fc2ブログ
2016
02.24

ル・モリボン(瀕死の人)Le moribond

Jacques Brel Le moribond


ジャック・ブレルJacques Brelの「ル・モリボン(瀕死の人)Le moribond」は、自殺する前に親しい人たちに言い残すような曲内容で、ブレルと彼のピアニストのジェラール・ジュアネストGérard Jouannestが作り、1961年のアルバム:Mariekeに収録されています。「瀕死の人」という邦題が付けられており、moribondは辞書には確かにそうした訳語が記されていますが、硬すぎるし、「瀕死」という災害や事故で死にかかっていることを思わせる言葉と曲内容が合わないと思います。「死にゆく人」とかにすればとも考えましたが、やめて、原題の読みの仮名書きにして、「瀕死の人」を副題としました。



アメリカのロッド・マクァンRod McKuenがSeasons In The Sunという題名で英語に翻案し、1974年にカナダの歌手テリー・ジャックTerry Jacksが歌って大ヒットしました。
原曲の歌詞に即してはいますが、かなりニュアンスが異なります。「そよ風のバラード」という邦題で知られ、ブレルの原曲もその元の曲だということでそう呼ばれたりします。



Le moribond   ル・モリボン(瀕死の人)
Jacques Brel   ジャック・ブレル


Adieu l'Émile, je t'aimais bien 注1
Adieu l'Émile, je t'aimais bien, tu sais
On a chanté les mêmes vins
On a chanté les mêmes filles, on a chanté les mêmes chagrins
Adieu l'Émile, je vais mourir
C'est dur de mourir au printemps, tu sais
Mais j'pars aux fleurs, la paix dans l'âme
Car vu que tu es bon comme du pain blanc 注2
Je sais qu'tu prendras soin d'ma femme.

  さようならエミール、僕は君がとても好きだった
  さようならエミール、僕は君がとても好きだった、そうさ
  僕たちは同じワインを歌にした
  僕たちは同じ娘たちを歌にした、僕たちは同じ悲しみを歌にした
  さようならエミール、僕は死ぬんだ
  春に死ぬのはつらい、そうさ
  だが僕は花々に向けて出発するんだ、魂の安らぎのうちに
  なぜなら君は白いパンのように善良だから
  君が妻の面倒をみてくれるだろうって僕には分かっている。

J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
J'veux qu'on s'amuse comme des fous.
J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
Quand c'est qu'on m'mettra dans l'trou.

  笑ってくれ、踊ってくれ
  気ちがいみたいに浮かれてくれ
  僕を墓穴に埋める時も

Adieu Curé, je t'aimais bien
Adieu Curé, je t'aimais bien, tu sais
On n'était pas du même bord 注3
On n'était pas du même chemin mais on cherchait le même port
Adieu Curé, je vais mourir
C'est dur de mourir au printemps, tu sais
Mais j'pars aux fleurs, la paix dans l'âme
Car vu que tu étais son confident 注4
Je sais qu'tu prendras soin d'ma femme.

  さようならキュレ、僕は君がとても好きだった
  さようならキュレ、僕は君がとても好きだった、そうさ
  僕たちは考え方が違っていた
  僕たちは別の道を辿りながらも同じ港を目指していた
  さようならキュレ、僕は死ぬんだ
  春に死ぬのはつらい、そうさ
  だが僕は花々に向けて出発するんだ、魂の安らぎのうちに
  なぜなら君はあいつが心を打ち明ける相手だったから
  君が妻の面倒をみてくれるだろうって僕には分かっている。

Le moribond 1


J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
J'veux qu'on s'amuse comme des fous.
J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
Quand c'est qu'on m'mettra dans l'trou.

  笑ってくれ、踊ってくれ
  気ちがいみたいに浮かれてくれ
  僕を墓穴に埋める時も

Adieu l'Antoine, j't'aimais pas bien
Adieu l'Antoine, j't'aimais pas bien, tu sais
J'en crève de crever aujourd'hui 注5
Alors que toi tu es bien vivant, et même plus solide que l'ennui
Adieu l'Antoine, je vais mourir
C'est dur de mourir au printemps, tu sais
Mais j'pars aux fleurs, la paix dans l'âme
Car vu que tu étais son amant
Je sais qu'tu prendras soin d'ma femme.

  さようならアントワーヌ、僕は君があまり好きじゃなかった
  さようならアントワーヌ、僕は君があまり好きじゃなかった、そうさ
  今日死ぬことは耐え難い
  君はとても生気にあふれている、そして憂鬱より堅固だ
  さようならアントワーヌ、僕は死ぬんだ
  春に死ぬのはつらい、そうさ
  だが僕は花々に向けて出発するんだ、魂の安らぎのうちに
  なぜなら君はあいつの情人だったから
  君が妻の面倒をみてくれるだろうって僕には分かっている。

J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
J'veux qu'on s'amuse comme des fous.
J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
Quand c'est qu'on m'mettra dans l'trou.

  笑ってくれ、踊ってくれ
  気ちがいみたいに浮かれてくれ
  僕を墓穴に埋める時も

Adieu ma femme, je t'aimais bien
Adieu ma femme, je t'aimais bien, tu sais
Mais je prends le train pour le Bon Dieu
Je prends le train qui est avant le tien
Mais on prend tous le train qu'on peut 注6
Adieu ma femme, je vais mourir
C'est dur de mourir au printemps, tu sais
Mais j'pars aux fleurs, les yeux fermés, ma femme
Car vu que j'les ai fermés souvent 注7
Je sais qu'tu prendras soin d'mon âme

  さようなら妻よ、僕はお前をとても愛していた
  さようなら妻よ、僕はお前をとても愛していた、そうさ
  だが僕は神の御許へ向かう列車に乗る
  僕は君の列車より先の列車に乗る
  だがひとは乗ることのできるすべての列車に乗る
  さようなら妻よ、僕は死ぬんだ
  春に死ぬのはつらい、そうさ
  だが僕は花々に向けて出発するんだ、目を閉じて、妻よ
  なぜなら僕はしばしば目を閉ざしていた
  お前が僕の魂をいたわってくれるだろうって僕には分かっている。

Le moribond 2


J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
J'veux qu'on s'amuse comme des fous.
J'veux qu'on rie, j'veux qu'on danse
Quand c'est qu'on m'mettra dans l'trou.

  笑ってくれ、踊ってくれ
  気ちがいみたいに浮かれてくれ
  僕を墓穴に埋める時も

[注]
1 人名に定冠詞は不要だが、軽蔑・非難を表すため、あるいは親しみを込めるため付けられる。
2 vu que+ind.「…なので」。bon comme du pain (blanc)「とても善良な」
3 être du même bord「同じ意見(立場)である」
4 confident「秘密を打ち明けられる相手」。Curéは人名だが普通名詞curéは「神父」で、「懺悔を聞く人」ということで意味がつながる。sonは、次行のma femmeを先取りしている。
5 crever de+無冠詞名詞「…で死にそうだ、やりきれない」のde+無冠詞名詞 がenに置き換えられている。あとのde creverがその内容で、このcreverは「死ぬ」の意。
6 この行は、友人と妻との関係を揶揄していると捉えられる。
7 この行も、友人と妻との関係を見ないようにしていたという意味。



コメント
こんにちは。
90年代の当時ハマッていたポップシンガーがジャック・ブレルの
カバー曲集を出していまして「その原曲は?」と思い、芋づる式に
買ったCDのひとつが「Public à l'Olympia 1961」でした。
その収録曲のなかで気に入った歌のひとつが Le Moribond でして
「さよなら○○」と言っているらしいことはわかり、高音の管楽器(ピッコロ?)
の明るいメロディーとCDの購入時期から卒業、旅立ち、あるいは新しい生活を
イメージしたのですがフランス語はさっぱり分からずせめてタイトルの
意味だけでもと仏和辞典を買って調べてみると、でてきたのは明るい曲調とは
裏腹の「死、瀕死の」の文字! 
アメリカン・ロック、ブリティッシュ・ポップスともまた違う世界観を持つ
フランス・シャンソン(!)なのだから、なにかの病気で死にゆく人が
人生を回想している歌なのか?という20年来の疑問だった歌詞の内容が
おかげさまで理解することができました。

ありがとうございます。
sozobodot 2016.06.03 20:44 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top