣かねばならないのか

Il n'y a pas d'amour heureux

  幸せな愛はない

Il n'y a pas d'amour qui ne soit à douleur 注6
Il n'y a pas d'amour dont on ne soit meurtri
Il n'y a pas d'amour dont on ne soit flétri 注7
Et pas plus que de toi l'amour de la patrie
Il n'y a pas d'amour qui ne vive pleurs 注8

  苦痛を伴わない愛はない
  それによって傷つけられないような愛はない
  それによって罪に問われないような愛はない
  そして祖国への愛は君以上ではないかもしれないが
  涙によって生きることのない愛はない

Il n'y a pas d'amour heureux
Mais c'est notre amour à tous deux

  幸せな愛はない
  だがそれは僕たち二人の愛のことだ

Louis Aragon3


[注]アラゴンはすべて朗読しているが、ブラッサンスが歌っていない部分は色を変えて表示した。
代名詞がそれぞれ何を指すかが分かりづらい歌詞である。その点に関しての私の解釈をまず述べておこう。
1節目では或る男とその人生を語っている。ilはその男。
2節目ではその男の人生を兵士たち(複数)に譬え、私の人生にvousで呼びかけ、Il n'y a pas d'amour heureuxという言葉をつぶやくように命じる。
3節目では、「愛」と「恋人」というamourの二つの意味をかけて、自分の心に抱く愛にtuで呼びかける。ここでは、nousは、「愛を抱いた私」を「私+恋人」風に表現しているようだ。私の人生を、これも兵士たちだということでceux-là「彼ら」と呼び替え、それは私が編み出した言葉Il n'y a pas d'amour heureuxを復唱しながら、tuすなわち私が抱く愛の大きな目に見つめられて死んでしまうという。
後半では、tuは呼びかける相手に、nousは「人間一般」になり、最後の行では、「私+恋人」に。
歌詞全体を通じて、愛は決して人生を幸せにするものではなく、人生がその犠牲になることも覚悟しなければならないという趣旨だが、Il n'y a pas d'amour qui ne soit à douleur以後の節は、それを総括し、祖国への愛もそうした愛のひとつだという。
最後に、それは私たち二人の愛で、その苦しい愛を二人で分かち合おうと締めくくる。
1 acquis à「…に確実に与えられた、正当に所有された」
2 ces mots=ma vieという解釈も可能だろうが、ma vieにvousと呼びかけていて、ces motsは、次行のIl n'y a pas d'amour heureuxであると解釈する。でないと、vousが不明のままになる。
3 このces motsもIl n'y a pas d'amour heureux。
4 Le temps de+inf, …「…している(短い)間に、…。」
5 Que…!, Ce que…!「なんて、どんなに」
6 Il n'y a pas…qui ne soit…主節が否定または疑問の場合、接続法に置かれた関係節あるいは従属節内で「…でない…はない」
7 動詞flétrirには2つの意味がある。「萎れさせる」と「(罪人に)烙印を押す」。形容詞flétriとしては「萎れた、色あせた」の意味がメインだが、ここではon人が主語なので「烙印を押された」という意味を取り上げたい。
8 pleur複数形で「涙」。他動詞としてのvivreの目的語で、観念を表すので無冠詞。



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