
アラン・スーションAlain Souchonの「リヴ・ゴーシュRive Gauche」にはリヴ・ゴーシュにゆかりのさまざまな人名が出てくるなかで、「老いたフェレの叫びはまるで嵐だ(Du vieux Ferré les cris la tempête)」というフレーズがありましたが、フェレLéo Ferréは、リヴ・ゴーシュの地名を冠した「サン=ジェルマン=デ=プレでÀ saint-germain-des-Prés」や「カルティエ・ラタンQuartier latin」を歌っています。この2曲を続けて取り上げましょう。
今回は「サン=ジェルマン=デ=プレでÀ Saint-Germain-des-Prés」(1961年)。前回の曲「サンジェルマンへおいでよViens à Saint-Germain」と同様、サン=ジェルマン=デ=プレを歌った曲ですが、まるで違います。この曲には、ヴェルレーヌPaul Marie Verlaine(1844-1896)、アポリネールGuillaume Apollinaire(1880-1918)、ラシーヌJean Racine(1639-1699)、ヴァレリーAmbroise Paul Toussaint Jules Valéry(1871-1945)といった詩人たちの名前が出てきます。彼らはフェレFerré(1916-1993)よりひと時代前の詩人たち。「彼らとランデヴーする」と表現して往時の詩人たちへの共感を示しているようでありながら、実は、サン=ジェルマン=デ=プレで現在(60年代に)生きている芸術家たちのことを言っているのでしょう。
À Saint-Germain-des-Prés サン=ジェルマン=デ=プレで
Léo Ferré レオ・フェレ

J´habite à Saint-Germain-des-Prés
Et chaque soir j´ai rendez-vous
Avec Verlaine
Ce vieux pierrot n´a pas changé
Et pour courir le guilledou 注1
Près de la Seine
Souvent l´on est flanqué 注2
D´Apollinaire
Qui s´en vient musarder
Chez nos misères
C´est bête, on voulait s´amuser
Mais c´est raté 注3
On était trop fauchés
私はサン=ジェルマン=デ=プレに住んでいる
そして毎夜私はランデヴーする
ヴェルレーヌと
この年老いたピエロは変わっていない
そして女をあさるために
セーヌ河のほとりで
僕たちはしばしばアポリネールを同伴する
彼はぶらっと訪ねて来たんだ
僕たちの侘住居に
ちくしょう、僕たちは楽しくやりたかった
だがしくじったんだ
僕たちはあまりにも文無しだった

Regardez-les tous ces voyous
Tous ces poètes de deux sous
Et leur teint blême
Regardez-les tous ces fauchés
Qui font semblant de ne jamais 注4
Finir la semaine
Ils sont riches à crever 注5
D´ailleurs ils crèvent 注6
Tous ces rimeurs fauchés
Font bien des rêves quand même 注7
Ils parlent le latin
Et n´ont plus faim
A Saint-Germain-des-Prés
この与太者たちみんなをご覧よ
この三文詩人たちみんなを
そしてその青白い顔色を
週日が終わらないふりをしている
この文無したちみんなをご覧よ
彼らはとんでもなく豊かだ
しかも死にそうなんだ
文無しのへぼ詩人たちはみんな
なおかつ夢想にふけるのさ
彼らはラテン語を話し
もう飢えちゃいない
サン=ジェルマン=デ=プレじゃ
Si vous passez rue de l´Abbaye
Rue Saint-Benoît, rue Visconti 注8
Près de la Seine
Regardez le monsieur qui sourit
C´est Jean Racine ou Valéry
Peut-être Verlaine

もしもあなたがたがアベイユ通りを
サン=ブノワ通りを、ヴィスコンティ通りを
セーヌ河の近くのこれらの通りを通りかかったら
微笑んでいる男性をご覧なさい
それはジャン・ラシーヌあるいはヴァレリー
たぶんヴェルレーヌだ
Alors vous comprendrez,
Gens de passage,
Pourquoi ces grands fauchés
Font du tapage 注9
C´est bête
Il fallait y penser
Saluons-les
A Saint-Germain-des-Prés
さてあなたがたはお分かりだよね、
通りかかった方々、
なぜこれらの偉大なる与太者たちが
人騒がせをやらかすのか
しょうがないさ
考えてみなきゃ
彼らを歓迎しようって
サン=ジェルマン=デ=プレで
[注]
1 courir le guilledou「女(男)をあさる」
2 flanquer「付き合う、同伴する」。ここでは受動態で用いられているが、都合で能動的に訳した。
3 c´est raté:ここも受動態を能動的に訳した。
4 faire semblant de+inf.「…するふりをする」。finir la semaine「平日を終える」つまり「休日を迎える」ことがけっしてないふりをする。ずっと仕事をしているふりをする、ということか?
5 à crever「過度に、異常に」
6 d´ailleurs「そのうえ、しかも」
7 faire des rêves「夢想にふける」
8 3つの通りはすべてサン=ジェルマン=デ=プレのセーヌ河の近くにある。
9 faire du tapage「騒動を引き起こす」
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