
今回は、パトリシア・カースPatricia Kaasの「マドモアゼルはブルースを歌うMademoiselle chante le blues」(作詞:ディディエ・バルブリヴィアンDidier Barbelivien、作曲:Bob Medhi)です。パトリシア・カースPatricia Kaasの歌は、ジャズやブルースに近いといわれますが、私はフランス演歌だと思っています。妖しい魅力を漂わせながら、小さい体ですごい声量で歌う姿から、「ピアフの再来」ともいわれました。数回の大々的な世界ツアーを成し遂げ、その際、日本にも再三訪れました。
この曲は1987年にシングルでリリースされ、翌1988年に同名のファースト・アルバムに収録され、同年、ヴィクトワール賞を受賞しています。「マドモアゼル・シャントゥ・ブルース」という邦題で呼ばれていますが、原題の読み風ながら、原題に含まれているleが入っていないということと、昨年2011年に出た、Mademoiselle n'a pas chanté que le blues(「マドモアゼルはブルースしか歌わなかった」の意味)というアルバム名も原題の読みで言うのかとも言いたくなるので、直訳の題名に変えました。また、歌詞のなかではあえて「お嬢」と訳しています。
Mademoiselle chante le blues マドモアゼルはブルースを歌う
Patricia Kaas パトリシア・カース
Y’en a qui élèvent des gosses au fond des hlm 注1
Y’en a qui roulent leurs bosses du Brésil en Ukraine 注2
Y’en a qui font la noce du côté d’Angoulême 注3
Et y’en a même
Qui militent dans la rue avec tracts et banderoles
Et y’en a qui en peuvent plus de jouer les sex symbols 注4
Y’en a qui vendent l’amour au fond de leur bagnole
公団住宅の奥で子供たちを育てる人たちもいる
ブラジルからウクライナへと渡り歩く人たちもいる
アングレームの近くで結婚式を挙げる人たちもいる
そしてまた通りではビラや旗で闘う人たちもいる
そしてセックス・シンボルをもはや演じられなくなった人たちもいる
クルマのなかで愛を売る人たちもいる
{Refrain:}
Mademoiselle chante le blues
Soyez pas trop jalouses
Mademoiselle boit du rouge
Mademoiselle chante le blues
お嬢はブルースを歌う
あまり妬っかまないでよ
お嬢は赤ワインを呑む
お嬢はブルースを歌う

Y’en a huit heures par jour qui tapent sur des machines 注5
Y’en a qui font la cour masculine féminine 注6
Y’en a qui lèchent les bottes comme on lèche des vitrines 注7
Et y’en a même
Qui font du cinéma, qu’on appellent Marilyn
Mais Marilyn Dubois s’ra jamais Norma Jeane 注8
Faut pas croire que l’talent c’est tout c’qu’on s’imagine
一日8時間タイプライターを打つ人たちもいる
女っぽくまた男っぽく言い寄る人たちもいる
ショーウィンドーをなめるように覗きこむみたいにブーツをなめるようにへつらう人たちもいる
そして映画に出る人たちもいて、ひとはマリリンと呼ぶ
だがマリリン・デュボワはノルマ・ジーンには決してならない
その才能は自身が想像するものだけがすべてだと思っちゃいけない
{Refrain}

Elle a du gospel dans la voix et elle y croit
彼女はゴスペル・ソングを声に備え自分でも自信がある
Y’en a qui s’font bonne sœur, avocat, pharmacienne
Y’en a qui ont tout dit quand elles ont dit je t’aime
Y’en a qui sont vieilles filles du côté d’Angoulême
Y’en a même
Qui jouent femmes libérées
Petit joint et gardénal qui mélangent vie en rose et image d’Epinal 注9
Qui veulent se faire du bien sans jamais s’faire du mal
{Refrain}
修道女、弁護士、薬剤師になる人たちもいる
あなたを愛しているわと言うことですべてを言いつくした人たちもいる
アングレームの近辺にはオールドミスたちもいる
そしてまた
解放された女性を演じる人たちも
マリファナや睡眠薬でバラ色の人生とエピナル版画を混同する人たちも
苦しい思いをしないでいい思いをしたいと願う人たちもいる

Elle a du gospel dans la voix et elle y croit
Mademoiselle chante le blues
彼女はゴスペル・ソングを声に備え自分でも自信がある
お嬢はブルースを歌う
[注]
1 Y’en a=Il y en a
2 rouler leurs bosses「転々と居所(職業)を変える、渡り歩く」
3 Angoulêmeフランス西部の都市
4 n’en pouvoir plus inf.「もう…できない」のneが省略されている。sex symbolsは英語。仏語ならsexe symboles。
5 huit heures par jourは挿入されている。
6 font la cour「(特に女性を)口説く、言い寄る」。masculine féminineはそれぞれ形容詞でla courにかかるが日本語に置き換えにくいので意訳した。
7 lècher は「なめる」の意味だが、lècher les bottesは「へつらう、おべっかを使う」、lècher des vitrinesは「ショーウィンドーを覗きこむ、ウィンドーショッピングをする」という成句。
8 マリリン・モンローMarilyn Monroeの本名がNorma Jeane Baker。
9 joint「マリファナたばこ」の俗名。gardénal「鎮痛剤、催眠剤」の一種。image d’Epinalは、エピナル地方で作られてきた、鮮やかな色彩の版画。
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