2014
10.14

ラ・ジャヴァネーズLa Javanaise

Serge Gainsbourg La Javanaise


「ラ・ジャヴァネーズLa Javanaise」は、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgがジュリエット・グレコJuliette Grécoに捧げた「最高のラブソング」だといわれています。1962年のある夏の夕べ、ゲンズブールはグレコを訪ねて広いサロンでシャンパンを飲みながらレコードを聴いて過ごし、その後に、彼女にこの曲を贈ったそうです。2010年の伝記映画「ゲンスブール*と女たち」(原題:Gainsbourg, vie héroïque)にもそのシーンがありましたね
* Gainsbourgのsは原則的には、この題名のとおり「ス」と読みます。続くbの影響で濁りを受けるので、このブログでは、実際に聞こえるとおりに「ズ」と表記しています。


ゲンズブール



グレコ



題名のLa Javanaiseとは、20世紀初頭に流行したダンスであるジャヴァjavaと、語のなかにvaまたはavを入れて隠語化する言葉遊びであるジャヴァネjavanaisとをかけた造語で、わざと大文字で表記してあります。ジャヴァネjavanaisの例を挙げると、chaussure→chavaussavurave, bonjour→bavonjavourといった具合です。
実際、この歌詞のなかには、vaとavの入った語が多く、子音vと母音aが多用されています。さらにmやn、そしてzなどの粘っこさを持った音も効果的に用い、一種のエロティシズムの表現としているのです。そう、男女がベタベタするって言うじゃありませんか。
つまり、「最高のラブソング」というのは、歌詞の意味が、ということだけじゃないんです。したがって、正確な子音の発音をしないと、この曲の味は出せません。

多くのシャンソンの歌詞は押韻のみならず、子音なり母音なりを統制している気もします。例えば、Prendre un enfant par la mainでは鼻母音が、Moulin Rougeではouの音が目立ちます。La plus belle pour aller danserでは唇を使う子音p、b、m(特にp)の音。それらは題名にすでに現れています。
したがって、日本語に翻案して歌ったのでは、まったく別物になってしまうのです。原語で歌うことの重要性をあらためて力説いたします。

La Javanaise             ラ・ジャヴァネーズ
Serge Gainsbourg          セルジュ・ゲンズブール


J'avoue j'en ai bavé pas vous mon amour 注1
Avant d'avoir eu vent de vous mon amour 注2
Ne vous déplaise en dansant la Javanaise 注3
Nous nous aimions le temps d'une chanson

  実は僕は泡を吹いて苦しんだんだ あなたは違うだろうが モナムール
  あなたの噂を聞くまで モナムール
  はばかりながら、ジャヴァネーズを踊りながら
  僕らは愛し合ったよね 一曲の間

Gainsbourg greco2


A votre avis qu'avons nous vu de l'amour 注4
De vous à moi vous m'avez eu mon amour 注5
Ne vous déplaise en dansant la Javanaise
Nous nous aimions le temps d'une chanson

  あなたとしては僕らは愛から何を得たと思うのか
  ここだけの話だが、あなたは僕に一杯食わせたよ モナムール
  はばかりながら、ジャヴァネーズを踊りながら
  僕らは愛し合ったよね 一曲の間

Hélas avril en vain me voue à l'amour 注6
J'avais envie de voir en vous cet amour
Ne vous déplaise en dansant la Javanaise
Nous nous aimions le temps d'une chanson

  ああ、四月は僕を愛に導いたが、それは虚しく終わった
  僕はあなたのなかにこの愛を見たかった
  はばかりながら、ジャヴァネーズを踊りながら
  僕らは愛し合ったよね 一曲の間

Gainsbourg greco1


La vie ne vaut d'être vécue sans amour 注7
Mais c'est vous qui l'avez voulu mon amour 注8
Ne vous déplaise en dansant la Javanaise
Nous nous aimions le temps d'une chanson

  人生は愛なしには生きるに値しない
  だが、それを望んだのはあなただよ モナムール
  はばかりながら、ジャヴァネーズを踊りながら
  僕らは愛し合ったよね 一曲の間

[注] この歌詞は、歌詞サイトではもっと細かく改行して表記されている。それを分かりやすい形にまとめ直した。
1 en baver「苦しむ」。しかし、baverの「よだれを垂らす、(病気などで)泡を吹く」という原義のニュアンスを残したほうが曲想に合う。pas vous対立を示す問いかけ。
2 avoir vent de qc.「…を風の便りで知る」ことがらについての用法がメインで、人について用いられるのは稀。「あなたの噂を聞くまでは、辛かった」と1行目につながる。「グレコがアメリカから帰った時にこの曲を贈った」とゲンズブールが言っているので、彼女の帰国の噂ということか。
3 déplaiseはdéplaire(…の)「気に入らない」の接続法で、 à ne vous (en)déplaise(多くは皮肉で)「失礼ながら、はばかりながら」。
4 à votre(mon) avis「あなたの(私の)意見では」。voirの過去分詞vuは、ここでは「見出す、経験する」くらいの意味。
5 de vous à moi「ここだけの話だが」。vous m'avez euのeuはavoirの過去分詞で、ここでは「だます、一杯食わせる」の意味。
6 en vain「無駄に、むなしく」→「…したが無駄だった」と訳す方が自然。
7 sans amourという条件での一般論を示している。
8 l'avez vouluのleは前出の内容の代用としての中性代名詞。すなわちsans amour「愛のない状態」つまりは「関係を持たない、別れる」ということであろう。



コメント
 はじめまして。ラ・ジャバネーズの解説は大変参考になりました。
 訳詞はWEBで通覧してきましたが、「ラ・ジャバネーズ」の語そのものの意がわからないまま、検索し、尋ねたりの10数年でした。そして今「20世紀初頭」から始まるご説明に期待以上の空の青さと海の青さを見てしまった気がします。
上林春生dot 2015.03.08 16:50 | 編集
コメントありがとうございます。言葉遊びの好きなゲンズブールらしい発想です。この曲はフランス語で歌わないと価値がないでしょう。
朝倉ノニーdot 2015.03.08 20:03 | 編集
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