
ジャック・ブレルJacques Brelは、自分の少年時代を内容とした曲をいくつか歌っています。今回、そのうちの「子供の頃Mon enfance」を取り上げます。この曲は、父親のことを歌ったMon père disaitとともに1967年のJacques Brel 67というアルバムに収録されています。難解な部分があって少々苦労し、不完全ですが出すことにいたします。
ブレルはベルギーのブリュッセル生まれですが、この曲をはじめとして彼の曲の歌詞には「フラマン人flamand」という言葉がよく出てきます。「フランドルFlandreに住む人」という意味ですが、フランドルとは、旧フランドル伯領を中心とした、フラマン語(オランダ語の一種)が公用語の、オランダ、ベルギー、フランスにまたがった地域のことです。英語ではFlanders。子どもの頃に「フランダースの犬」という本をお読みになった方があろうかと思いますが、そのフランダースです。ベルギー国内ではフラマン語共同体と分類される部分で、北部のフランデレン地域と領域がほぼ同じで事実上同一の地域として扱われ、ブレルはフランデレン地域のフラマン人の血筋です。
ブレルはフランスを「魂の故郷」と呼び、生まれ育ったベルギーについては反駁の態度を示したと言われます。しかし、故郷の人々への愛情を表現する歌詞も多く、その田舎臭さを揶揄するのも逆説的な愛情表現と捉えることができます。そしてまた、フランデレン地域と南部のワロン地域の対立を憂慮し、フランデレン民族主義(フランデレン分離独立主義)に反対する態度を強く表明しています。
ライブ
Hé! m'manという曲を含めたリハーサル。インタヴューに答えている部分もあり、貴重な動画です。
Mon enfance 子供の頃
Jacques Brel ジャック・ブレル
Mon enfance passa
De grisailles en silences 注1
De fausses révérences
En manque de batailles
L'hiver j'étais au ventre
De la grande maison
Qui avait jeté l'ancre
Au nord parmi les joncs
L'été à moitié nu
Mais tout à fait modeste
Je devenais indien 注2
Pourtant déjà certain
Que mes oncles repus
M'avaient volé le Far West
僕の少年期は過ぎ去った
静かな単色の風景のなかを
争いのない
いつわりの礼儀正しさのうちに
冬、大きな家のふところで
僕は過ごした
家はイグサに覆われた北方の地に
錨を下ろしていた
夏、半身はだかで
だがとても控えめに
僕はインデアンになった
けれど飽食家の叔父たちが
僕から遥かなる西部を奪い去ることは
もう確かだった

Mon enfance passa
Les femmes aux cuisines
Où je rêvais de Chine
Vieillissaient en repas 注3
Les hommes au fromage 注4
S'enveloppaient de tabac 注5
Flamands taiseux et sages
Et ne me savaient pas
Moi qui toutes les nuits
Agenouillé pour rien
Arpégeais mon chagrin 注6
Au pied du trop grand lit
Je voulais prendre un train
Que je n'ai jamais pris
僕の少年期は過ぎ去った
僕がシナを夢見ていた
台所で女たちは
まかないに携わっていた
気楽な身分の男たちは
タバコをくゆらせていた
無口でおとなしいフラマン人たちは
僕のことを知らなかった
僕は毎晩わけもなくひざまずき
どでかいベッドの足元で
悲しい気持ちに浸っていた
僕は乗ったことのない
列車に乗りたかった

Mon enfance passa
De servante en servante 注7
Je m'étonnais déjà
Qu'elles ne fussent point plantes 注8
Je m'étonnais encore
De ces ronds de famille
Flânant de mort en mort
Et que le deuil habille
Je m'étonnais surtout
D'être de ce troupeau
Qui m'apprenait à pleurer
Que je connaissais trop
J'avais l'œil du berger
Mais le cœur de l'agneau
僕の少年期は過ぎ去った
女中から女中へと
僕は驚いていた
彼女たちが身を落ち着けないことに
僕はまた驚いていた
死から死へと渡り行き
喪服が似合う
この家族の輪舞にも
僕はなかんずく意外だった
この群に属するということが
この群は僕に泣くことを教え込み
僕は泣くことを知り過ぎていた
僕は羊飼いの耳を持っていた
だが羊の心を持っていた

Mon enfance éclata
Ce fut l´adolescence
Et le mur du silence
Un matin se brisa
Ce fut la première fleur
Et la première fille
La première gentille
Et la première peur
Je volais je le jure
Je jure que je volais
Mon cœur ouvrait les bras
Je n'étais plus barbare
僕の少年期ははじけ散った
それは青春だった
そして沈黙の壁が
ある朝崩壊した
それは初めての花
初めて会った少女
初めてのやさしい人
そして初めての恐れだった
僕は宙を飛んだ誓うよ
誓うよ僕は宙を飛んだと
僕の心は諸手を広げていた
僕はもう野蛮人ではなかった
Et la guerre arriva
そして戦争が始まった
Et nous voilà ce soir.
そして僕たちは今夜ここにこうしている。
[注]
1 grisaille「グリザイユ技法」という、灰色の濃淡で浮彫のような効果を出す絵画技法およびその作品。グリザイユを思わせる灰色の風景を言うこともある。
2 indien あとにle Far Westとあるので、「インド人」ではなく「アメリカン・ネイティヴ」を指す。
3 vieillir本来は「歳をとる」。「(ある職業などに)長年携わる」という意味もある。
4 fromage本来は「チーズ」。「気楽な地位」をも意味する。
5 s'envelopper de「…で身を包む、」tabac「タバコ」で、というのは、タバコの煙で、ということだろう。
6 arpéger「(楽器を)アルペッジョで弾く」が本義だが、メタファーとして感覚や感情を引き起こすことをも言う。
7 de…en「…から…へ」世話をしてくれる女中が次々と変わったということを言っている。
8 ne…point(=ne…pas)「少しも…ない」方言・文語的表現で用いられる。plante本来は「植物」だが、「伸びゆく人間」「根付いていくもの」の意味でも用いられる。
Comment:1
コメント
私は、バルバラの、子供のころ、より、ブレルの、子供のころ、のほうが好きなので、日本語の意味をを知りたくて、ここに、たどり着いたのですが、
バルバラが作った、子供のころを、ブレルが歌っている動画ですね。
歌詞も、そちらのが、載っています
バルバラが作った、子供のころを、ブレルが歌っている動画ですね。
歌詞も、そちらのが、載っています
岩田みどり
2021.10.09 18:51 | 編集
