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2015
03.06

トゥールーズToulouse

Claude Nougaro Toulouse


先日「君は見るだろうTu verras」(1978年)をご紹介したクロード・ヌガロClaude Nougaroの代表作「トゥールーズToulouse」(1967年、作詞:クロード・ヌガロ、作曲:クリスチャン・シュヴァリエChristian Chevallier、クロード・ヌガロ)を今回取り上げます。トゥールーズの詩人ルシアン・マンゴーLucien Mengaudが1845年にオック語で書いた「トゥールーズ讃歌La Tolosenca (La Toulousaine)」にインスピレーションを受けて作った曲です。この曲を解説したWikipédiaの記事に、ルシアン・マンゴーの詩の一節をヌガロが歌詞に用いたことが示されています。また、歌詞に関連した画像が掲載されていますので覗いて見られるといいでしょう。

ヌガロは、1929年にトゥールーズで生まれたシンガー・ソングライターで、詩人でもありデッサンや絵画にも秀でました。12歳のときにラジオで、グレンミラーGlenn Miller、エディット・ピアフÉdith Piaf、 ベッシー・スミスBessie Smith、ルイ・アームストロングLouis Armstrongを聴いたことが彼を歌手への道に導くことになりました。学業・兵役を終えてから、パリでジャーナリズムの仕事を始め、マルセル・アモンMarcel Amont やフィリップ・クレイPhilippe Clayなどの歌詞を書くようになり、終生の友となるジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensと知り合いました。そして、ピアフの曲を作っていたマルグリット・モノーMarguerite Monnotに自分の歌を送り、1954年にキャバレー・ラパン・アジールle Lapin agileでデヴュー。他の歌手の曲作りもおこないつつ、幾つかのキャバレーで自作の歌を歌ってきました。58年にミッシェル・ルグランMichel Legrandの協力で作られた数曲を初めて録音。続いて62に出したアルバムは大きな評判を得ました。63年に自動車事故で数ヶ月間活動停止し、その翌年からブラジルに旅行。帰国後の67年に「オー・トゥールーズÔ Toulouse」と題したアルバムでこの曲を発表。翌68年にオランピアに出演し、そのステージのファースト・ライブアルバムを69年に出しました。これにもこの曲は含まれています。
その後の活動に関する詳細は省きますが、全活動を通じ、ジャズ、ラテン、アフリカンなどの音楽をシャンソンに融合することに貢献した人物で、88年にはヴィクトワール賞Victoiresの最優秀アルバムおよび最優秀アーティストに選ばれています。2004年にパリで74歳で膵臓癌で亡くなりました。



Toulouse       トゥールーズ
Claude Nougaro    クロード・ヌガロ


Qu'il est loin mon pays, qu'il est loin
Parfois au fond de moi se raniment
L'eau verte du canal du Midi 注1
Et la brique rouge des Minimes 注2

  僕の故郷はなんと遠いんだ、なんと遠いんだ
  時おり僕の心の奥で
  ミディ運河の緑の水と
  ミニムの赤いレンガが息を吹き返す

Toulouse1.jpg


Ô mon païs, ô Toulouse... 注3

  おおわが故郷、おおトゥールーズ

Je reprends l'avenue vers l'école
Mon cartable est bourré de coups de poing
Ici, si tu cognes tu gagnes
Ici, même les mémés aiment la castagne 注4

  僕は学校への道を再び辿る
  僕のかばんはげんこつでいっぱいだった
  ここでは、君が殴ったら君の勝ちだ
  ここでは、ばばあたちさえ殴り合いが好きだ

Ô mon païs, ô Toulouse...

  おおわが故郷、おおトゥールーズ

Un torrent de cailloux roule dans ton accent 注5Toulouse1.jpeg
Ta violence bouillonne jusque dans tes violettes 注6
On se traite de con à peine qu'on se traite 注7
Il y a de l'orage dans l'air et pourtant

  砂利の奔流がおまえのアクセントのなかに流れる
  おまえの荒々しさがおまえのスミレの花々にもたぎっている
  人々は出会いがしらにたがいをバカ呼ばわりする
  険悪な空気が漂うがしかし

L'église Saint Sernin illumine le soir 注8
D'une fleur de corail que le soleil arrose
C'est peut être pour ça malgré ton rouge et noir 注9
C'est peut être pour ça qu'on te dit Ville Rose 注10

  サン・セルナン教会は夕べに輝く
  太陽が光を注ぎかけた珊瑚色の花
  それはたぶんそのためさ、おまえの赤と黒の激しさにも関わらず
  それはたぶんそのためさ、ひとがおまえをバラ色の都市と呼ぶのは

Toulouse2.jpg


Je revois ton pavé ô ma cité gasconne 注11
Ton trottoir éventré sur les tuyaux du gaz 注12
Est ce l'Espagne en toi qui pousse un peu sa corne 注13
Ou serait ce dans tes tripes une bulle de jazz ?

  僕はガスコンヌのわが町におまえの街路を再び見る
  おまえの舗道はガス管の上でえぐられている
  おまえのなかのこのスペインがそのツノをちょっと生やしたのか
  あるいはおまえの腹のなかにあるのはジャズのあぶくか

Voici le Capitole, j'y arrête mes pas 注14
Les ténors enrhumés tremblaient sous leurs ventouses 注15
J'entends encore l'écho de la voix de papa 注16
C'était en ce temps là mon seul chanteur de blues

  ここ、市庁で僕は足を止めた
  風邪を引いたテノール歌手たちが換気口の下で震えていた
  僕はパパの声のこだまをまた聞く
  彼は当時、僕には唯一のブルース歌いだった

Aujourd'hui tes buildings grimpent haut
À Blagnac tes avions ronflent gros 注17
Si l'un me ramène sur cette ville
Pourrai-je encore y revoir ma pincée de tuiles 注18
Ô mon païs, ô Toulouse, ô Toulouse...

  今ではおまえのビルの群が高く聳え立っている
  ブラニャック空港で、おまえの飛行機はでかいいびきをかく
  もしも1機がこの街に僕を連れ戻したなら
  僕はそこに僕の家の瓦のひとかけらを再び見ることができるだろうか

Toulouse4.jpg


Ô mon païs, ô Toulouse...

  おおわが故郷、おおトゥールーズ

[注] Toulouse「トゥールーズ」は、フランスの南西部に位置するコミューンで、ミディ=ピレネー地域圏Midi-Pyrénéesの首府、オート=ガロンヌ県Haute-Garonneの県庁所在地。この歌詞では自分の故郷であるこの街を擬人化してtu「おまえ」と呼んでいる。
1 Canal du Midi「ミディ運河」。トゥールーズでガロンヌ川Garonneから分岐し、地中海に面したトー湖にいたる全長240km、支流部分も含めた総延長では360 kmに及ぶ運河。17世紀に作られ、大西洋と地中海を結ぶ水路として重要な役割を担ってきた。1996年に文化遺産として世界遺産に登録された。
2 Les Minimes「ミニム」はトゥールーズの地区の名称。ヌガロはここで、父方の祖父母に育てられた。
3 冒頭の解説に書いたが、ルシアン・マンゴーLucien Mengaudの詩の引用である。トゥールーズを含むフランス南部のラングドックLe Languedoc地方ではロマンス語のひとつであるオック語l'occitanが用いられていた。オック語ではpaysをpaïsあるいはpaísと表記する。
4 mémé幼児語で「おばあちゃん」=mamie。castagne「殴り合い」。
5 tonは「トゥールーズの」の意味。この行は、トゥールーズのアクセントがごつごつしているということをあらわしている。
6 スミレの群生地がトゥールーズにあり、ここでの花の生産は非常に重要とされてきたのでトゥールーズはCité des violettes「スミレの街」とも呼ばれる。スミレの花を砂糖で固めたお菓子も特産品。
7 se traiter de…「たがいに相手を…扱いする」。con「ばか、間抜け」。à peine que…「…するやいなや」。
8 この行は前節のet pourtant「だがしかし」からつながる。L'église Saint Sernin :正式名はLa basilique Saint Sernin「サン=セルナン修道院」。市内西部に中世に建てられた建造物でピンクのレンガで作られており、その美しさを次行で「珊瑚色の花」と表現している。
9 rouge et noir「赤と黒」はラテン的な情熱・激しさを表現。
10 Ville Rose「バラ色の都市」トゥールーズ市街の建築はオレンジ色や赤色の暖色系のレンガが特徴であることからこう呼ばれる。
11 トゥールーズの西側から大西洋までの広い地域は昔、Gascogne「ガスコーニュ」と呼ばれた。gasconneはその形容詞。
12 gazはgasconneと語呂を合わせている。ガス管を通すために、近代化のために古き良き物が損なわれたことを表すのだろう。
13 トゥールーズはスペインの影響が強く、フランス国内有数のスペイン人社会を持つ。avoire(porter) des cornes「間男される」という言い回しがあり、「辱める」の意味の古語:escornerから生じたとされるが、pousser (un peu) sa corne「角を生やす」は同様の意味なのか?
14 le Capitole=capitole de Toulouse「トゥールーズ市庁」
15 ventouse「換気孔、通風孔」。医療用の「吸い玉」の意味もある。
16 ヌガロの父親はオペラ歌手。
17 Blagnacは、Aéroport de Toulouse - Blagnac「トゥールーズ=ブラニャック国際空港」すなわちトゥールーズ北西部および隣接するブラニャック西部にまたがって位置する空港のこと。
18 tuileは「瓦」のことだが、pincée「ひとつまみ」という語を加えて、瓦型に焼いたお菓子の「チュイール」のニュアンスを含ませている。




コメント
ご指摘ありがとうございます。とっさに思い込んで関連付けてしまったようです。とんでもない間違いでした。訂正いたしました。
朝倉ノニーdot 2019.02.20 09:10 | 編集
こんにちは。一つ質問をさせてください。

Ton trottoir éventré sur les tuyaux du gaz
という行について、
「2001年9月にトゥールーズの化学工場で300トンのアンモニウム硝酸塩が爆発する事故が発生し、直径200m、深さ20から30mのクレーターができたという。trottoir éventré「えぐられた舗道」はそれを踏まえた表現のようだ。」

と注に書いておられますが、この歌の成立年代が1960年代、この事故は2000年入ってからですね。時代がかみ合わないような気がするのですが、いかがでしょう。
Blanche Neigedot 2019.02.20 06:46 | 編集
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