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2015
06.29

白いバラ(サン・ヴァンサン通り)Rose Blanche (Rue Saint-Vincent)

Cora Vaucaire Le temps des cerises


前回に引き続き今回も「白いバラ」を。コラ・ヴォケールCora Vaucaireの十八番である「白いバラ(サン・ヴァンサン通り)Rose Blanche (Rue Saint-Vincent)」。「サン・ジェルマン・デ・プレの白い貴婦人La dame blanche de Saint-Germain-des-Prés」とよばれる
コラ・ヴォケールは99年に81歳で活動を終え、2005年に最後のアルバムが出しました。そして2011年9月17日に93歳で亡くなりました。

この曲は、トゥールーズ=ロートレックHenri de Toulouse-Lautrecのリトグラフに描かれた、あの赤いマフラーの男、すなわちアリスティード・ブリュアンAristide Bruantという19世紀末に活躍したシンガー・ソングライターの作品で、1909年に発表されました。この歌でコラ・ヴォケールは55年度のACCディスク大賞を受賞。イヴ・モンタンYves Montandはそれより早く、50年に録音しています。哀しい娼婦の物語で、副題にあるサン・ヴァンサン通りは、同じくコラ・ヴォケールの歌った「モンマルトルの丘La Complainte de la butte」の歌詞にも出てきますが、古くからあるシャンソン喫茶「オ・ラパン・アジルAu Lapin Agile」のそばを通る細い道で、サン・ヴァンサン墓地やブドウ畑があり、娼婦やヤクザがたむろする場所でした。

コラ・ヴォケール



イヴ・モンタン



ほかには、パタシューPatachouミッシェル・トールMichèle Torrポー・ド・シャグランPeau de Chagrin などが歌っています。

Rose Blanche (Rue Saint-Vincent)     白いバラ(サン・ヴァンサン通り)
Cora Vaucaire                 コラ・ヴォケール


Elle avait sous sa toque de martre,
sur la butte Montmartre,
un p'tit air innocent.
On l'appelait rose, elle était belle,
a' sentait bon la fleur nouvelle,
rue Saint-Vincent.

  その娘は 貂の毛皮のトック帽をかぶり、
  モンマルトルの丘のうえで、
  無邪気なようすをしていたよ。
  ひとはその娘をローズと呼び、きれいで、
  新鮮な花の香りがしたんだ、
  サン・ヴァンサン通りで。

On avait pas connu son père,
on avait plus d'mère,
et depuis 1900,
a' d'meurait chez sa vieille aïeule
Où qu'a' s'élevait comme ça, toute seule,
rue Saint-Vincent.

  父親はだれか分からなかったし
  母親ももういなくて、
  そして1900年から、
  その娘は年老いた曾祖母のうちで暮らし
  そこでこんな風にして大きくなったのさ、たった一人でね、
  サン・ヴァンサン通りで。

A' travaillait déjà pour vivre
et les soirs de givre,
sous l'froid noir et glaçant,
son p'tit fichu sur les épaules,
a' montait par la rue des Saules,
rue Saint-Vincent.

  その娘は生きていくために働いていて
  霜の降りる夜、
  暗く凍てつくような寒さのもと
  小さな三角の肩掛けをかけて、
  ソール通りを通って登ってきたもんだ、
  サン・ヴァンサン通りへと。

Rue Saint-Vincent2


A’ voyait par les nuit gelées,
la butte étoilée,
et la lune en croissant
qui brillait, blanche et fatidique
sur la p'tite croix d'la basilique,
rue Saint-Vincent.

  その娘は凍てつくような夜に、
  星がきらめく丘を、
  そして三日月が白く運命を告げるように輝くのを見た
  教会の小さな十字架の上で、
  サン・ヴァンサン通りのね。

L'été, par les chauds crépuscules,
a rencontré Jules,
qu'était si caressant,
qu'a' restait la soirée entière,
avec lui près du vieux cimetière,
rue Saint-Vincent.

  夏、暑いたそがれ時に、
  ジュールに会った、
  彼はとても優しくて、
  彼女は一晩中過ごした、
  彼と 古い墓地の近くで
  サン・ヴァンサン通りのね。

Mais le p'tit Jules était d'la tierce 注1
qui soutient la gerce,  注2
aussi l'adolescent,
voyant qu'elle marchait pas au pantre, 注3
d'un coup d'surin lui troua l'ventre,
rue Saint-Vincent.

  けれどジュール小僧は不良のたぐいで
  娼婦のヒモをやっていたのさ、
  そこで若者は、
  彼女が客のところに行きたがらないのを見て、
  ナイフの一突きで彼女の腹をえぐったんだ、
  サン・ヴァンサン通りで。

Quand ils l'ont couché sur la planche,
elle était toute blanche,
même qu'en l'ensevelissant,
les croque-morts disaient qu'la pauv' gosse
était crevé l'soir de sa noce,
rue Saint-Vincent.

  人々が彼女の亡骸を板のうえに横たえたとき、
  彼女は真っ白だった、
  彼女を葬りながら、
  葬儀人たちは この哀れな子は、
  自分の結婚式の夜に亡くなったのだ、と言っていた、
  サン・ヴァンサン通りで。

Rue Saint-Vincent1


Elle avait sous sa toque de martre,
sur la butte Montmartre,
un p'tit air innocent.
On l'appelait rose, elle était belle,
a' sentait bon la fleur nouvelle,
rue Saint-Vincent.

  その娘は貂の毛皮のトック帽をかぶり、
  モンマルトルの丘のうえで、
  無邪気なようすをしていたよ。
  ひとはその娘をローズと呼び、きれいで、
  新鮮な花の香りがしたんだ、
  サン・ヴァンサン通りで。

[注] 古い言い回しの多い歌詞なので、翻訳の困難な部分がある。まず半過去形の動詞の前の「a’」はelleに置き換えられるようだ。
1 le p'tit Jules人名が形容詞を伴う場合は定冠詞が付く。tierceは、「第三身分」などの意味のtiersの女性形だが、隠語で「(不良などの)群れ、愚連隊」の意味。部分冠詞が付いているのは、類別を示し、「かたぎではなくて」といった意味が加わる。
2 gerce「商売女」をsoutenir「支持する、擁護する」。名詞のsouteneurは「(売春婦の)ヒモ、女衒」。
3 marchait pas au pantre の部分はmarchait pantreとする歌詞が多いが、コラの歌と一致すると思われる歌詞を採用した。pantre(pante)の意味はネットのアルゴ辞書によると、「犠牲者」「搾り取りやすい、盗みやすい対象であるブルジョワ」。したがって、娼婦の客のこと。蒲田耕二氏の著書「聴かせてよ愛の歌を」には、「ヒモのヤクザに恋心を抱いて客をとるのをいやがりだし、男にとっては稼ぎの悪い厄介者でしかなくなったために殺される」と書かれている。ジュールを愛するがゆえに、ジュールに殺されることになったのである。



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