
イヴ・デュテイユYves Duteilは、ギターを弾きながら歌うシンガー・ソングラーターで、音楽活動のかたわらパリ郊外のプレシー・シュール・マルヌ村の村長も務めています。「私たちの言葉La langue de chez nous」という歌では、フランス語の美しさを歌っていますが、母国語を心から愛する彼の歌は、フランス語のなめらかな発音の最もいい見本だと、私は思っています。
今回取り上げる「子供を抱いて(マルティーヌに)Prendre un enfant (à Martine)」は77年のアルバム:Tarentelleに収録、レコード発明100周年を記念するSACEMアンケートで「世紀のヒット№1」に選ばれた曲。広く世界中で愛され、和訳も多くの人が試みていますが、私の訳も出すことにいたします。
再婚相手の娘を、本当に自分の子どもとして実感した時の感動を歌ったもので、その娘、マルティーヌに捧げる形で作られました。動詞の不定詞を連ねるというユニークな形態が、彼の実感をより普遍的なものへと昇華する働きをしています。のちに彼は、フランスの厚生・家族・障害者担当大臣からの依頼で「子どもの権利Tous les droits des enfants」という曲を、世界中の子どもの権利について子どもたち自身にもっと知ってもらいたいという願いを込めて作りました。子供たちの澄んだ声のコーラスが美しい曲です。
Prendre un enfant (à Martine) 子供を抱いて(マルティーヌに)
Yves Duteil イヴ・デュテイユ
{instrumental}
Prendre un enfant par la main
Pour l'emmener vers demain,
Pour lui donner la confiance en son pas,
Prendre un enfant pour un roi.
Prendre un enfant dans ses bras 注1
Et pour la première fois,
Sécher ses larmes en étouffant de joie, 注2
Prendre un enfant dans ses bras.
子供の手をとる
明日へとみちびくために、
自分の歩みに自信を持たせるために、
子供を王様としてあつかう。
子供を両腕に抱きしめる
そして初めて、
歓びにむせびながらその子の涙を乾かし、
子供を両腕に抱きしめる。

Prendre un enfant par le cœur
Pour soulager ses malheurs,
Tout doucement, sans parler, sans pudeur,
Prendre un enfant sur son cœur. 注3
Prendre un enfant dans ses bras
Mais pour la première fois,
Verser des larmes en étouffant sa joie, 注4
Prendre un enfant contre soi.
子供の心を察する
その子の不幸を和らげるために、
とても優しく、言葉を用いず、ためらいもせずに、
子供を胸に抱きしめる。
子供を両腕に抱きしめる
でも初めて、
自分の歓びを抑えてその子のために涙を流し、
子供を自分に引き寄せる。

La la la…
Prendre un enfant par la main
Et lui chanter des refrains
Pour qu'il s'endorme à la tombée du jour,
Prendre un enfant par l'amour.
Prendre un enfant comme il vient
Et consoler ses chagrins,
Vivre sa vie des années, puis soudain,
Prendre un enfant par la main
En regardant tout au bout du chemin,
Prendre un enfant pour le sien.
子供の手をとる
そしてその子に歌を歌う
日暮れにその子が眠りにつけるようにと、
子供を愛でとらえる。
子供をなすがままに受け入れ
そしてその子の悲しみを慰め、
何年も好き勝手に暮らしてきて、そして突然、
子供の手をとる
行く末をすべて見守りながら、
子供を自分のものとして受け入れる。

[注] 歌詞冒頭部分は動画に合わせ、instrumental(演奏)としたが、CDでは、女声のハミングである。
1 すべて、不定詞を用いた文になっており、主語(動作主)をあらわすとすればonである。3人称の代名詞がun enfantのものか、onのものかは文脈で判断するしかない。ここのses brasと、あとに出てくるsa joie, contre soi, sa vie, le sienはonのほうである。なお、enfant「子供」は男性名詞。特に女の子をあらわしたい場合に、une enfantが用いられることもある。
2 ジェロンディフの主語は、主文節の主語と一致するので、en étouffant de joie は、sécherする人が、歓びで息を詰まらせるのである。
3 sur son cœurは、先のpar le cœurが「心、ハート」であり、ここは「胸に」とした。
4 注1の部分と似た表現だが、deがsaに変わっており、自分の歓びを抑える意味となる。
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