
ジャック・プレヴェールJacques Prévertの詩を歌詞にした歌はもう何曲かご紹介しました。「美しい星でÀ la belle étoile」のページに、作曲家ジョゼフ・コズマJoseph Kosmaが曲を付けたプレヴェールの詩をリストアップしていますので参照ください。
今回は、そのうちの1曲、「朝の食事Déjeuner du matin」を取り上げましょう。「バルバラBarbara」と同様、1946年の詩集「ことばParoles」に収められた私の大好きな詩です。1962年にマレーネ・ディートリッヒMarlene Dietrichが歌いました。ディートリッヒはドイツの女優で、「リリー・マルレーンLili Marleen」が最も知られていますが、「バラ色の人生La vie en rose」などフランス語のシャンソンも歌います。
ある神父がこの詩を、「私の夫Mon mari」と題名を変えて教訓話にしてしまったことにプレヴェールがたいへん怒って抗議文を送ったそうです。この詩の「私」とは「彼」の「妻」とは限らないし、また「女」とも限らない。男同士の愛であってもいいんだとリベラリストのプレヴェールは考えていたようです。
Déjeuner du matin 朝の食事
Marlene Dietrich マレーネ・ディートリッヒ
Il a mis le café
Dans la tasse
Il a mis le lait
Dans la tasse de café
Il a mis le sucre
Dans le café au lait
Avec la petite cuiller
Il a tourné
Il a bu le café au lait
Et il a reposé la tasse
Sans me parler
彼はコーヒーを
カップに注いだ
彼はミルクを
コーヒーのカップに入れた
彼は砂糖を
カフェオレに入れた
小さなスプーンで
彼はかき回した
彼はカフェオレを飲んだ
そして彼はカップを置いた
わたしになにも言わずに

Il a allumé
Une cigarette
Il a fait des ronds
Avec la fumée
Il a mis les cendres
Dans le cendrier
Sans me parler
Sans me regarder
彼は火を付けた
1本のタバコに
彼は輪を作った
その煙で
彼は灰を落とした
灰皿のなかに
わたしになにも言わず
わたしに目を向けずに
Il s'est levé
Il a mis
Son chapeau sur sa tête
Il a mis son manteau de pluie
Parce qu'il pleuvait
Et il est parti
Sous la pluie
Sans me parler 注1
Sans me regarder
彼は立ち上がった
彼はかぶった
帽子をあたまに
彼はレインコートを着た
雨が降っていたから
そして彼は出ていった
雨のなか
わたしになにも言わず
わたしに目を向けずに
Et moi j'ai pris
Ma tête dans mes mains 注2
Et j'ai pleuré.
そしてわたしは
あたまを抱えた
そして泣いた。

[注]
1 ディートリッヒはこう歌っているが、原詩ではSans une paroles「一言もなく」。
2 原詩ではMa tête dans ma main。
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