
モーリス・ファノンMaurice Fanonは、1929年にフランス国内で生まれ1991年に亡くなりました。
もとはリセの英語教師をしていましたが、1950年代後半にデヴューし、彼の未来の妻となる、歌手のピア・コロンボPia Colomboに出会います。1963年、ふたりは離婚。彼はこのとき、彼の最も有名な曲、「スカーフL'écharpe」を書きます。
彼のキャリアはたいへん地味なものでしたが、ジュリエット・グレコJulietteGrécoは、1972年にひとつのアルバムをまるごと彼に捧げていますし、「スカーフL'écharpe」などの曲はいまだに人気を保っています。
「スカーフL'écharpe」は、はっきり言って、めめしい内容の歌詞ですが、恋人の残していったスカーフを首に巻いている男性の姿を思い描くと、母性愛をくすぐられるような気も…。語るような虚飾のない歌い方にも好感がもてます。
この曲を捧げられたピア・コロンボ自身も歌っています。女性の立場でもそのまま歌える歌詞で、邦訳歌詞も女性歌手が好んで歌っています。
コラ・ヴォケールCora Vaucaire 、カトリーヌ・ソヴァージュCatherine Sauvage、 エルヴェ・ヴィラールHervé Vilard らも歌っています。
また、新しいアプローチとしては、1997年にロベールRobertがアルバム「Princesse de rien」に加えています。
L'écharpe スカーフ
Maurice Fanon モーリス・ファノン
Si je porte à mon cou
En souvenir de toi 注1
Ce souvenir de soie
Qui se souvient de nous
Ce n'est pas qu'il fasse froid
Le fond de l'air est doux 注2
C'est qu'encore une fois
J'ai voulu comme un fou 注3
Me souvenir de toi
De tes doigts sur mon cou
Me souvenir de nous
Quand on se disait vous 注4
僕たちのことを覚えている
この絹の想い出の品を
君の想い出にと
首に巻くのは
寒いからじゃない
気温は暖かい
それはもう一度
むしょうに君を
僕の首に触れる君の指を
想い出したいから
あなたと呼び合っていたあの頃の
僕たちのことを想い出したいからだ

Si je porte à mon cou
En souvenir de toi
Ce sourire de soie
Qui sourit comme nous
Sourions autrefois
Quand on se disait vous
En regardant le soir
Tomber sur nos genoux
C'est encore une fois
J'ai voulu revoir
Comment tombe le soir
Quand on s'aime à genoux
夜のとばりが僕たちの膝もとに
おりるのを見ながら
あなたと呼び合っていたあの頃に
僕たちがかつて微笑んだのと
おなじように微笑む
この絹の微笑みを
君の想い出にと
首に巻くのは
それはもう一度
僕たちがひざまづいて愛し合うときに
どんな風に日が暮れたかを
また見たいからだ
Si je porte à mon cou
En souvenir de toi
Ce soupir de soie
Qui soupire après nous 注5
C'n'est pas pour que tu voies
Comme je m'ennuie sans toi
C'est qu'il y a toujours
L'empreinte sur mon cou
L'empreinte de tes doigts
De tes doigts qui se nouent
L'empreinte de ce jour
Où les doigts se dénouent
僕たちのことを振り返ってもらす
この絹のため息を
君の想い出にと
首に巻くのは
君がいなくて僕がどんなに憂鬱か
君に分かってもらうためではなく
僕の首にはいつも
跡が残っているからだ
絡まった君の指の
君の指の跡が
指が去ってしまった
あの日の痕跡が

Si je porte à mon cou
En souvenir de toi
Cette écharpe de soie
Que tu portais chez nous
C'n'est pas pour que tu voies
Comme je m'ennuie sans toi
Ce n'est pas qu'il fasse froid
Le fond de l'air est doux
僕たちの家で君がつけていた
この絹のスカーフを
君の想い出にと
首に巻くのは
君がいなくて僕がどんなに憂鬱か
君に分かってもらうためではなく
寒いからでもない
気温は暖かい
[注] モーリス・ファノンの曲として男性の立場の訳語にした。タイトルになっているécharpeは一般的には「マフラー」と訳し、foulardが「スカーフ」だが、écharpeが「スカーフ」を指すこともある。ここでは絹製だし、相手の女性がもともと家でつけていたというので、一般の邦題どおり「スカーフ」でいいだろう。なお、スカーフは本来男性のアイテムで、ネクタイやアスコットタイがまだ無かった時代には、世の紳士達は細長いスカーフ状のものを使って首元を飾っていたともいわれる。用いた画像は、écharpe自体より人物の雰囲気のほうを重視して選択した。
1 en souvenir de qn/qc「(…の)思い出として」
2 fond de l'air「(風や日差しの影響を考慮に入れない)実際の温度、本来の気温」
3 comme un fou「猛烈に、がむしゃらに」
4 se dire「たがいに言い合う」。dire vousは本来は「vousと呼ぶ」だが、vousはon(実質上nous)の補語なので、dire tu(=tutoyer)のtuを複数にしたものと考えられる。訳語は「あなた」で問題ないだろう。
5 aprèsは、動詞とともに、追求、愛着の対象を示す。
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