
今回はイヴ・デュテイユYves Duteilの「夜の通行人に捧ぐHommage au passant d'un soir」。彼自身が作詞・作曲しギターの弾き語りで歌っています。1981年に出たÇa n'est pas c'qu'on fait qui compte というアルバムに収録されています。
この歌詞には、どこかちょっとバルバラの「黒いワシL'aigle noir」を思い起こさせるものがあります。「過去から現れたひとりの通行人Un passant, surgi du passé」とは?私はこの曲を、加藤登紀子の日本語の歌で知りました。その歌詞はある程度原曲の内容を引き継いでいますが、「通行人」が恋の対象となるような女性として描かれているのが原曲の意図とは異なります。別の日本語の歌詞は、女性歌手が身を貶めるまでにして歌手としての自分を売る姿をあらわしていますし、ほかにもいろいろあるようで。
デュテイユの歌は、フランス語の発音の訓練にとてもいいと以前から思っています。この曲を、この美しいメロディに乗って滑らかに歌えるようになるにはかなり上達する必要がありそう。私も始めてみます!
デュテイユの動画はYouTubeにはありませんでしたが、2012年に私が作成しました。
Hommage au passant d'un soir 夜の通行人に捧ぐ
Yves Duteil イヴ・デュテイユ
Quand je jouais de la guitare
Par plaisir ou par désespoir 注1
Rue Dufour et Rue Vaugirard,
J'arrêtais vers onze heures du soir.
Je fouillais mes carnets d'adresses
Pour trouver deux sous de tendresse,
Des amours que le petit jour emportait sans cesse. 注2
J'ignorais ce qu'était ma vie,
J'ignorais, mais j'avais envie
De chanter pour être moins triste et moins seul aussi.
Puis un soir, pour m'encourager,
Un passant, surgi du passé,
M'avait dit des mots qui depuis ne m'ont plus quitté.
楽しみでまたは落ち込んだ気分で
デュフォール通りやヴォジラール通りで
ギターを弾いていたとき
夜11時ごろには終えていた。
僕は 住所録をさぐって、
わずかな優しさを、
朝がのべつ奪い去る愛情を探しだす。
僕は自分の生き方が分からなかった、
分からなかった、けれど欲していた
悲しみと孤独とを軽減するために歌うことを。
そしてある夜、僕を勇気づけようと
ひとりの通行人が、過去から現れて、
それ以来忘れることのできない言葉を僕に言った。

Quand je jouais de la guitare,
Avenue de l'Observatoire,
J'ignorais que dans ton regard
Le bonheur était provisoire. 注3
J'écrivais des chansons d'amour
Et chacun s'asseyait autour.
Des sourires étaient ma récompense et tu souris toujours.
J'ignorais ce qu'était ta vie,
J'ignorais, mais j'avais envie
De chanter pour que tout soit bien quand le ciel est gris.
Tout autour dans nos univers
Le printemps virait à l'hiver,
Et les jours du calendrier passaient à l'envers. 注4
天文台大通りで、
ギターを弾いていたとき、
あなたの視線に
つかの間の幸せがよぎったことに気づかなかった。
僕は愛の歌を書いていて
みんなは周りに座っていた。
僕は感謝の気持ちで微笑み あなたも終始微笑んでいた。
僕はあなたの生活を知らなかった
知らなかった、けれど欲していた
空が灰色のときにすべてがよくなるようにと歌うことを。
僕たちのまわりでは
春が冬に戻っていた、
そしてカレンダーの日付は逆行していた。
{Instrumental}
[間奏]
Puis j'ai joué de la guitare 注5
Sur ton cœur et loin des regards.
Tout le reste était dérisoire,
Le présent perdait la mémoire. 注6
Je vivais mes chansons d'amour,
J'avais peur de te perdre un jour,
Et j'aimais les bruits de l'école en bas dans ta cour. 注7
J'ignorais si c'était ma vie,
J'ignorais, mais j'avais envie
De continuer mon chemin vers le paradis.
Je respirais tout doucement,
J'avais peur d'éveiller le temps
Qui dormait dans nos souvenirs, et j'étais content.
そして僕はギターを弾いた
あなたの心に向け 人々の視線を離れて。
ほかのものはすべて取るに足りなかった、
「今」が記憶を失っていた。
僕は自分の愛の歌を生きていた、
いつかあなたを失うかもしれないと恐れ、
あなたのところの中庭で下の方から聞こえる学校のざわめきを愛した。
それが自分の生き方なのか分からなかった
分からなかった、けれど欲していた
天国に向かって自分の道を進むことを。
僕はとても静かに呼吸していた、
僕は目覚めさせることを恐れていた
想い出のなかに眠りこんでいる時間を、そして僕は満足だった。
La la la la la la la…
La la la la la la la…
J'ignorais si c'était ma vie,
J'ignorais, mais j'avais envie
De continuer mon chemin vers le paradis.
Je respirais tout doucement,
J'avais peur d'oublier ce temps
Je rêvais de m'en souvenirs, depuis si longtemps.
ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ…
ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ…
それが自分の生き方なのか分からなかった
分からなかった、けれど欲していた
天国に向かって自分の道を進むことを。
僕はとても静かに呼吸していた、
僕はこの時間を忘れることを恐れていた
それを覚えていたいと夢みていた、ずっと前から。

Quand je jouais de la guitare
Pour te plaire ou pour t'émouvoir
En hommage au passant d'un soir, 注8
J'écrivais pour l'amour de l'art.
J'ignorais que c'était ma vie,
J'ignorais, mais j'avais envie
De chanter pour que tu sois fière de m'avoir choisi.
あなたを喜ばせあるいはあなたを感動させようと
ある夜の通行人に捧げ
ギターを弾くとき、
僕は芸術への愛のために曲を書く。
僕は自分の生き方が分からなかった
分からなかった、けれど欲していた
あなたが僕を選んだことを誇りにしてくれるために歌うことを
La la la la la la la…
ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ…
[注]
1 par plaisir「気晴らしに、楽しみで」
2 一夜の宿を提供してくれる人(女性?)を住所録で探す。だが、朝になると終わる愛情である。
3 provisoire「かりそめの、一時的な」。この行を直訳すると、「幸せが一時的であること」。
4 すなわち、意識が過去に向かっていた。
5 歌詞全体がほとんど半過去で書かれているのに、ここは複合過去になっている。ここでギターを弾くという行為が、特別の「今」という時間をもたらす。
6 次行にJe vivais mes chansons d'amourとあることからも分かるように、 「今」だけがあるという状態を、「『今』が記憶を失っていた」と表現している。
7 les bruits de l'école、そしてdans ta courとあるので、courを「校庭」とすると「あなた」すなわち「過去から現れたある通行人」は、学校時代の先生だったのか…。あるいは、その人物は「昔から彼の音楽を見守ってくれている」象徴的な存在なのか?
8 en hommage à「…に敬意を表して」
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