
イヴ・モンタンYves Montandの曲はすでに何曲か取り上げていますが、あらためてプロフィールをご紹介しましょう。
彼は、1921年にイタリアで生まれ、幼い頃にムッソリーニのファシスト政権から逃れて一家でフランスに移り住みました。本名はイーヴォ・リーヴィIvo Liviで、イヴ・モンタンという芸名は、子供の頃に、母親が戸外にいた彼を、「イーヴォ上がっておいで!Ivo, monta!」と呼んでいたのにちなむということはよく知られています。
マルセイユで育ち、1944年にパリに出て、エディット・ピアフÉdith Piafに見出されて本格的に歌い始めました。彼は数年間、ピアフの愛人でもあり、「バラ色の人生La vie en rose」で歌われる恋人はモンタンです。
1946年に出演した「夜の門Les portes de la nuit」で主題曲の「枯葉Les feuilles mortes」を歌い、これが大ヒットしました。大歌手になってからも、1968年の後半以降13年間ほどはシャンソンのステージに上がらずに映画に専念し、名優というにふさわしい本物の演技を見せてくれています。
そして、1981年に、60歳でオランピア劇場カムバック。翌年には東京公演もおこなわれました。エンターテイナーとしての魅力を存分に発揮した、すばらしいステージだったようです。
私生活面では、1951年に女優のシモーヌ・シニョレSimone Signoretと結婚し、何度か共演もしています。結構、浮気者だったようで、マリリン・モンローMarilyn Monroeと1960年の映画「恋をしましょうLet's Make Love」での共演の際に浮名を流したことは特に有名です。後年、アシスタントのキャロル・アミエルCarole Amielと結婚し、1988年に唯一の実子ヴァランタンValentinをもうけました。1991年に亡くなり、ペール・ラシェーズ墓地で、シモーヌ・シニョレと一緒に眠っています。生前、ある女性が、自分の娘がモンタンとの間にできた子だと言いだし、モンタンはDNA鑑定を拒否しましたが、彼の死後、その真否を確かめるために墓を開けてDNAを調べることになり、その結果、彼の子ではないことが判明したという珍しいエピソードがあります。
今回取り上げるのは、彼の代表曲のひとつ「自転車乗りLa bicyclette」(1968年)です。作詞がピエール・バルーPierre Barouh、作曲がフランシス・レイFrancis Laiという、「男と女Un homme et une femme」の映画音楽と同じコンビの作品です。モンタンはひとつの曲をたいへんな時間をかけて納得のいくまで練習したそうです。この曲の、ちょうど自転車で疾走しているような独特の軽快感も、並外れた努力が支えていたのでしょう。
原題は、À bicycletteとされていることが多いのですが、La bicycletteが正しいことが分かりました。邦題も「自転車」とすべきでしょうが、あえて「自転車乗り」のままにいたします。
これは1981年のオランピアでの公演。表情がとてもいいですね!茶色のシャツにズボン、ノー・ネクタイというのはデヴュー当時と同じ格好のようです。
La bicyclette 自転車乗り
Yves Montand イヴ・モンタン
Quand on partait de bon matin 注1
Quand on partait sur les chemins
À bicyclette
Nous étions quelques bons copains
Y avait Fernand y avait Firmin 注2
Y avait Francis et Sébastien
Et puis Paulette
僕らは朝早く出発し
僕らは路上を走り出した
自転車で
僕らはいい仲間だった
フェンナンがいてフィルマンがいて
フランシスがいてセバスチャンも
そしてポーレットも

On était tous amoureux d'elle
On se sentait pousser des ailes 注3
À bicyclette
Sur les petits chemins de terre 注4
On a souvent vécu l'enfer
Pour ne pas mettre pied à terre
Devant Paulette
僕らはみんな彼女が好きだった
僕らは羽が生えたみたいな気分だった
自転車に乗って
土の小道で
ときどきすごく辛い思いをした
ポーレットの前で
地面に足をつけないために
Faut dire qu'elle y mettait du cœur 注6
C'était la fille du facteur
À bicyclette 注7
Et depuis qu'elle avait huit ans
Elle avait fait en le suivant
Tous les chemins environnants
À bicyclette
彼女は気が入っているってこと言っておかなきゃ
自転車に
郵便配達人の娘だったからさ
8歳の時から
そのあとを追って
周辺の全部の道を
走っていたんだ
自転車で

Quand on approchait la rivière
On déposait dans les fougères
Nos bicyclettes
Puis on se roulait dans les champs
Faisant naître un bouquet changeant 注8
De sauterelles, de papillons
Et de rainettes
川の近くまで行ってから
シダの茂みに置いた
僕らの自転車を
そして野原を転げまわった
キリギリスや蝶々や
アマガエルなど
代わる代わる飛び出させながら
Quand le soleil à l'horizon
Profilait sur tous les buissons
Nos silhouettes
On revenait fourbus contents
Le cœur un peu vague pourtant
De n'être pas seul un instant 注9
Avec Paulette
地平線の太陽が
あたりの草むらのうえに
僕らの影をくっきりと映し出したとき
僕らは家路についた 疲れ切って満足して
けど ちょっとすっきりしない気持ちで
わずかな間もポーレットと
二人っきりになれなかったから

Prendre furtivement sa main 注10
Oublier un peu les copains
La bicyclette
On se disait c'est pour demain
J'oserai, j'oserai demain
Quand on ira sur les chemins
À bicyclette
こっそり彼女の手を取ること
仲間たちをちょっと忘れること
自転車
それは明日のことにしようと思った
明日僕はきっときっとやってやるさ
道路を走るときにね
自転車で
[注] 会話では、自転車のことを、vélo(初期の自転車vélocipèdeの略)ということが多く、貸し自転車のVélib(vélo+libre)も最近普及している。
1 onはnousと同義。この歌詞も、前回の「サンジャン」と同様、半過去が多い。de bon matin「朝早く」
2 すべて、Il y avaitのilが省略されている。
3 se sentir+inf.「自分が…するのを感じる」pousser des ailes「羽をはやす」のはonだが、訳としては、「羽がはえる」というほうが自然。
4 terreには「地球」「大地」という意味もあるが、ここは「土」。つまり、舗装していない道を走るわけだ。2行あとのterreは「地面」。
5 vivre l'enfer「地獄を生きる」すなわち、たいへん辛い状態を体験すること。
6 Il faut direのilが省略されている。mettait du cœur à…「…に熱意を注ぐ」
7 à bicycletteは前行のdu facteurからつながると同時に、もう一つ前の行のyの内容にもなっている。
8 この行からこの節の最後にかけては理解しづらいが、野原を転げまわるとびっくりして飛び出してくる生き物たちをbouquet changeant と言っているようだ。ちなみにbouquetには「打ち上げ花火の最後の大花火」の意味もある。
9 seul avec Pauletteひとりで彼女といっしょ、つまりは彼女と二人っきりになるということ。
10 不定詞の2行とLa bicycletteは、そのあとのc'est…のceの内容となる。
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