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2015
05.15

ラ・ボエームLa bohème

Charles Aznavour La bohème


1965年にアズナヴールが出した、彼の一番の代表作「ラ・ボエームLa bohème」を取り上げます。この曲を愛する人はとても多いでしょうから、その分、翻訳も多く出回っていると思います。しかし、私なりにかなり綿密に取り組んだつもりですので、あえて発表してみることにいたしました。作詞はジャック・プラントJacques Planteです。

ステージでは、必ずハンカチを使ってリラの花などを表現して歌います。



La bohème              ラ・ボエーム
Charles Aznavour           シャルル・アズナヴール


Je vous parle d'un temps
Que les moins de vingt ans
Ne peuvent pas connaître
Montmartre en ce temps-là
Accrochait ses lilas 注1
Jusque sous nos fenêtres
Et si l'humble garni 注2
Qui nous servait de nid
Ne payait pas de mine 注3
C'est là qu'on s'est connu
Moi qui criais famine
Et toi qui posais nue

  ある時代のことをあなた方に話そう
  二十歳前の人たちには
  経験しようのない時代のことを
  モンマルトルではその頃
  僕たちの部屋の窓のすぐ下まで
  リラが枝を伸ばして咲いていた
  そして僕たちの愛の巣となった
  つましい家具つきの貸間は
  見ばの悪いものではあったが
  僕たちが知り合ったのはそこだった
  僕のほうは空腹を訴え
  君のほうは裸でポーズをとっていた

La bohème1


La bohème, la bohème 注4
Ça voulait dire on est heureux 注5
La bohème, la bohème
Nous ne mangions qu'un jour sur deux

  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  それは僕たちが幸せだということだった
  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  僕たちは1日おきにしかちゃんと食べられなかった

Dans les cafés voisins
Nous étions quelques-uns
Qui attendions la gloire
Et bien que miséreux
Avec le ventre creux
Nous ne cessions d'y croire
Et quand quelques bistros 注6
Contre un bon repas chaud
Nous prenaient une toile
Nous récitions des vers
Groupés autour du poêle
En oubliant l'hiver

  近くのいくつかのカフェでは
  僕たちは 栄光を待ち望む
  なにがしかの存在だった
  空腹をかかえ
  貧しかったけれど
  栄光を信じてやまなかった
  あるビストロでは
  一回のうまい温かい食事と引き換えに
  絵を一枚引きとってくれ
  僕たちはストーブの回りに集まって
  冬の寒さも忘れて
  詩を朗唱したものだった

La bohème, la bohème
Ça voulait dire tu es jolie
La bohème, la bohème
Et nous avions tous du génie

  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  それはきみが素敵だということだった
  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  僕たちはみな天才だった

Souvent il m'arrivait
Devant mon chevalet
De passer des nuits blanches 注7
Retouchant le dessin
De la ligne d'un sein
Du galbe d'une hanche
Et ce n'est qu'au matin
Qu'on s'asseyait enfin
Devant un café-crème
Epuisés mais ravis
Fallait-il que l'on s'aime 注8
Et qu'on aime la vie

  しばしば僕は
  画架の前で
  夜を明かした
  胸のラインや
  腰の輪郭の
  デッサンに手を加えながら
  そして夜明けになってからやっと
  一杯のカフェ・クレームを前に
  くたびれ果てながらも喜びに溢れて
  僕たちは腰を下ろした
  僕たちはほんとうに愛し合っていたんだ
  そしてほんとうに人生を愛していたんだ

La bohème2


La bohème, la bohème
Ça voulait dire on a vingt ans
La bohème, la bohème
Et nous vivions de l'air du temps 注9

  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  それは僕たちが二十歳だということだった
  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  そして僕たちは無一文で暮らしていた

Quand au hasard des jours 注10
Je m'en vais faire un tour 注11
A mon ancienne adresse
Je ne reconnais plus 注12
Ni les murs, ni les rues
Qui ont vu ma jeunesse 注13
En haut d'un escalier
Je cherche l'atelier
Dont plus rien ne subsiste
Dans son nouveau décor
Montmartre semble triste
Et les lilas sont morts

  たまたまある日
  かつて住んでいたところに
  出かけてみた
  僕の青春を見守っていた
  家々の壁や、いくつもの通りは
  僕にはもう見分けることができなかった
  階段の上の方に
  あのアトリエを探したけれど
  それらしいものはもう残っていなかった
  あたらしい装いのかげで
  モンマルトルは悲しげにみえた
  そしてリラの花々は枯れてしまった

La bohème5


La bohème, la bohème
On était jeunes, on était fous
La bohème, la bohème
Ça ne veut plus rien dire du tout

  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  僕たちは若く、僕たちは無軌道だった
  ラ・ボエーム、ラ・ボエーム
  それは もうまったく何も意味しない

[注]
1 accrochaitは他動詞accrocher「ひっかける、つるす」の3人称単数形で、主語はMontmartreという擬人的表現。「モンマルトルではリラが」と意訳するしかない。
2 siは譲歩の意味を含めた提示で「…ではあるが」。形容詞humbleは、本来は「謙虚な」という意味だが、名詞の前につけられて「取るに足らない、つましい」の意味になる。
3 ne pas payer de mine「見てくれが悪い、見ばがよくない」
4 la bohème男性名詞の場合は、自由気ままに生きる人、芸術家、ボヘミアンという個人を指すが、女性名詞としては集合的に、「ボヘミアン、すなわち自由気ままにその日暮らしの生活を送る芸術家たち」あるいは「(ボヘミアンの)自由気ままな生活」の意味。題名が、原題の読みで知られているので、歌詞中の訳語もそれに合わせた。
5 vouloir dire「…を意味する」
6 この節のnousは僕と彼女に限らず、ほかの画家仲間も含めた「僕たち」のようだ。この行から節の終りまで一つの文。quelque bistroが2行あとのprenaitの主語で、nous(間接目的語)からune toile(直接目的語)をprendre「取る、要求する」。ここも、注1と同様の擬人的表現なので、「あるビストロでは」として意訳。さらに、「絵と交換に食事を提供してくれた」とまでしたほうが分かりやすかったかもしれない。
7 passer des nuits blanches「徹夜する」。nuit blanche「眠れぬ夜」は「青春という名の宝」にも出てきた。
8 Faut-il que…!「…としか思えない、全く…である」の半過去形。
9 vivre de l'air du temps「無一文で暮らす」
10 au hasard de「…しだいで、のままに」au hasard des jours「たまたまある日」
11 s'en aller+inf.「…しに行く」tourは、ここでは「ちょっとした外出、散歩」。
12reconnaîtreは、(記憶と照らし合わせて)「…がそれと分かる、…に見覚えがある」という意味。否定形なので、自分の知っている壁や通りを「それと分かること、すなわち識別することができない」ということであり、現在の壁や通りが「見覚えがない」ということではない。
13 ここも、壁や通りがvoirするという擬人的表現。5行下のMontmartre semble tristeも同様。ともにそのまま訳した。



コメント
ラ・ボエームの歌詞の翻訳ありがとうございます。けふ、TVで、ちあきあなおみさんが日本語のを歌ってたので、歌いたくなりました。
シャルルなアズナブールは早口なんで、無理かもしれないんですが、トライしてみようかなと。歌詞の翻訳を読んで、きっと、アズナブールは、これと近い人生を歩んできてのかなと想像しました。前にも、こちらのサイトは検索して
勉強したことがあります。ほんとに、助けになります、ありがたい。それを一言伝えたくて。
エスカルゴdot 2023.02.18 01:07 | 編集
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dot 2022.05.27 12:13 | 編集
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dot 2021.01.17 19:48 | 編集
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dot 2020.12.22 14:04 | 編集
翻訳を読ませていただきました。
ラ・ボエームは米国のフィギュアスケーター
ネイサン・チェンのショートプログラムです。
衣装がとてもおかしいと話題になっておりましたがリラの花で納得しました。
とても勉強になります、ありがとうございます。




Meydot 2020.03.19 22:34 | 編集
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dot 2019.12.06 23:42 | 編集
ありがとうございます。気づかないままコピペしていました。全歌詞チェックし直しました。
朝倉ノニーdot 2018.11.14 08:32 | 編集
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dot 2018.11.12 20:27 | 編集
大辞典に、Il vient un jour sur deux「彼は1日置きに来る」という例文があり、それに基づいて解釈しました。確かに生きていけませんが、大袈裟に言っているのでしょう。でも、ちょっと表現を変えて訳してみましょう。ありがとうございました。
朝倉ノニーdot 2015.12.23 08:02 | 編集
Nous ne mangiont qu'un jour sur deux: 幾ら貧しくても2日に1度(une fois par deux jours)しか食べられなけらば、生きて行けません。un sur deux は2分の1、それに
jourが付いて2分の1日?? 要するに、2日に1日分の食事しか取れなかったという事だと思います。
江副文臣dot 2015.12.22 23:41 | 編集
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