2015
05.09

わが心のアランフェスAranjuez, mon amour

Richard Anthony


マドリード郊外のアランフェスにある宮殿は、ブルボン王朝全盛の頃、春の離宮として使用されていたもので、2001年には世界遺産に登録されました。スペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」は、この美しい場所にも醜い傷跡を残したスペイン内戦への非難を込めて作られた曲です。
この曲にギ・ボンタンペリGuy Bontempelliがフランス語の歌詞をつけてリシャール・アントニーRichard Anthonyが歌ったAranjuez, mon amourを今回取り上げます。

リシャール・アントニーは、1938年、エジプト、カイロ生まれで、イギリスやアルゼンチンで幼少時代を過ごしたのち、パリに来ました。1958年のデビューから、60年代半ばまで、英米のヒット曲をフランス語にして歌い、ピーター・ポール・アンド・マリーPeter, Paul and Maryの「500マイル500 Miles」(仏題:J'entends siffler le train)、ボブ・ディランBob Dylanの「風に吹かれてBlowin' in the Wind」(仏題:Ecoute dans le vent)などがヒットしました。当時はまさにイエイエ時代、内気な彼は「ロックの物静かな父親」と呼ばれたそうです。そして、1967年に出されたこの曲が世界中で大ヒットし800万枚以上の売り上げを記録。その後も活動を続け、600曲以上録音し、21曲が売り上げ1位、アルバムを5000万枚以上売り上げました。そして、つい先日4月19日に大腸癌で亡くなりました。77歳でした。

原曲そのままにクラシック・オーケストラをバックに歌う美しい曲。「恋のアランフェス」という邦題で呼ばれることもあり、モナムールmon amourが連発されるので、恋の歌だと思われがちですが、アランフェスAranjuezを擬人化して呼びかけているわけで、作曲家の意思に忠実に、スペイン内戦をテーマとした歌詞なのです。ちょうど、「桜んぼの実る頃Le temps des cerises」がパリ・コンミューンの連盟兵たちの虐殺を背景としているのと同じように。したがって、「恋のアランフェス」という邦題は避け、「わが心のアランフェス」としました。

1936年の人民戦線政府の成立から始まり、1939年4月1日のフランコ軍事政権の樹立で幕を閉じたスペイン内戦が歌詞のテーマです。軍隊がやって来て、人民戦線側の市民たちを壁の前で銃殺しました。そして、その命日に、彼らの死を悼む人々がやって来て花を手向けます。壁を這い赤い花を咲かせるバラは、まるで彼らの血痕の跡のようです。

よりきれいで音質のいい動画でも、あまりにも歌詞の内容から離れている映像のものは選びたくないので、こちらにいたしました。



Aranjuez, mon amour  わが心のアランフェス
Richard Anthony     リシャール・アントニー


Mon amour
Sur l'eau des fontaines
Mon amour
Où le vent les amène 注1
Mon amour
Le soir tombé 注2
On voit flotter 注3
Des pétales de roses

  いとしい君よ
  泉のみなもに
  風が運んだのか
  いとしい君よ
  日暮れて
  バラの花びらの
  漂うのが見える

Aranjuez5.jpg


Mon amour
Et les murs se gercent
Mon amour
Au soleil, au vent, à l'averse
Et aux années qui vont passant 注4
Depuis le matin de mai qu'ils sont venus 注5
Et quand chantant, soudain ils ont écrit 注6
Sur les murs, du bout de leur fusil
De bien étranges choses 注7

  いとしい君よ
  壁はひび割れる
  いとしい君よ
  太陽と、風と、驟雨と
  過ぎゆく年月にさらされて
  彼らがやって来て
  そして歌いながら、やにわに
  とても奇妙なものを
  銃口で壁に記した  
  あの5月の朝以来

Mon amour
Le rosier suit les traces
Mon amour
Sur le mur et enlace 注8
Mon amour
Leurs noms gravés
Et chaque été
D'un beau rouge sont les roses 注9

  いとしい君よ
  バラの木はその痕跡を伝って伸びる
  いとしい君よ
  壁の上を そして絡み付く
  いとしい君よ
  刻まれた彼らの名に
  そして夏が訪れるたびに
  バラの花々は美しい赤一色になる

Mon amour
Sèchent les fontaines
Mon amour
Au soleil, au vent de la plaine
Et aux années qui vont passant
Depuis le matin de mai qu'ils sont venus
La fleur au cœur, les pieds nus
Le pas lent et les yeux éclairés d'un étrange sourire

  いとしい君よ
  泉も枯れている
  いとしい君よ
  太陽と、野にわたる風と、
  過ぎゆく年月にさらされて
  花を抱き、靴を履かず
  ゆっくりした足どりで、妙な笑みで目を輝かせて
  人々がやって来た
  あの5月の朝以来

Et sur ce mur, lorsque le soir descend
On croirait voir des taches de sang 注10
Ce ne sont que des roses
Aranjuez, mon amour

  そして壁には、日暮れたのち
  いくつもの血のあとが見えるやに思えるが
  それはバラの花々に過ぎない
  アランフェス、いとしい君よ

Aranjuez3.jpg


[注]
1 lesはこの節の最後のdes pétales de roses。
2 tombé の前にétantが省略されている。
3 知覚動詞+qqn/qqc +inf.「が…するのを知覚する」の語順が変わっている。
1節目を、mon amour を省き、散文的な表現に変えると、Le vent amène des pétales de roses sur l'eau des fontaines. Le soir étant tombé, on les y voit flotter.となる。
4 aller en+現在分詞「しだいに…する」のenが省略されている。
5 depuis以下はles murs se gercentにつながる。qu'ils以下はle matin de maiの説明で、本来はoùを用いるところをqueで代用。
6 quand以下はils sont venusのあとで起こったことだが、[例文]Il se promenait dans le bois quand il a rencontré un viellard.「彼が森を散歩しているとひとりの老人に出会った」と同様の用法。したがって、A quand B.は、「Bしていた時Aが起こった」ではなく、「Aしていて、その時、Bが起こった」ということになる。chantantは、後続のils ont écritを修飾。
7 直接的な表現を避け、銃の乱射で銃弾が壁を傷つけ、また血痕の跡も残ったということだけを言っている。
8 enlacerは、「(植物が)絡み付く」と「抱き締める」の二義がある。双方の意味を含めた表現だろう。
9 通常の語順に変えると、Les roses sont d'un beau rouge.
10 croiraitは条件法で、婉曲表現。



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