
「ミロールMilord」はエディット・ピアフÉdith Piafが1959年に創唱しました。彼女の父親は大道芸人で、母親はカフェで歌う歌手。幼いころは祖母の経営する娼婦宿で育ち、十代半ばから、ストリート・シンガーとして歌い始めます。小さな体で歌う姿から「小さなスズメ」と呼ばれたことから、ピアフ(スズメ)という芸名がつけられたそうです。
大歌手となってからは、シャルル・アズナヴールCharles Aznavour、イブ・モンタンYves Montand、ジルベール・ベコーGilbert Bécaud・ジョルジュ・ムスタキGeorges Moustakiなどの歌手の才能を見出しデヴューを助けました。そうした育成と重なる部分も大いにあるようですが、関係のあった男性は多かったといわれます。
30代半ばからモルヒネ中毒で苦しみ、47歳で癌で亡くなりましたが、訃報を知ったジャン・コクトーJean Cocteauが後を追うようにして同じ日に亡くなったことは有名な話です。
2007年に封切りされた映画「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」は、きちんと実話に即して作られ、演じている女優さんも彼女が乗り移ったのではないかと思えるほどの迫真の演技をしていて、観る価値ありです。
ミロールmilordとはもともとは英国の貴族などに対する敬称でしたが、金持ちの紳士を指す、客への呼びかけの言葉として使われます。いわば「だんな」とといった意味ですが、歌詞では大文字を用いて個人名のような扱いになっていますし、日本でもこの読みのままの邦題で知られています。作詞はムスタキ。作曲はマルグリット・モノーMarguerite Monnot。心温まるいい歌で、娼婦宿で育ったピアフならでこそ出せる持ち味だと思いますが、哀しい娼婦の身の上やミロールの失恋のいきさつなどを、聴く側がふと想像したくなることも、この歌の奥行きとなっているようです。
Milord ミロール
Édith Piaf エディット・ピアフ
{Refrain:}
Allez venez! Milord 注1
Vous asseoir à ma table
Il fait si froid dehors
Ici, c'est confortable
Laissez-vous faire, Milord 注2
Et prenez bien vos aises
Vos peines sur mon cœur
Et vos pieds sur une chaise
Je vous connais, Milord
Vous ne m'avez jamais vue
Je ne suis qu'une fille du port
Une ombre de la rue...
さぁさぁ!ミロール
あたしのテーブルに座りにおいでよ
外はとても寒いけど
ここは快適だよ
まかせてよ、ミロール
気楽にしてね
苦しいことはあたしに
足は椅子にお預けなさい
あたし、あんたを知ってるわ、ミロール
あんたはあたしを見たことないだろうね
あたしは港の女
日陰暮らしの身…
Pourtant, je vous ai frôlé
Quand vous passiez hier
Vous n'étiez pas peu fier
Dame! le ciel vous comblait
Votre foulard de soie
Flottant sur vos épaules
Vous aviez le beau rôle
On aurait dit le roi
Vous marchiez en vainqueur
Au bras d'une demoiselle
Mon Dieu! qu' elle était belle
J'en ai froid dans le cœur...
けど、あたしあんたにすれ違ったわ
あんたが昨日通りかかったとき
ずいぶん偉そうにしてた
おー!神様はあんたの望みを叶えてくれたんだ
絹のスカーフを
肩のうえではためかせて
すてきな役割を演じてたあんたは
王様みたいだった
あのお嬢さんと腕組んで
勝利者然として歩いてた
おーなんと!この人きれいなんだろうと
あたし、もうぞっとしたわ…

{Refrain}
Dire qu'il suffit parfois 注3
Qu'il y ait un navire
Pour que tout se déchire
Quand le navire s'en va
Il emmenait avec lui
La douce aux yeux si tendres
Qui n'a pas su comprendre
Qu'elle brisait votre vie
L'amour, ça fait pleurer
Comme quoi l'existence 注5
Ça vous donne toutes les chances
Pour les reprendre aprés...
なにもかもぶち壊しになるのに
船一艘あれば十分だってことがちょくちょくあるとはね
船は出港するとき
優しい目をしたあの娘を連れてっちまった
彼女のほうは、あんたの人生を壊しちゃったことに
気づくよしもなかった
愛って泣かせるよね
けどどんな人生だって
あとで取り返すためのチャンスをぜんぶ与えてくれるもんだよ

Allez venez! Milord
Vous avez l'air d'un môme
Laissez-vous faire, Milord
Venez dans mon royaume
Je soigne les remords
Je chante la romance
Je chante les milords
Qui n'ont pas eu de chance
Regardez-moi, Milord
Vous ne m'avez jamais vue...
Mais vous pleurez, Milord
Ça, j'l'aurais jamais cru. 注4
さぁおいでよ!ミロール
まるで子供みたいだね
まかせてよ
あたしの王国においでよ
愚痴を聞いたげる
愛の歌を歌ったげる
ツイてなかったミロールたちの歌を歌ったげるわ
あたしを見てよ、ミロール
あんたはあたしを見たことないだろうね…
けど泣いてるのね、ミロール
まぁ、信じられないわ

{parlé:}
Eh! bien voyons, Milord
Souriez-moi, Milord
Mieux que ça, un p'tit effort...
Voilà, c'est ça!
Allez riez! Milord
Allez chantez! Milord
Ta da da da...
Mais oui, dansez, Milord
Ta da da da...
Bravo! Milord...
Ta da da da..
Encore, Milord...
Ta da da da...
さぁさ!ほら、ミロール
あたしに微笑んでごらんよ、ミロール
もっとよ、ちょっとがんばってさ…
あぁ、そうだよ!
笑って!ミロール
歌って!ミロール
タラララ…
ほら、踊って、ミロール
タラララ…
ブラボー!ミロール…
タラララ…
もう一度、ミロール…
タラララ…
[注]
1 milordは原語の読みで表記した。
2 se laisser faireは、「人の言うなりになる」「なりゆきに任せる」という意味。
3 Dire que+直説法は、驚きや憤慨を表して「…とはね」という意味。
次行のQue+接続法Bは、前行のilの内容を説明する部分。
また次のPour que+接続法Aは、「Aするためには」という意味。したがって、「AするためにはBするだけで十分だとはね」、
4 条件法過去形で、思いもしなかったことをあらわしている。「そんなこともあるんだ!」と訳してもいいような内容。
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