
ジュリエット・グレコJuliette Grécoの「脱がせてちょうだいDéshabillez-moi」の記事に、この曲は彼女がちょうど40歳のときに発表され、その倍の歳を過ぎてまだ歌っている…すごいなぁ、なんてことを書きましたが、これは男をリードするたいへん強い表現の歌詞でした。同様の内容を男の立場でもっと優しく美しく表現している曲があります。前回の「そして祭りはつづくEt la fête continue」や「ひまわりTournesol」「バルバラBarbara」「学校から出てきたらEn sortant de l'école」 そして「枯葉Les feuilles mortes」「僕の家でDans ma maison」と同様、ジャック・プレヴェールJacques Prévertの詩による歌詞でイヴ・モンタンYves Montandが歌っている、「サンギーヌSanguine」です。1962年のアルバム「イヴ・モンタン、ジャック・プレヴェールを歌うYves Montand Chante Jacques Prévert」に収録されています。
Sanguineとは「ブラッド・オレンジ(血ミカン)」というかんきつ類のこと。皮に縦に切れ目を入れて剥くと、血のように赤い果実があらわれることに、ファスナーを下すと、女性の身体があらわれることを例えています。わが身、賞味期限は過ぎたとしても、消費期限はまだかも…と、ふと思ってしまいます。
Sanguine サンギーヌ
Yves Montand イヴ・モンタン
La fermeture éclair 注1
A glissé sur tes reins
Et tout l'orage heureux 注2
De ton corps amoureux
Au beau milieu de l'ombre 注3
A éclaté soudain
ファスナーの稲妻が
きみの腰を滑ると
恋するきみの肉体の
歓喜の嵐が
闇のなかで
とつぜんに湧き起こる

Et ta robe en tombant
Sur le parquet ciré 注4
N'a pas fait plus de bruit
Qu'une écorce d'orange
Tombant sur un tapis
きみのドレスは
蠟引きの床に落ちるとき
絨毯にオレンジの皮が落ちるほどの
音も立てなかったが
Mais sous nos pieds
Ces petits boutons de nacre
Craquaient comme des pépins
Ô Sanguine joli fruit !
僕たちの足のしたで
小さな貝ボタンは
種のようにプチッとつぶれた
おー サンギーヌ うつくしい果実!

La pointe de ton sein
A tracé tendrement
La ligne de ma chance 注5
Dans le creux de ma main.
Sanguine, joli fruit
Soleil de nuit.
きみの乳首の尖端は
僕のてのひらに
あらたな運命線を
やさしく引いた
サンギーヌ うつくしい果実
真夜中の太陽

[注] sanguineは、sang「血」から派生した形容詞sanguin「血液の、血管の」が名詞化されたもので、かんきつ類の名称以外に、「多血質、短気な人」を示すほか、「ベネチアン・レッド、ベンガラ」という顔料の名前でもある。ちなみに、スペインのサングリアsangriaという飲み物は、赤ワインにかんきつ類の果汁を加えたもの。
1 éclair「稲妻」は、ファスナーが引き下ろされて開き、光りながら落ちて行く様子を例えている。闇のなかであり、ファスナーは金属製で、肌に直にまとっていたドレスの生地は滑りやすく柔らかく少し重みのある絹だろうといったことが見てとれる。
2 l'orage heureuxはオレンジorangeをかけた表現だろう。
3 au beau milieu de「…真っ最中に」「…のど真ん中で」
4 parquetには複数の意味があるが、ここでは「寄せ木張りの床」。parquet ciré「ワックスで磨かれた床」
5 ligne de chance「運命線」という言葉は、フランス語にもあるようだ。運命線をなぞるのではなく引いたということは、「僕の今後の運命ma chance」がこの女性によってここで決定されたということになる。(あまりおおっぴらには書けないことだが、la pointe de ton seinがtracer la ligneするというのは、女性の身体状況を暗に表している。)
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