
今回は、カルラ・ブルーニCarla Bruniの、恋人の実名を用いた恋歌「ラファエルRaphaël」。「部屋のなかの空Le ciel dans une chambre」と同様、デビュー・アルバム「風のうわさQuelqu'un m'a dit~」に収録されています。ラファエル・エントーヴェンRaphaël Enthovenは、彼女がそれまで付き合っていた作家・編集者のジャン=ポール・エントーヴェンJean-Paul Enthovenの息子で哲学者。二人のあいだには息子オーレリアンが生まれました。夫をカルラに取られたラファエルの元妻が、それをテーマにした小説「大したことはないRien de grave」を出し、大ベストセラーに。その後、カルラはラファエルと別れ、ニコラ・サルコジNicolas Sarkozyと結婚することになります。元大統領はこの曲がお嫌いだそうです。
Raphaël ラファエル
Carla Bruni カルラ・ブルーニ
Quatre consonnes et trois voyelles c’est le prénom de Raphaël,
Je le murmure à mon oreille et chaque lettre m’émerveille,
C’est le tréma qui m’ensorcelle dans le prénom de Raphaël, 注1
Comme il se mêle au "a" au "e", comme il les entremêle au "l", Raphaël...
4つの子音と3つの母音 それがラファエルの名前、
わたしはそれを自分の耳にささやき それぞれの文字がわたしを目覚めさせる、
ラファエルの名前のなかでわたしを魔法にかけるもの それはトレマ、
それは「a」に「e」に混ざり合って、それらを「l」に交えさせる、ラファエルは…
A l’air d’un ange, mais c’est un diable de l’amour,
Du bout des hanches et de son regard de velours,
Quand il se penche, quand il se penche, mes nuits sont blanches,
Et pour toujours... Hmm
天使の雰囲気を持つ、けれど恋の悪魔、
腰の端で、ビロードのような視線で、
彼が身を乗り出すとき、彼が身を乗り出すとき、わたしは夜を明かし、
そしてずっと…フム

J’aime les notes au goût de miel, dans le prénom de Raphaël,
Je les murmure à mon réveil, entre les plumes du sommeil, 注2
Et pour que la journée soit belle, je me parfume à Raphaël...
Peau de chagrin, peintre éternel, archange étrange d’un autre ciel... 注3
わたしはハニーテイストの響きが好き、ラファエルの名前の、
わたしは目覚めるときにそれらをつぶやく、眠りの羽毛のあいだに、
そしてすてきな一日になるようにと、ラファエルの匂いを身にまとう…
「あら皮」、永遠の画家、異国の空の天使…
Pas de délice, pas d’étincelle, pas de malice sans Raphaël,
Les jours sans lui deviennent ennui, et mes nuits s’ennuient de plus belle. 注4
Pas d’inquiétude, pas de prélude, pas de promesse à l’éternel, 注5
Juste l’amour dans notre lit, juste nos vies en arc-en-ciel, Raphaël...
心地よさも、きらめきも、ちゃめっけも失せるわ ラファエルがいなきゃ、
彼がいない日中は退屈になり、夜はいっそう退屈でたまらない。
心配もなく、下準備もなく、永久の誓いもなく、
即ふたりのベッドでの情事、即ふたりの虹色の生活、ラファエルは…

A l’air d’un sage, et ses paroles sont de velours,
De sa voix grave et de son regard sans détours,
Quand il raconte, quand il invente, je peux l’écouter
Nuit et jour... Hmm
聖人の雰囲気を持つ、そして彼の言葉はビロードのよう、
低い声で、まっすぐな視線で、
彼が語るとき、彼が創作するとき、わたしはそれを聞くことができるわ、
夜も昼も…フム
Quatre consonnes et trois voyelles c’est le prénom de Raphaël,
Je lui murmure à son oreille, ça le fait rire, comme un soleil.
4つの子音と3つの母音 それがラファエルの名前、
わたしは彼の耳にささやき、それが彼を、お日さまのように笑わせる。
[注]
1 tréma「トレマ」は、Raphaël の名のëの部分にある、先行する母音と別に扱う、すなわち別々に発音することを示す記号。
2 les plumes du sommeilは、「羽毛布団、羽毛枕」のことだが、なかば目覚めつつあるまどろみ状態をも表現しているようだ。
3 peau de chagrin「粗皮(あらかわ)、山羊・羊などの皮から作る表面のザラザラしたなめし皮」。ここでは「悲しみの皮膚」といったニュアンスも含まれているようだが、1947年に書かれたオノレ・ド・バルザックHonoré de Balzacの小説「あら皮La peau de chagrin」の主人公の青年の名がRaphaëlであることを言っている。青年は自殺しようとしていたが、「あらゆる望みを叶えることができるが、望みが一つ叶うたびに少しずつ縮んでいき、縮み終ると同時に持主の命も尽きる」という粗皮を手に入れ、欲望が次々と実現し始め、怖くなってなにも欲求すまいと努めるけれどそうはいかず、皮は縮んで命も縮んで行き早過ぎる死を迎える、という話。
Raphaëlはルネッサンス期のイタリアの画家の名でもある。また、ヘブライ語で「神の癒し」を意味し、ユダヤ教からキリスト教へと引き継がれた、癒しを司る大天使の名でもある。
4 de plus belle「いっそう激しく、前よりひどく」
5 promesse à l’éternel「永久の誓い」とはすなわち結婚という形式のこと。
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