
アンドレ・クラヴォーAndré Claveauは、ティノ・ロッシTino Rossiの「「魅惑のシャンソンchanson de charme」を引き継ぐ歌手で、ビロードのように滑らかな声voix de veloursを持ち、「魅惑の王子Prince de la chanson de charme」というニックネームをつけられるほどに人気を博しました。
彼はもともと、宝石の彫刻や舞台美術をおこなっていて、デッサンにも秀で、ダミアなどの歌手のポスターも作成していました。1936年にパリ郵便局が主催した素人コンクールで優勝したことから、歌手としての活動を始め、40~60年代を中心に、歌手、俳優として活躍しました。フランスで今でも歌われる「お誕生日おめでとうBon anniversaire」は、彼が1951年に映画の中で歌ったのが最初だと言われています。
「ドミノDomino」(作詞:ジャック・プラントJacques Plante、作曲:ルイ・フェラーリLouis Ferrari)は1950年に彼が創唱したワルツ調の曲で、リュシエンヌ・ドリールLucienne Delyleなど他の歌手も何人か歌っています。また、ドリス・デイDoris Dayの英語ヴァージョンもよく知られています。日本語では、ペギー葉山、井上陽水あたりでしょうか。
リュシエンヌ・ドリール
Domino ドミノ
André Claveau アンドレ・クラヴォー
{Refrain:}
Domino Domino
Le printemps chante en moi, Dominique,
Le soleil s'est fait beau, 注1
J'ai le cœur comme un' boite à musique 注2
J'ai besoin de toi,
De tes mains sur moi,
De ton corps doux et chaud,
J'ai envie d'être aimée Domino
春が僕のなかで歌っているよ、ドミニック、
太陽はまばゆいばかりになり、
僕の心はオルゴールのようだ
君が必要だよ、
僕に触れる君の手が、
柔らかく熱い君の身体が、
ドミノ 僕は君に愛されたい

Méfie-toi, mon amour, je t'ai trop pardonné
J'ai perdu plus de nuits que tu m'en as données
Bien plus d'heures
A t’attendre, qu'à te prendre sur mon cœur,
Il se peut qu'à mon tour je te fasse du mal, 注3
Tu m'en as fait toi-même et ça t'est bien égal, 注4
Tu t'amuses de mes peines, et je m'use de t'aimer. 注5
気をつけろよ、モナムール、僕は君を許し過ぎた
君が僕にくれた以上の夜を僕は失い
君を待つ時間のほうが、
君をこの胸にとどめている時間より長かった、
今度は僕が君を苦しめる番かもしれない、
君は僕を苦しめたが、君はそんなこと気にもしないで、
僕の苦しみを笑うものだから、
僕は君を愛することに疲れてしまった。
{Refrain}
Il est une pensée que je ne souffre pas 注6
C'est qu'on puisse me prendre ma place en tes bras,
Je supporte bien des choses, mais à force c'en est trop...
Et qu'un autre ait l'idée de me voler mon bien, 注7
Je ne donne pas cher de ses jours et des tiens, 注8
Je regarde qui t'entoure prends bien garde mon amour.
僕には想像するのが耐えられないことがある
それは誰かが君の腕のなかの僕の場所を奪うかもしれないってこと
たいていのことはがまんできるよ、だがここまでくればあんまりだ…
そしてほかの男が僕のものを奪おうという考えを持つってこと、
そしたらそいつの命にだって君の命にだって僕は価値を置かない、
僕は誰が君を取り巻いてるか見張ってるから、よく注意しろよモナムール。
Domino Domino
J'ai bien tort de me mettre en colère, 注9
Avec toi, Domino,
Je sais trop qu'il n'y a rien à faire,
T'as le cœur léger, tu ne peux changer,
Mais je t'aime, que veux-tu ? 注10
Je ne peux pas changer, moi non plus,
Domino, Domino,
Je pardonne toujours, mais reviens,
Domino, Domino,
Et je ne te dirai plus rien.
ドミノ、ドミノ
怒ってすまなかった、
君といっしょだと、ドミノ、
なす術がないってことよく分かっているよ
君は浮気な心を持っていて、変わりようがない、
だが僕は君を愛している、そうじゃないか?
僕も変わりようがない、僕だって、
ドミノ、ドミノ、
いつだって許している、さぁ帰ってきておくれ、
ドミノ、ドミノ、
僕はもう君に何も言わないから。

[注] もとの題名は、Domino Dominoと、2回繰り返す形が一般的。
クラヴォーの歌として、訳語は男性の言葉にしたが、Dominoという名前は、男女どちらもあり得る。シャンソンでは、男の歌手と女の歌手は同じ曲の代名詞などの性を変えて歌うことが多い。注7を参照。
1 se faire+形容詞 は、「…になる」の意。
2 boite à musique「音楽の箱」とは「オルゴール」のこと。
3 Il se peut que~(接続法)は、que以下がse pouvoirすなわちêtre possible「…かもしれない、あり得る」の意。
4 ça t'est bien égal それは君にとってégal「どうでもいい、関心の的にならない」
5 s'user de~ 「…して消耗する」
6 Il est~は文語でIl y aと同義「…がある」。
7 女性が歌う場合は、une autreとなる。
8 ne pas donner cher de(ou à) qc. 「…を取るに足らないものとみなす」
9 avoir tort de+inf.「…するのは間違っている」
10 Que veux-tu? 「仕方ないじゃないか(=他にどうしようもない)」
Comment:0
コメント