
「クロパン、クロパンClopin-clopant」というオノマトペ(擬音語)風の不思議な題名の曲は、1947年にピエール・デュダンPierre Dudanが作詞し、ブリューノ・コカトリックスBruno Coquatrixが作曲しました。当初はレオ・マルジャーヌLéo Marjaneなどが歌いましたが、その後、ジャン・サブロンJean Sablon、ピエール・デュダンPierre Dudan、イヴ・モンタンYves Montand、ジュリエット・グレコJuliette Gréco、アンリ・サルヴァドールHenri Salvador、ジャクリーヌ・フランソワJacqueline Françoisなど、多くの歌手が歌いました。また、英語に翻案されて「コム・シ、コム・サComme ci, comme ça」というタイトルで、ポール・アンカPaul Anka、フランク・シナトラFrank Sinatra、アンディー・ウィリアムズAndy Williams、バーブラ・ストライザンドBarbra Streisandなどが歌っています。
Clopin-clopantとは、足を引きずって歩くことを表す言葉で、歳をとって敗残の人生を歩む姿を表した歌詞だと言われています。でも、グレコの歌う歌詞では、恋人が去って手紙が10ヶ月も来ないという部分があるので、私は失恋の歌じゃないかとも思いましたが、この部分を回想内容と捉えると、その後長い長い年月を過去を引きずり足をひきずって変化のない日々をひとり孤独に生きてきたということにもなります。鏡に映った自分は、もう子どもじゃないし、恋人と別れた頃の若い自分でもなく、容色が衰え年老いている。でも心はずっと子どものままだし、恋人と別れた時から何年経とうが自分のなかでは時間は止まってしまっている。各行の末尾の「...」が意味深です。
ジュリエット・グレコの動画は私が作りました。恋人との別れを歌った最後の節は、ほかの歌手は歌っていないようです。
Clopin-clopant クロパン、クロパン
Juliette Gréco ジュリエット・グレコ
Je suis né avec des yeux d´ange
Et des fossettes au creux des joues
J´ai perdu mes joues et mes langes
Et j´ai cassé tous mes joujoux
Je m´suis regardé dans une glace
Et j´ai vu que j´avais rêvé
Je m´suis dit: faudra bien qu´ j´m´y fasse... 注1
Tout finira par arriver... 注2
わたしは天使の目と
頬のえくぼを持って生まれた
わたしは頬のふくらみと産着を失った
そしてわたしのおもちゃをみんな壊した
鏡に自分を映して見た
そして自分が夢を見ていたことに気づいた
自分に言い聞かせた:今の自分に慣れなきゃね…
すべて、そうなるしかないのだから…

{Refrain :}
Et je m´en vais clopin-clopant 注3
Dans le soleil et dans le vent
De temps en temps le cœur chancelle...
Y´a des souv´nirs qui s´amoncellent...
Et je m´en vais clopin-clopant...
En promenant mon cœur d´enfant...
Comme s´envole une hirondelle...
La vie s´enfuit à tire-d´aile... 注4
Et ça fait mal aux cœurs d´enfants 注5
Qui s´en vont seuls, clopin-clopant...
そしてわたしは足を引きずって歩く
太陽のもとそして風のなか
ときおり心は揺らぎ…
積もった想い出が浮かび上がる…
そしてわたしは足をひきずり…
子どものままの心を連れ歩く…
ツバメが飛んで行くように…
人生はあっという間に過ぎ去る…
そしてそれは、ひとり足を引きずって歩く
子どものままの心には辛いこと…

Tout l´amour que l´on a vu naître... 注6
Tes lèvres douces, parfum de miel...
Nos deux fronts contre la fenêtre...
Nos regards perdus dans le ciel...
Le train noir hurlant dans la gare...
Le monstrueux désert des rues...
Tes mots d´adieu, tes mots bizarres...
Depuis dix mois, tu n´écris plus...
私たちの心に芽生えた恋のすべて…
あなたの甘い唇、蜜の香り…
私たちのふたつの額は車窓に貼りつき…
私たちの視線は宙に迷う…
黒い列車は駅でうなっていた…
街々の恐ろしいほどの人気なさ…
あなたのさよならの言葉、あなたの意外な言葉…
10ヶ月ものあいだ、あなたからの手紙が来ない…
{Refrain}
[注]
1 se faire à「…に慣れる」。yは鏡に映った今の自分。
2 finir par「最後には…する」。この行は「すべて、いずれは起こることだからしかたがない」という意味。
3 à tire(-)d´aile「迅速に、すばやく」。
4 clopin-clopant「足をひきずって、どうにかこうにか」。古フランス語のclopin「足の不自由な」+cloper「足を引きずる」の現在分詞clopant。カナで書くと同じ「クロパン」だが発音は異なる。clopinは「クロペン」に近く、clopantは「クロポン」に近い。
5 faire mal à qn.「…を痛めつける」
6 voir naître qn.「…の生まれたのを知っている、…の生まれる時に生きている」。「…の幼少(駆け出し)の頃から知っている」といった表現に用いられる。ここでは文脈に即し意訳した。
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