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2015
01.13

極楽生活La vie de cocagne

Jeanne Moreau La vie de cocagne


ジャンヌ・モローJeanne Moreauは1928年生まれ、英仏混血の大女優で、出演した映画は数えきれません。その筆頭は、やはりマイルス・デイビスMiles Davis演奏の主題曲で知られる「死刑台のエレベーターAscenseur pour l'échafaud」でしょう。「雨のしのび逢いModerato cantabile」ではカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞。そして1962年の「突然炎のごとくJules et Jim」で「つむじ風Le tourbillon」を歌って以来、歌手としての肩書も得ました。1969年の「ジャンヌ、ジャンヌを歌うJeanne chante Jeanne」は、自身の詩を元にした曲が収められています。「雨のしのび逢いModerato cantabile」の原作者マルグリット・デュラスMarguerite Durasには縁があるようで、「インディア・ソングIndia song」は、デュラスの同名の著作をデュラス自身が1975年に監督制作した同名の映画の挿入歌。2001年の「デュラス 愛の最終章Cet amour-là」では、老齢のデュラスになりきった演技が好評でした。
ごく新しいところでは、2011年に6人組ロックバンドTête Raidesのクリスティァン・オリヴィエChristian Olivierとデュオで「エマEmma」という曲を歌っています(アルバムL'an Demain desに収録)。2012年には「クロワッサンで朝食をUne Estonienne à Paris」という映画に出演。80歳をとっくに超え、老いてますます盛んなりです。

今回取り上げるのは「極楽生活La vie de cocagne」というちょっと変わった曲で、62年のアルバム:Chante 12 chansons deすなわち、シリュス・バシアックCyrus Bassiak (別名セルジュ・レズヴァニSerge Rezvani)の作った12の曲をモローが歌っているアルバムのうちの1曲です。そのジャケット(記事の冒頭の画像)の写真は、「突然炎のごとくJules et Jim」で、シリュスがギターを弾いて、彼が作った「つむじ風Le tourbillon」をモローが歌っているシーンです。

ジャズ的なアレンジがステキな曲です。現実の味気ない生活のなかで夢みる極楽のような生活。でも、最後は現実に戻らなきゃならない。お正月や冬休みが終わっていつもの生活に戻った今、同感だと感じる人は多いかも…。



La vie de cocagne     極楽生活
Jeanne Moreau       ジャンヌ・モロー


Je rêve toujours d'me tirer, d'me barrer,  注1
D'me tailler, de foutre le camp
Moi qu'aimerais tant m'arrêter d'cavaler 注2
Prendre le temps
D'avoir des chats, des petits chats,
Des chiens, des tas d'enfants,
Un vieux fauteuil au coin du feu
Où me laisser glisser à deux,
Avoir mes bouquins sous la main
Qui s'ouvrent d'eux-mêmes
Aux pages que l'on aime
Et qu'on relit sans fin
Parce qu'on les aime 注3

  私はいつも夢みてる 抜け出し、逃げ出し、
  ずらかり、逃亡することを
  私ったらね、うんと願ってるの
  駆けずり回るのをやめて
  猫たちや、子猫たちや
  犬たちや、たくさんの子供たちがいる時間をもつの
  炉辺の古いひじ掛け椅子があって
  二人いっしょに座り込むの、
  好きなページが
  勝手に開いて
  際限なく読み返せる
  そんな本を片手に持つの
  だって私たちそんなこと好きだから

Cocagne2.jpg


Un petit clocher de Cocagne
Que j'entendrais tinter
L'hiver tout comme l'été,
La nuit, le jour, sur la campagne
Me donneraient envie de n'plus changer ma vie,
On verrait chaque soir
L'tourbillon fou du monde devant la télé,
Mes chats, mes chiens roupillant à nos pieds
À poings fermés
Et qu'au dehors le vent d'hiver
Se donnerait un mal de chien 注4
Pour faire plier les peupliers
Que nous aurions plantés à deux
Et les soirées d'automne couleraient
Douces et monotones
Et chaque nuit on se dirait "chéri, on réveillonne" 注5

  極楽の小さな鐘が
  鳴るのが聞こえ
  冬はまったく夏のようで、
  田舎での夜と昼は
  私に自分の生活をもう変えないよう願わせるわ、
  私たちは毎晩、
  テレビの前で、世界の目まぐるしい動きを見るの、
  私の猫たち、犬たちは私たちの足元で
  こぶしを握ってぐっすり眠りこんでいて
  そして外では冬の風が
  私たちが二人で植えたポプラの木を
  束ねるのに
  すごく苦労するのよ
  そして甘くて単調な
  秋の宵がいくつも過ぎて行き
  毎夜、私たちは「いとしい人、真夜中の晩餐をしようよ」と言うのよ

Cocagne4.jpg


Aïe ! Quelle petite vie de Cocagne
L'hiver tout comme l'été
J'pourrais pas m'en lasser,
La nuit, le jour, dans ma campagne
Ni vue et ni connue dans mon petit coin perdu

  あぁ!なんとささやかな極楽生活
  冬はまったく夏のようで、
  私は飽きることなどできやしないわ、
  夜も、昼も、田舎で
  人里離れた場所での誰にも見られることも知られることもないのよ

Mais v'là qu'il faut me tirer, me barrer,  注6
Me tailler, foutre le camp,
J'ai même pas l'temps d'm'oublier
Un instant loin du présent,
Adieu mes chats, mes petits chats, mes chiens
Adieu le vent,
Ce vieux fauteuil au coin du feu,
J'm'y serais jamais planquée à deux
C'est bête ce rêve que j'fais chaque jour
Dans ma p'tite auto
En venant du bureau
Qui pourrit ma vie de nostalgie.

  だけどもう、抜け出し、逃げ出し、
  ずらかり、逃亡しなきゃならない、
  現在から遊離した一瞬のあいだ
  自分を忘れる時間さえ私はもう持ってないの、
  さようなら、私の猫たち、子猫たち、犬たち
  さようなら、風よ
  炉辺の古いひじ掛け椅子よ、
  私がそこに二人で腰を落ち着けるなんてこと絶対ないわ
  馬鹿げてるわ、
  憧れの生活を腐らせる会社を出て、
  ちっちゃな車のなかで
  私が毎日見るこの夢は。

[注] 採用した歌詞サイトでは、タイトルはcocagneと表記し、歌詞中はCocagneと大文字で表記しており、そのまま用いた。この語は「享楽」の意の古語で、vie de cocagne「極楽生活」、 pays de cocagne「宝の国」などの限られた表現でしか使われない。仮名書きすると「コカーニュ」。菓子パンを意味する語あるいは青色染料を意味する語が語源だといわれる。ヨーロッパの国々にはそれぞれに、同じ意味の類似した語がある。カナダには、Cocagneという地名があるようだ。
1 se tirer, se barrer, se tailler, foutre le campはすべて同義で、「逃げ出す」こと。
2 qu'はquiのiの省略。Moi qui…は関係詞節を伴った「私って…だ。」といった表現。そしてaimeraisにm'arrêter…とprendre le tempsがつながり、そのle tempsにd'avoirがつながり、そのavoirする対象は、des chatsからdes tas d'enfantsまで。次のun vieux fauteuilの説明がoùの行。そこのme laisser glisserと次のavoirは不定詞で、これもaimerais tantとつながると考えられる。avoirの対象はmes bouquinsで、そのあとのqui以下がそれを説明している。
3 lesは列記された事柄。とくに不定詞であらわされた内容。
4 se donner un mal de chienは、「たいへんな苦労をする」風が木を束ねるというのは、本のページが勝手に開くのと同様、ファンタスティックな空想である。
5 réveillonnerはクリスマスイヴや大晦日にお祝いの夜食をとること。
6 ここでは極楽生活の夢から逃げ出して現実生活に戻るわけだ。


ブリューゲルBruegel の描いた「宝の国Le pays de Cocagne」

Cocagne6.jpg



コメント
読み直してみました。確かにそうですね。「夢=憧れの生活」だとつじつまが合います。訳を書き換えましょう。ありがとうございました。
朝倉ノニーdot 2015.08.08 22:53 | 編集
こんにちは。シャンソンが好きなのでいつも楽しく読ませてもらっています!最後の行のqui はbureauにかけて、私のあこがれの生活を台無しにする会社、のほうがつじつまが合うのではないでしょうか?
Kdot 2015.08.08 22:23 | 編集
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