
今回は、ミスタンゲットMistinguettの「私の男Mon homme」です。
1918年に第一次世界大戦が終了した後、1920年代には、パリの女性たちは長かった髪をばっさり耳元まで切り、唇には真っ赤なルージュを塗り、コルセットを外しパンツスタイルで自転車にまたがり、カフェでシガレット片手に男性さながらに政治を語るなどするようになりました。そうした時代、まさしくパリが花開き、そしてパリが華やかに浮かれた黄金時代は「狂気の時代Les année folles」と呼ばれました。しかし1929年の世界恐慌とともに、その華やかな狂気の時代は儚くも終焉を迎えました。その「狂気の時代」の象徴ともされた歌手がミスタンゲットMistinguett(1875-1956)で、華麗な舞台と脚線美で人々を魅了しました。15歳年下の歌手モーリス・シュヴァリエMaurice Chevalierと恋仲だったことでも知られています。歌では「サ・セ・パリCa, c'est Paris」が一番有名です。
エディット・ピアフÉdith Piaf 、ジュリエット・グレコJuliette Gréco、パタシューPatachouも歌っています。
昨年2014年3月のカジノ・ド・パリでのミュージカル「ミスタンゲット、狂気の時代の女王Mistinguett, reine des années folles」でグアテマラ生まれのカルメン・マリア・ヴェガCarmen Maria Vegaがミスタンゲットを演じました。
Mon homme 私の男
Mistinguett ミスタンゲット
Sur cette terr', ma seul' joie, mon seul bonheur
C'est mon homme.
J'ai donné tout c'que j'ai, mon amour et tout mon cœur
À mon homme
Et même la nuit,
Quand je rêve, c'est de lui,
De mon homme.
Ce n'est pas qu'il est beau, qu'il est riche ni costaud
Mais je l'aime, c'est idiot,
I'm'fout des coups 注1
I'm'prend mes sous,
Je suis à bout 注2
Mais malgré tout 注3
Que voulez-vous 注4
この地上で、私の唯一の楽しみ、私の唯一の喜び
それは私の男。
私は持っているものをすべて与える、私の愛、私の心を
私の男に
そして夜も、
見るのは、彼の夢、
私の男の夢。
彼が美男子だからでも金持ちだからでもがっしりしているからでもなく
私は彼を愛してる、それはおかしなこと、
彼は私を殴る
彼は私のお金を取る、
私はもう限界
でもやっぱり
どうしようもないの

Je l'ai tell'ment dans la peau 注5
Qu'j'en d'viens marteau, 注6
Dès qu'il s'approch' c'est fini
Je suis à lui
Quand ses yeux sur moi se posent
Ça me rend tout' chose 注7
Je l'ai tell'ment dans la peau
Qu'au moindre mot
I'm'f'rait faire n'importe quoi
J'tuerais, ma foi
J'sens qu'il me rendrait infâme
Mais je n'suis qu'un' femme
Et, j'l'ai tell'ment dans la peau...
私はあまりにも彼に首ったけ
気が変になりそうなくらいに
彼が近づいてきたらもうおしまいよ
私は彼のもの
彼の視線が私に注がれると
私は生き返る
私はあまりにも彼に首ったけで
ちょっと口に出すだけで
彼は私に何でもやらせるわ
捨てるわ、信仰も
彼は私を卑しい女にしてしまった気がする
でも私はひとりの女にすぎない
そして、こんなに彼に首ったけなの…
Pour le quitter c'est fou ce que m'ont offert
D'autres hommes.
Entre nous, voyez-vous ils ne valent pas très cher 注8
Tous les hommes
La femm' à vrai dir' 注9
N'est faite que pour souffrir
Par les hommes.
Dans les bals, j'ai couru, afin d'l'oublier j'ai bu
Rien à faire, j'ai pas pu 注10
Quand i'm'dit : ‟Viens”
J'suis comme un chien
Y a pas moyen
C'est comme un lien
Qui me retient.
彼と別れるために、わたしにやたら手助けしてくれるわ
ほかの男たちが。
ここだけの話だけれど、そうなの、彼らは大して値打ちがないのよ
男たちはみんな。
本当のところ女はね
苦しむようにしか作られていない
男でね
ダンスホールに、私は通いつめた、彼を忘れようとお酒を飲んだ
どうしようもない、だめだったわ
彼が私に、「おいで」と言えば
私は犬みたいに言うことをきく
手立てはないの
まるで紐で
つながれているみたい

Je l'ai tell'ment dans la peau
Qu'j'en suis dingo.
Que cell' qui n'a pas aussi
Connu ceci
Ose venir la première
Me j'ter la pierre.
En avoir un dans la peau
C'est l'pir' des maux
Mais c'est connaître l'amour
Sous son vrai jour 注11
Et j'dis qu'il faut qu'on pardonne
Quand un' femme se donne
À l'homm' qu'elle a dans la peau...
私はあまりにも彼に首ったけ
気が狂うほどに。
誰か、まだこんな経験を
したことのない女は
真っ先にやってきて
私に石を投げるわ。
ひとりの男に首ったけになるなんて
悪のうちでも最低だけど
それは恋というものを
ほんとうに知ることなの
だから私は言いたいの、皆は許すべきだと
ひとりの女が
首ったけの男にすべてを捧げることを

[注]
1 (I’m’fout=Il me fout) foutre des coups à qn.「…を殴る」
2 à bout「(体力・忍耐などの)限界に」
3 malgré tout「是が非でも」「それでもなお、やはり」
4 Que voulez-vous「しかたないじゃないか、どうしようもないだろう」
5 avoir qn./qc. dans la peau「(人に)ほれ込む、熱愛している、(物に)熱中している、夢中になる」
6 marteauは名詞の「金槌」の意味のほかに、形容詞の「気がふれている、頭がおかしい」の意味がある。
7 Ça me rend tout’ chose「そのことは、私にすべてを取り戻させる」すなわち「そのことで私は回復する」。さらに意訳した。
8 entre nous「ここだけの話だが」。voyez-vous「考えてみてください、そうでしょう」。
9 à vrai dire「実を言うと、本当のことを言うと」
10 Rien à faire.=Il n’y a rien à faire「どうしようもない」
11 connaître qn.(qc.) sous son vrai(véritable) jour「…をその真の姿において知る、正しく知る」
Comment:6
コメント
Oseは初めての単語で名詞だと思い込んでいました。動詞だったのですね。
理解出来ました。ありがとうございます。
理解出来ました。ありがとうございます。
浜田昌子
2021.07.06 18:20 | 編集

oseは「思い切って…する、厚かましくも…する」の意味の動詞oserの三人称単数形。
oser+動詞の不定詞の形で用いられます。
私の訳ではあえて訳語には表していませんが。
ここでは動詞の不定詞はvenirとj'ter(=jeter)で、
主語はcell'(=celle)です。
oser+動詞の不定詞の形で用いられます。
私の訳ではあえて訳語には表していませんが。
ここでは動詞の不定詞はvenirとj'ter(=jeter)で、
主語はcell'(=celle)です。
朝倉ノニー
2021.07.05 11:56 | 編集

何時もサイトで勉強させていただいています。浜田です。
Ose venir la première の Oseが解らないのですが教えていただけないでしょうか。
宜しくお願いします。
Ose venir la première の Oseが解らないのですが教えていただけないでしょうか。
宜しくお願いします。
浜田 昌子
2021.07.05 10:16 | 編集

丁寧な説明ありがとうございました。
今回のことも、何年も前からどうしてだろうと思っていたことも、音節の説明でパッと雲が晴れました。
思い当たる歌が沢山あります。
ありがとうございました。
今回のことも、何年も前からどうしてだろうと思っていたことも、音節の説明でパッと雲が晴れました。
思い当たる歌が沢山あります。
ありがとうございました。
浜田昌子
2021.05.06 10:08 | 編集

次行のC'estや次々行のJ'aiの場合は、Ce estやJe aiではなく次の母音とつなげて発音するということはお分りでしょう。
terr'やseul'の場合は異なった説明が必要です。
フランス語では音節という考え方が重要で、子音+母音で1音節となり、子音だけでは音節を形成しません。
たとえば、tristeという単語はtri+steの2音節です。舌は4回動きますが唇は2回しか動かないのです。
鏡を見て発音して唇が4回動いていればフランス語とは別物のカタカナ読みの発音です。
terreとseuleはそれぞれ2音節ですが、terr'とseul'は、eが表す曖昧母音を省略するのでそれぞれ1音節となります。
音符と音節を一致させるために音節数を変えているのです。
ほかにはあまり例がないですが、この歌詞ではI’m’foutなど、Ilのlも省略していてこの全体で2音節です。
最初に書いたC'estとJ'aiも、同じ様に説明すると、それぞれ1音節なのです。
日本人には、子音だけの発音という概念は理解しづらいですが、カナ書きをやめてローマ字表記にするだけでも近づけます。
terr'やseul'の場合は異なった説明が必要です。
フランス語では音節という考え方が重要で、子音+母音で1音節となり、子音だけでは音節を形成しません。
たとえば、tristeという単語はtri+steの2音節です。舌は4回動きますが唇は2回しか動かないのです。
鏡を見て発音して唇が4回動いていればフランス語とは別物のカタカナ読みの発音です。
terreとseuleはそれぞれ2音節ですが、terr'とseul'は、eが表す曖昧母音を省略するのでそれぞれ1音節となります。
音符と音節を一致させるために音節数を変えているのです。
ほかにはあまり例がないですが、この歌詞ではI’m’foutなど、Ilのlも省略していてこの全体で2音節です。
最初に書いたC'estとJ'aiも、同じ様に説明すると、それぞれ1音節なのです。
日本人には、子音だけの発音という概念は理解しづらいですが、カナ書きをやめてローマ字表記にするだけでも近づけます。
朝倉ノニー
2021.05.05 15:35 | 編集

こんにちは。浜田昌子と申します。
いつも朝倉さんのサイトで勉強させて頂いてます。
表記について教えていただけないでしょうか。今回、Mon hommeを勉強しているのですが 単語の最後の ' terr' seul'
などこれはeの省略でしょうか?
terre とterr' を分けて表記するのには何か意味があるのでしょうか?
宜しくお願いします。
いつも朝倉さんのサイトで勉強させて頂いてます。
表記について教えていただけないでしょうか。今回、Mon hommeを勉強しているのですが 単語の最後の ' terr' seul'
などこれはeの省略でしょうか?
terre とterr' を分けて表記するのには何か意味があるのでしょうか?
宜しくお願いします。
浜田昌子
2021.05.05 11:30 | 編集
