
アラン・スーションAlain Souchonを続けます。かつてのパリ左岸にアーティスト達が息づいていた時代を懐かしむ「リヴ・ゴーシュRive Gauche」(1999年、arbum:Au ras des pâquerettes)です。言葉遊びや、固有名詞が複数組み込まれた歌詞なので、訳はちょっとてこずりました。
Rive Gauche リヴ・ゴーシュ

Alain Souchon アラン・スーション
Les chansons de Prévert me reviennent 注1
De tous les souffleurs de vers...laine 注2
Du vieux Ferré les cris la tempête 注3
Boris Vian ça s’écrit à la trompette 注4
プレヴェールのいくつもの歌が僕の心によみがえる
(ヴェルレーヌの)詩句をささやく人たち(ガラス吹き職人たち)すべてによって、
老いたフェレの叫びはまるでタンペット(嵐)だ
ボリス・ヴィアンの場合はトランペットで曲が書かれる
Rive Gauche à Paris
Adieu mon pays
De musique et de poésie

Les marchands malappris
Qui ailleurs ont déjà tout pris
Viennent vendre leurs habits en librairie 注5
En librairie
パリのリヴ・ゴーシュよ
音楽と詩の
ふるさとよさらば
よそですべての店を手に入れた
粗野な商人どもが
本屋で服を売りにやって来る
本屋で

Si tendre soit la nuit 注6
Elle passe
Ô ma Zelda c’est fini Montparnasse 注7
Miles Davis qui sonne sa Gréco 注8
Tous les morts y sonnent leur Nico 注9
夜がいくら甘美だとしても
過ぎてしまうものだ
おおわがゼルダよモンパルナスは終わってしまった
愛人のグレコのために演奏するマイルス・デイビス
モリソン(死者)たちはすべて愛するニコのために演奏する
Ô mon île

Rive Gauche à Paris
Ô mon pays
De musique et de poésie
D’art et de liberté éprise
Elle s’est fait prendre, elle est prise
Elle va mourir quoi qu’on en dise 注10
Et ma chanson la mélancolise
パリのリヴ・ゴーシュよ
おおわが島よ
おお音楽と詩と
芸術と魅せられた自由の ふるさとよ
その自由は囚われ、束縛され
なにはともあれ死に瀕している

そして僕の歌はそれを憂鬱に歌う
La vie c’est du théâtre et des souvenirs
Et nous sommes opiniâtres à ne pas mourir
A traîner sur les berges venez voir
On dirait Jane et Serge sur le pont des Arts 注11
人生、それは劇場であり追憶である
そして僕たちは死ぬまいと頑なになる
土手をぶらついて見に来てごらん
ポン・デ・ザールの橋の上にジェーンとセルジュ
がいるようだよ
Rive Gauche à Paris

Adieu mon pays
Adieu le jazz adieu la nuit
Un état dans l’état d’esprit 注12
Traité par le mépris
Comme le Québec par les États-Unis
Comme nous aussi
Ah! le mépris
Ah! le mépris
パリのリヴ・ゴーシュよ
ふるさとよさらば
ジャズよさらば 夜よさらば
精神性の豊かな状態の国は
軽蔑を受ける
ケベックがアメリカに軽蔑されるのと同じように
僕たちと同じように
ああ軽蔑だ
ああ軽蔑だ
[注]
1 ジャック・プレヴェールJacque Prévertの詩を歌詞にした曲は数多く、「美しい星でÀ la belle étoile」のページにリストアップしてあるので参照されたい。
2 三重の言葉遊び。les souffleurs de vers「詩句をささやく人々」という表向きの表現のなかに、les souffleurs de verre「ガラスを吹き職人」が重ねられ、laine「羊毛」を意味なく加えることで、Verlaine「詩人ヴェルレーヌ」の名に重ねている。
3 les cris du vieux Ferréが倒置されている。レオ・フェレLéo Ferréは「ミラボー橋Le Pont Mirabeau」「春が来たC'est le printemps」「ジョリ・モームJolie môme」を取り上げたが、「幸せな愛はないIl n'y a pas d'amour heureux」「時の流れにAvec le temps」ほかもろもろ旧ブログから移すあるいはあらたに取り上げる予定。
4 ボリス・ヴィアンBoris Vianは、「僕はスノッブだJ'suis snob」「脱走兵Le déserteur」をすでに取り上げた。
5 本屋が服屋に取って代わられる。
6 Même si la nuit est très tendreの意味。
7ゼルダ・フィッツジェラルド Zelda Fitzgeraldは、「グレート・ギャツビーThe Great Gatsby」で知られるアメリカの小説家フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドFrancis Scott Key Fitzgeraldの妻で作家。統合失調症を患い、48歳で死ぬまで二十代の若さを保ち続けたといわれる。
8 マイルス・デイビスMiles DavisはGréco と恋仲だった。sonnerは他動詞として複数の意味がある。「(管楽器を)吹く」「(ベルを鳴らして人を)呼ぶ」「ガッカリさせる、(顔などに)パンチを食らわす」「検査する」など。彼はトランペッターなので、目的語sa Grécoに対する愛をトランペットで歌い上げたととらえよう。
9 les morts y sonnent:1965年に結成されたアメリカのロックバンド、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドThe Velvet Undergroundの歌手スターリング・モリソンSterling Morrisonの名前の複数形にかけていて、les Morrison(ファミリーの名前なので単数形)と表記した歌詞もある。Nico:同グループに途中から参加したドイツ生まれの女性歌手ニコNico。ニコを推薦したアンディ―・ウォーホルによるバナナのジャケットで有名なアルバム「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコThe Velvet Underground and Nico」を出した後、ニコは脱退した。
10 quoi qu’on en dise=on peut tout dire,mais「ひとが何を言おうと」
11 On dirait…「…のようだ」。ジェーン・バーキンJane Birkinとセルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourg。二人の曲はそれぞれすでに多数取り上げた。
12 最初のétatは「国」、2番めは「状態」と、使い分けられている。
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