
リス・ゴーティLys Gautyが歌った「過ぎゆくはしけLe chaland qui passe」の原曲は「マリウ 愛の言葉をParlami d'amore, Mariù」というカンツォーネで、1933年に「夜のヴァイオリンUn violon dans la nuit」などを作曲したツェザーレ・アンドレア・ビクシオCesare Andrea Bixioが作曲しました。アンドレ・ド・バデAndré de Badetがフランス語の歌詞を作り、1934年にリス・ゴーティが歌って大ヒットしました。
リス・ゴーティは1908年にパリの郊外で生まれました。デパートの帽子売り場で売り子をしながら歌を勉強し、当初はクラシック音楽を学んでいましたが、次第にシャンソンに傾倒するようになり、1922年にパリのミュージック・ホールで歌い始め、1925年にオランピアに出演。1928年にベルギーで「夢の楽園 Paradis du rêve」をファースト・レコーディング。1930年に「結婚式の日Jour de noces」という映画に出演。1933年に、クルト・ワイル作曲の舞台作品「三文オペラ」中の楽曲である「海賊の花嫁 La fiancée du pirate」が同年度ディスク大賞を受賞しました。この「過ぎゆくはしけ」がヒットした1934年から、ミュージック・ホール「ア・ベ・セA.B.C.」の初代看板スターとなります。いつも白い長いドレスを着て、クラシックの素養に基づいた歌唱力でオリジナルな曲やポピュラーな曲を歌いました。南米公演を成功させたのち、第2次大戦中は活動が制約されていましたが、戦後は、「アランブラl'Alhambra」などで歌いました。一時、レオ・フェレLéo Ferréが彼女のピアニストを務めたこともあります。
1953年頃にステージを退き、その後は、ニースで音楽学校を開いたり、不動産会社の経営を引き継いだりしていましたが、1994年にモンテ・カルロで亡くなりました。
三大テノール カレーラスJosé Carreras、ドミンゴPlácido Domingo、パヴァロッティLuciano Pavarottiの「マリウ 愛の言葉を」
リス・ゴーティの「過ぎゆくはしけ」
Le chaland qui passe 過ぎゆくはしけ
Lys Gauty リス・ゴーティ
La nuit s'est faite, la berge 注1
S'estompe et se perd...
Seule, au passage une auberge
Cligne ses yeux pers.
Le chaland glisse, sans trêve 注2
Sur l'eau de satin,
Où s'en va-t-il ? ... Vers quel rêve ? ...
Vers quel incertain
Du destin ? ...
とっぷりと夜が更け、土手は
かすんで見えなくなる…
ただ、通りがかりに一軒の宿屋が
その青緑の灯をちらつかせる。
舟は滑るように進み続ける
滑らかな水の上を、
どこへ行くの?…どんな夢に?…
どんな未知の
運命に向かっているのかしら?…

{Refrain:}
Ne pensons à rien... le courant
Fait de nous toujours des errants ;
Sur mon chaland, sautant d'un quai,
L'amour peut-être s'est embarqué...
Aimons-nous ce soir sans songer
A ce que demain peu changer,
Au fil de l'eau point de serments : 注3
Ce n'est que sur terre qu'on ment !
何も考えないことにしましょう…流れが
私たちをずっとさまよわせるわ;
私の舟に、どこの岸からか、
愛が飛び乗って来たようよ…
今宵は愛し合いましょう
明日になれば変わってしまうなんて思わずに、
水の流れにしたがえば、誓いの言葉なんていらないわ:
人が嘘をつくのは、地上でだけのこと!

Ta bouche est triste et j'évoque
Ces fruits mal mûris
Loin d'un soleil qui provoque
Leurs chauds coloris,
Mais sous ma lèvre enfiévrée
Par l'onde et le vent,
Je veux la voir empourprée
Comme au soleil levant
Les auvents ...
あなたの唇は淋しげで
情熱的な色づきをもたらす
陽の光から隔てられて
熟しきれていない果実を思わせる
でも私が
波と風にほてった唇をあてて
それが真っ赤になるのを見たいわ
朝陽を浴びた
舳みたいに真っ赤に…
{Refrain}
[注] chaland「はしけ、平底船」とは、本来、河川・港湾などで大型船と陸との間を往復して貨物や乗客を運ぶ小舟。船幅が広く、平底。ここではただ川で乗客を乗せて運ぶ小舟というだけのようだ。
1 bergeは「土手」「はしけ、平底船」の両義があるが、タイトルのchalandとは別なので、これは前者。
2 sans trêve「絶えず、休みなく」
3 point de「…が全然無い、要らない」
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