
季刊誌「シャンソンマガジン」では毎号、特集としていろんな歌手を取り上げていますが、ここ何回かは、宇藤カザンがその歌手に関する記事を書き、私は、付録のCDでしゃべっています。今年2023年冬号はジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensの特集号。「わが心の森にはAu bois de mon cœur」などを解説しましたが、隣人から受けた厚情、隣人への思いやりと感謝をテーマとしたこの曲のように、庶民の生活を描写し人と人とのつながりをユーモアを加えて歌うブラッサンスは「フランス版さだまさし」だと私は延べました。
それまでブラッサンスにはあまり関心が持てなかった私がその準備のために参照させていただいたのは、ブラッサンスの曲をすべて訳して紹介しているサイトでした。何人かの研究者の方々が書かれた訳文は原文の味を活かした俗語調で味がありました。先日もう一度開こうとしたら開けませんでした。いつのまにかなくなっていたのです。貴重な文化が消えたのが惜しいです。
今回取り上げる「結婚行進曲La marche nuptiale」は、「わが心の森にはAu bois de mon cœur」にも出てきた「結婚するために市(町、区、村)役所に行く」お話です。1957年のアルバム:Oncle Archibaldに収録されています。
フランスでの結婚は、事前予約の上、当該の役所でおこなわれ、そこには、必ず結婚式を執り行う部屋があるそうです。ここで正式に結婚が認められた後は、結婚パーティーをやってもいいし、教会での宗教的な結婚式をおこなってもいいしと。貧乏のせいでずっと結婚式を挙げられなかった両親。自分という子供も生まれた今、仲間たちや親戚たちに背中を押されやっと結婚式を挙げることになります。折あしく暴風雨となりますが、人々の力強い応援で結婚式は決行されます。この少年はこの結婚式をとても素晴らしいものだと感じているのです。
バルバラBarbaraも歌っています。
La marche nuptiale 結婚行進曲
Georges Brassens ジョルジュ・ブラッサンス
Mariage d'amour, mariage d'argent,
J'ai vu se marier toutes sortes de gens :
Des gens de basse source et des grands de la terre,
Des prétendus coiffeurs, des soi-disant notaires... 注1
Quand même je vivrais jusqu'à la fin des temps,
Je garderais toujours le souvenir content
Du jour de pauvre noce où mon père et ma mère
S'allèrent marier devant Monsieur le Maire. 注2
C'est dans un char à bœufs, s'il faut parler bien franc, 注3
Poussé par les amis,tiré par les parents,
Que les vieux amoureux firent leurs épousailles
Après longtemps d'amour, longtemps de fiançailles.
愛の結婚、お金の結婚、
僕はあらゆる種類の人々が結婚するのを見てきた:
出自の卑しい人々、地上の大物たち、
自称美容師たち、なりすまし公証人たち…
たとえ僕がこの世の終わりまで生きたとしても、
村長閣下の前で結婚した
父と母の貧しい結婚式の日からの
楽しい思い出をいつまでも留めておくだろう。
ありていに言うならば、牛車に乗ってのことだ
それは友人たちに押され、親に牽かれて、
年取った恋人たちが長い愛ののち、長い婚約ののちに
結婚式を挙げたのは。

Cortège nuptial hors de l'ordre courant,
La foule nous couvait d'un oeil protubérant :
無秩序な婚礼の行列、
群衆は私たちを目を丸くして見ていた:
Nous étions contemplés par le monde futile
Qui n'avait jamais vu de noce de ce style.
Voici le vent qui souffle emportant, crève-cœur ! 注4
Le chapeau de mon père et les enfants de chœur... 注5
Voici la pluie qui tombe en pesant bien ses gouttes,
Comme pour empêcher la noces, coûte que coûte. 注6
Je n'oublierai jamais la mariée en pleurs
Berçant comme un' poupé’ son gros bouquet de fleurs... 注7
Moi, pour la consoler, moi, de toute ma morgue,
Sur mon harmonica jouant les grandes orgues. 注8
Tous les garçons d'honneur, montrant le poing aux nues, 注9
Criaient : "Par Jupiter, la noce continue !" 注10
Par les hommes décrié’, par les dieux contrariés, 注11
La noce continue et Viv' la mariée !
僕たちは、このスタイルの結婚式を見たことがない
軽薄な人々に見つめられていた。
そこに風が吹いてきてさらったんだ、悲しいことに!
父の帽子とコーラスの子供たちを…
そこに激しい飛沫を叩きつけて雨が降る、
結婚式をなんとしても阻止せんとするように。
大きな花束を「人形」のように抱きあやしつ
涙にくれる花嫁を僕はけして忘れない
僕はね、彼女を慰めるために、僕は、僕のありったけの仰々しさで、
ハーモニカを大オルガンばりに演奏し、
付き添い人たちみんなが拳を突き上げ、
叫んだ:「ジュピターの名にかけて、結婚式は続く!」
辱められた人々の名にかけ、妨げられた神々の名にかけて、
結婚式は続く、花嫁万歳!

Quand même je vivrais jusqu'à la fin des temps,
Je garderais toujours le souvenir content
Du jour de pauvre noce où mon père et ma mère
S'allèrent marier devant Monsieur le Maire.
たとえ僕がこの世の終わりまで生きたとしても、
村長閣下の前で結婚した
父と母の貧しい結婚式の日の
楽しい思い出をいつまでも留めておくだろう。
[注]
1 prétendusとsoi-disantは同義で、名刺の前につき「自称…」。
2 s'allèrent marier ここだけ単純過去であり、本来はallèrent se marier とすべきであろう。devant Monsieur le Maire「市(町、区、村)長閣下」は、maire市(町、区、村)長に尊敬の意味を加えた表現。
3 C'estのceは2行後のque 以下。char à bœufs「牛車」は、立派な「馬車」ではなくて貧乏くさい乗り物だというだけではなく、歩みの遅い乗り物ということで遅い結婚を例えてもいるようだ。
3 coûte que coûte「どんな犠牲を払っても」
4 crève-cœur「(胸が張り裂けるような)悲しみ」
5 enfant de choeur「合唱隊の子供」「侍者」
6 coûte que coûte「どんな犠牲を払っても」
7 この行以降、別の主語+現在分詞の節が続き、状況の解説となっている。
8 orgueは「パイプオルガン」で、grandes orguesは複数形で「(教会の) 大オルガン」。harmonica「ハーモニカ」は1820年頃に作られたオルガンの調律用の道具が起源といわれており、リードオルガンはharmonium、パイプオルガンはharmonistで語源的につながりがある。
9 les garçons d'honneur「新郎新婦の付き添い」、montrer le poing「こぶしを突き付ける」。nue=nuage「雲」天空の神ジュピター(注10)に向かってのしぐさである。
10 par...「…の名において」請願を示す表現。Jupiter「ジュピター」はローマ神話の雷などの天候を司る天空神で「ユピテル」とも読まれ、ギリシャ神話のゼウスと同一視される。天文学では「木星」を指す。ちなみに妻は結婚を司る女神ジュノン。
11 hommes décrié「辱められた人々」とは教会の(権威的でお金のかかる)結婚式に縁のない人々、dieux contrariés「妨げられた神々」とは、キリスト教の神とは異なる、ジュピターも含めた民間伝説の神々、ということであろう。

Comment:0
コメント