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2015
06.19

バルバラBarbara

Yves Montand Barbara


フランスで最も愛され続けている民衆詩人ジャック・プレヴェールJacques Prévertは、映画作家、童話作家としても知られています。その詩は、庶民的で分かりやすく、幾つもがシャンソンとして歌われています。ジュリエット・グレコJuliette Grécoの「美しい星でÀ la belle étoile」のページにリストアップしていますので参照ください。この「バルバラBarbara」もまた、「枯葉Les feuilles mortes」同様、イヴ・モンタンの主要なレパートリーのひとつでした。バルバラという架空の女性への呼びかけの形を借りて、戦争の悲惨さ空しさを説くこの詩は、よく朗読もされます。

プレヴェール自身の朗読



イヴ・モンタン



レ・フレール・ジャックLes Freres Jacques。このグループは、ジャック・プレヴェールとボリス・ヴィアンBoris Vianのアレンジでデヴューし、サン・ジェルマン・デ・プレを中心に活動した4人組です。名前の由来は「バカのふりをする」という意味の faire le jacques から。



Barbara    バルバラ
Yves Montand イヴ・モンタン


Rappelle-toi Barbara
Il pleuvait sans cesse sur Brest ce jour-là
Et tu marchais souriante
Épanouie ravie ruisselante
Sous la pluie

  思い出して バルバラ
  ブレストではあの日 雨が降り続いていて
  君は 微笑みながら歩いていたね
  喜びにあふれ うっとりして 濡れながら
  雨の中を

Rappelle-toi Barbara
Il pleuvait sans cesse sur Brest
Et je t'ai croisée rue de Siam
Tu souriais
Et moi je souriais de même

  思い出して バルバラ
  ブレストでは 雨が降り続いていた
  そして僕は シャム街で君とすれちがった
  きみは微笑み
  そして僕も同じように微笑んだ

Barbara2.jpg


Rappelle-toi Barbara
Toi que je ne connaissais pas
Toi qui ne me connaissais pas
Rappelle-toi
Rappelle-toi quand même ce jour-là
N'oublie pas

  思い出して バルバラ
  君のことを僕は知らなかった
  君も僕を知らなかった
  思い出して
  だけど あの日を思い出して
  忘れないで

Un homme sous un porche s'abritait
Et il a crié ton nom
Barbara
Et tu as couru vers lui sous la pluie
Ruisselante ravie épanouie
Et tu t'es jetée dans ses bras
Rappelle-toi cela Barbara

  男がポーチの下で雨宿りしていた
  そして彼は君の名を叫んだ
  バルバラと
  それで 君は雨の中を彼のもとに駆け寄った
  濡れながら うっとりして 喜びにあふれ
  そして 君は彼の腕の中に跳びこんだ
  それを思い出して バルバラ

Et ne m'en veux pas si je te tutoie 注1
Je dis tu à tous ceux que j'aime
Même si je ne les ai vus qu'une seule fois
Je dis tu à tous ceux qui s'aiment
Même si je ne les connais pas

  「君」と親しい口をきいても気を悪くしないで
  僕は好きな相手にはみんな「君」と呼びかけるんだ
  たった一度しか会ったことがなくても
  互いに好感を抱く人にはみんな「君」と呼びかけるんだ
  たとえ僕が知らない人たちでもね

Rappelle-toi Barbara
N'oublie pas
Cette pluie sur la mer
Sur ton visage heureux
Sur cette ville heureuse
Cette pluie sur la mer
Sur l'arsenal
Sur le bateau d'Ouessant
Oh Barbara

  思い出して バルバラ
  忘れないで
  海の上に
  きみのしあわせな顔に
  このしあわせな町に降る この雨を
  海軍の工場に
  ウェッサン島行きの船に降る この雨を
  おお バルバラ

brest2.jpg


Quelle connerie la guerre
Qu'es-tu devenue maintenant
Sous cette pluie de fer
De feu d'acier de sang
Et celui qui te serrait dans ses bras
Amoureusement
Est-il mort disparu ou bien encore vivant
Oh Barbara

  戦争のなんという愚劣さ
  君は今 どうしているのか
  この、鉄の
  火の はがねの 血の雨のしたで
  そして君をいとおしげに腕のなかに
  抱きしめていたあの男は
  死んだ 行方不明 いやまだ生きているのか
  おお バルバラ

Il pleut sans cesse sur Brest
(Comme il pleuvait avant) 注2
Mais ce n'est plus pareil et tout est abîmé
C'est une pluie de deuil terrible et désolée
Ce n'est même plus l'orage
De fer d'acier de sang

  ブレストでは雨がたえず降っている
  (以前降っていたのと同じように)
  でも元どおりではなくて すべては壊されてしまった
  それは恐ろしくて沈痛な弔いの雨だ
  それはもはや
  鉄の はがねの 血の雷雨ですらない

brest3.jpg


Tout simplement des nuages
Qui crèvent comme des chiens 注3
Des chiens qui disparaissent
Au fil de l'eau sur Brest
Et vont pourrir au loin
Au loin trés loin de Brest
Dont il ne reste rien

  ただ単に雲が
  野良犬みたいにくたばってはち切れ
  ちょうど 水に流されて姿を消す野良犬みたいに
  ブレストの上で水の糸となって
  遠くで朽ち果てるだけのもの
  もうなにも残ってはいない

Brest0.jpg


[注] ブレストは第2次世界大戦中、1940年6月19日よりドイツ軍の占領下にあって潜水艦基地が置かれていたため、米英連合軍による爆撃により町はほぼ壊滅した。→上の画像
詩は4部に分かれ、第1・2部は戦前の平和な状況をあらわす。「喜びにあふれ うっとりして 濡れながら」雨の中を歩くバルバラ。第3部では、「きみのしあわせな顔に このしあわせな町に降る この雨」が、戦争が始まり、いつしか「「鉄の 火の はがねの 血の雨」に変わっていく。そして第4部では、その雨がまた、「恐ろしくて沈痛な弔いの雨」に変わり、「もうなにも残ってはいない」のである。
なお、この詩には小笠原豊樹氏(すなわち詩人 岩田宏氏)の名訳がある。河出書房ポケット版・世界の詩人11「プレヴェール詩集」
1 tutoyer「(親しい相手に対して)tuを用いて話す」。vouvoyer「(敬意を示すべき相手に対して、複数形と同じ)vousを用いて話す」。
2 この1行は、もとの詩には含まれるが、歌詞としては歌われていない。
3 creverは、「はち切れる」「パンクする」という意味の動詞で、雲がパンクして雨になることと、死んだ犬の身体が腐って破れることとを重ねた表現である。したがって、au fil de l'eauにも、ブレストに降る雨の糸と、また、犬が流される川の流れとが重ねられている。




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