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2016
02.05

ゲッティンゲンGöttingen

Barbara Le mal de vivre


1964年にバルバラBrbaraは、ドイツのゲッティンゲンに招かれてコンサートを開くことになりましたが、会場のユンゲス・テアター・ゲッティンゲン(新劇場)にはアップライトピアノしか用意されてなく、グランドピアノを要求していたバルバラが抗議したところ、学生たちの働きで、急きょある老婦人がグランドピアノを提供してくれることになり、2時間遅れでコンサートが実現する運びとなりました。バルバラは滞在を1週間延長することになり、劇場の小さな庭で彼らへの感謝の気持ちを込めてバルバラはこの「ゲッティンゲンGöttingen」を作り、最後の夜に不完全な形で半ば語り半ば歌いました。そしてパリに戻ってから、 曲を完成させました。1964年のアルバムLe Mal de vivreに収録されています。
ユダヤ系のバルバラは第2次大戦中、ナチスの迫害から逃れるために逃亡生活を続けてきました。ドイツという国とドイツ人に対しての憎しみや恨みは、この時まで彼女のなかに根強く残っていたでしょう。この曲は「忘却ではなく、和解を求める痛切な願いから生まれた」のだと、自伝Il était un piano noir…のなかで述べています。そして、1967年にはドイツ語でも録音しました。1988年に、 ゲッティンゲンの町から名誉勲章が贈られ、 彼女の死から5年後の2002年に町に「バルバラ通り」が生まれました。



Göttingen  ゲッティンゲン
Barbara   バルバラ


Bien sûr ce n'est pas la Seine
Ce n'est pas le bois de Vincennes
Mais c'est bien joli tout de même
À Göttingen, à Göttingen

  もちろんそれはセーヌ川でもなく
  それはヴァンセンヌの森でもない
  でもそれはまったく同じようにとても美しい
  ゲッティンゲンでは、ゲッティンゲンでは

Pas de quais et pas de rengaines
Qui se lamentent et qui se traînent 注1
Mais l'amour y fleurit quand même
À Göttingen, à Göttingen

  嘆いたりだらだら続いたりする
  岸辺も聞き古された歌もないけれど
  けれどそこにだって愛が花開く
  ゲッティンゲンには、ゲッティンゲンには

junges theater


Ils savent mieux que nous je pense
L'histoire de nos rois de France
Hermann, Peter, Helga et Hans 注2
À Göttingen

  彼らの方が私たちよりよく知っていると私は思う
  フランスの私たちの王の歴史を
  ヘルマン、ペーター、ヘルガ、ハンスは
  ゲッティンゲンでは

Et que personne ne s'offense
Mais les contes de notre enfance
"Il était une fois" commencent 注3
À Göttingen

  そして誰も気を悪くしないでほしい
  けれど私たちの子供の頃のお話
  「昔あるところに」は始まったのよ
  ゲッティンゲンで

Göttingen1


Bien sûr nous, nous avons la Seine
Et puis notre bois de Vincennes
Mais Dieu que les roses sont belles 注4
À Göttingen, à Göttingen

  もちろん私たちにはね、私たちにはセーヌ川があり
  ヴァンセンヌの森もある
  だけどおおなんとバラは美しいの
  ゲッティンゲンでは、ゲッティンゲンでは

Nous, nous avons nos matins blêmes
Et l’âme grise de Verlaine 注5
Eux c'est la mélancolie même
À Göttingen, à Göttingen

  私たちにはね、私たちには青白い朝と
  ヴェルレーヌゆずりの灰色の魂がある
  彼らに備わっているのは憂鬱そのもの
  ゲッティンゲンでは、ゲッティンゲンでは

Göttingen4


Quand ils ne savent rien nous dire
Ils restent là à nous sourire
Mais nous les comprenons quand même
Les enfants blonds de Göttingen

  どう話したらいいか分からなくて
  彼らはじっとしたまま私たちに微笑んでいる
  でも私たちは彼らを理解できる
  ゲッティンゲンの金髪の子供たちを

Et tant pis pour ceux qui s'étonnent
Et que les autres me pardonnent
Mais les enfants ce sont les mêmes
À Paris ou à Göttingen

  心外に思う人たちにはおあいにく様
  そうじゃない人たちは私を大目に見てくれるわ
  でも子供たちはどこでも同じ
  パリでもゲッティンゲンでも

Göttingen5


O faites que jamais ne revienne 注6
Le temps du sang et de la haine
Car il y a des gens que j'aime
À Göttingen, à Göttingen

  ああ、決して戻って来ませんように
  血と憎悪の時代が
  私には愛する人がいるのだから
  ゲッティンゲンには、ゲッティンゲンには

Et lorsque sonnerait l'alarme
S'il fallait reprendre les armes
Mon cœur verserait une larme
Pour Göttingen, pour Göttingen

  そして戦闘警報が鳴り渡り
  再び武器を取らなきゃならなかったら
  私の心は一粒の涙を流すことでしょう
  ゲッティンゲンのために、ゲッティンゲンのために

Göttingen2


Mais c'est bien joli tout de même
À Göttingen, à Göttingen

  それでもとても美しい
  ゲッティンゲンでは、ゲッティンゲンでは

Et lorsque sonnerait l'alarme
S'il fallait reprendre les armes
Mon cœur verserait une larme
Pour Göttingen, pour Göttingen

  そして戦闘警報が鳴り渡り
  再び武器を取らなきゃならなかったら
  私の心は一粒の涙を流すことでしょう
  ゲッティンゲンのために、ゲッティンゲンのために

Göttingen6


[注]
1 文脈上はrengaine「聞き古された歌」がse lamenter「嘆き」se traîner「だらだら続く」という見るほうが自然だが、se traîner「だらだら続く」のがquais「岸辺」 でse lamenter「嘆く」のがrengaine「聞き古された歌」というつながりを逆順でまとめていると見た。
2 Hermann, Peter, Hansは男の子、Helgaは女の子の、ドイツの一般的な名前。バルバラはフランス読みしている。
3 Il était une fois「昔あるところに」は、おとぎ話の書き出し。バルバラは滞在中に、ゲッティンゲンの南方シュタイナーにあるグリム兄弟の家(「グリム童話」の作者)に案内された。兄弟は共にゲッティンゲン大学の教授。したがって、ゲッティンゲンがおとぎ話の発祥地だというのである。
4 Dieuは「おやまあ」といった感嘆詞。ゲッティンゲンのバラが有名だというわけではないだろうが、ゲッティンゲンには3つのゲオルク・アウグスト大学植物園があり、その内の旧植物園は1万種以上のドイツで最も植物種の多い植物園。ゲッティンゲン大学は有名な植物学者を何人も輩出したというからバラも素晴らしいかと…、いや、違う。バルバラが自分の心を開いて、観衆から贈られたバラかその地に咲くバラの美しさを感じたということだろう。
5 (Paul Marie) Verlaine「ヴェルレーヌ」は、言わずと知れたフランスの象徴派詩人。破滅的な人生を送ったのでl’âme grise「灰色の魂」と表現したのかと。
6 faire que +subj.「…となるようにする」。ここでは命令形だが、相手は神あるいは不特定なvous。


Göttingen3




コメント
ゲッティンゲンの街から少年合唱団が日本に来ています。各地の教会で演奏していますが、先日鎌倉でのコンサートの最後にこの曲を歌ってくれました。知人からこの曲が彼らのハイライトでもあると聞き、調べているうちにこちらにたどり着きました。
少年と青年たちのコーラスでしたが、切なく美しく忘れがたい旋律で心に残りました。

明日、明後日、再び彼らの歌を聴きにコンサートに足を運びます。彼らはドイツ語で歌いますが、この歌詞の意味をかみしめ聴きたいと思います。すばらしい翻訳をして頂きありがとうございました。
maadot 2018.03.31 15:47 | 編集
バルバラの自叙伝で、この曲が生まれたいきさつを知って感動し、ちょっとがんばって訳してみました。
朝倉ノニーdot 2016.02.05 16:08 | 編集
いつも、すばらしい訳をして下さって、本当にありがとう^^
mimihadot 2016.02.05 11:10 | 編集
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