
ジョルジュ・ブラッサンスGeorges Brassensの「わが心の森にはAu bois de mon cœur」という曲は、以前取り上げた「仲間を先に(パリジャン気質)Les copains d'abord 」と同様、テーマは「仲間copain」です。そして「オーヴェルニュ人に捧ぐChanson pour l'auvergnat」と同様、受けた厚情に対しての感謝の気持ちが語られます。その想いは「オーヴェルニュ人に捧ぐ」では暖かい焔として燃え続けますが、「わが心の森には」では美しい花として咲き続けます。「仲間を先に」はイヴ・ロベールYves Robert監督の映画「仲間たちLes copains」のための曲。「雨傘Le parapluie」はジャック・ベッケルJacques Becker監督の映画「エストラパード街Rue de l'Estrapade」のための曲。そして、「わが心の森にはAu bois de mon cœur」は、1957年の ルネ・クレールRené Clair の映画「リラの門Porte des Lilas」のために書かれました。ブラッサンスはこの映画の音楽を担当し出演もしました。パリの場末が舞台で、せっかく匿った殺人犯を結局は殺してしまうというお話ですが、ブラッサンス演じるしがないミュージシャンと、名優ピエール・ブラッスールPierre Brasseur演じる飲んだくれだが憎めない男との友情が描かれています。リラの門Porte des Lilasはメトロの駅の名前で、この映画に因み、プラットホームの壁面にブラッサンスの肖像画が飾られています(このページの最後の画像)。セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgのデビュー作「リラの門の切符切りLe poinçonneur des Lilas」は、この駅の切符切りが主人公です。
Au bois de mon cœur わが心の森には
Georges Brassens ジョルジュ・ブラッサンス
Au bois d' Clamart y a des petit's fleurs, 注1
Y a des petit's fleurs,
Y a des copains au, au bois d' mon cœur, 注2
Au, au bois d' mon cœur.
クラマールの森には小さな花たちがいる、
小さな花たちがいる、
仲間たちがいる、おお、僕の心の森には、
おお、僕の心の森には
Au fond d' ma cour j' suis renommé,
Au fond d' ma cour j' suis renommé,
J' suis renommé 注3
Pour avoir le cœur mal famé,
Le cœur mal famé.
うちの庭の奥じゃ僕は有名だ、
うちの庭の奥じゃ僕は有名だ、
僕は有名なんだ!
いかがわしい気質を持っているって、
いかがわしい気質を。

Au bois d' Vincennes y a des petit's fleurs,
Y' a des petit's fleurs,
Y' a des copains au, au bois d' mon coeur,
Au, au bois d' mon coeur.
ヴァンセンヌの森には小さな花たちがいる、
小さな花たちがいる、
仲間たちがいる、おお、僕の心の森には、
おお、僕の心の森には
Quand y a plus d' vin dans mon tonneau,
Quand y a plus d' vin dans mon tonneau,
Dans mon tonneau, 注4
Ils n'ont pas peur de boire mon eau,
De boire mon eau.
僕の酒樽に酒がない時、
僕の酒樽に酒がない時、
僕の酒樽から、
やつらはけろっとして僕の水を飲む、
僕の水を飲む。

Au bois d' Meudon y a des petit's fleurs,
Y a des petit's fleurs,
Y a des copains au, au bois d' mon cœur,
Au, au bois d' mon cœur.
ムードンの森には小さな花たちがいる、
小さな花たちがいる、
仲間たちがいる、おお、僕の心の森には、
おお、僕の心の森には
Ils m'accompagnent à la mairie,
Ils m'accompagnent à la mairie,
À la mairie,
Chaque fois que je me marie,
Que je me marie.
やつらは市役所まで僕について来る、
やつらは市役所まで僕について来る、
市役所まで!
僕が結婚するたびに、
結婚するたびに。

Au bois d' Saint-Cloud y' a des petit's fleurs,
Y' a des petit's fleurs,
Y' a des copains au, au bois d' mon coeur,
Au, au bois d' mon coeur.
サン・クルーの森には小さな花たちがいる、
小さな花たちがいる、
仲間たちがいる、おお、僕の心の森には、
おお、僕の心の森には
Chaqu’ fois qu' je meurs fidèlement, 注5
Chaqu’ fois qu' je meurs fidèlement,
Fidèlement,
Ils suivent mon enterrement,
Mon enterrement.
僕が律儀に死ぬたびに、
僕が律儀に死ぬたびに、
律儀に、
やつらは僕の葬式について来る、
僕の葬式に。

...des petites fleurs...
...des petites fleurs...
Au, au bois d' mon cœur...
Au, au bois d' mon cœur...
…小さな花たちが…
…小さな花たちが…
おお、僕の心の森には…
おお、僕の心の森には…
[注]
1 ルフラン部では、森の名前が毎回変えられる。その4つをまとめて解説しておこう。すべて イル=ド=フランス地域圏Île-de-Franceにあり、パリ郊外に位置する。Clamart「クラマール」Meudon「ムードン」Saint-Cloud「サン=クルー」は、パリの西オー=ド=セーヌ県Hauts-de-Seine、Vincennes「ヴァンセンヌ」はパリの東のヴァル=ド=マルヌ県Val-de-Marne。
2 au bois d' mon cœurのauが重複されるが、始めのauは感嘆詞のohの意味合いを兼ねているようだ。
3 各クープレ部は、1行目を2回繰り返し、次にその後半を1回繰り返す。その3行目の、次の行との介在の役割が重要である。ここではJ' suis renomméが、次のpour avoir le cœur mal faméとストレートにつながるわけだが、mal famé は(「いかがわしい」と訳したが)「評判が悪い」ことを意味する。au fond d' ma cour「自分のテリトリーの中」ではいい意味でrenommé「有名」なのだが、3行目でrenomméの意味が転じ、外では悪い意味で有名なのである。内弁慶の外すぼみ、いや、内づらが良くて外づらが悪い?
4 y a plus d' vin dans mon tonneau「酒樽には酒がない」から、(Ils n'ont pas peur de) boire mon eau dans mon tonneau「酒樽から水を飲む(ことを躊躇しない)」のである。→注3参照
5 fidèlement「忠実に、律儀に」は je meurs「死ぬ」ことを修飾するには相応しくない形容動詞であり、Ils suivent mon enterrement fidèlement「やつらは律儀にお僕の葬式について来る」の形容動詞を、(注3で解説した形で)前に持ってきただけだと考えると、コンマの位置を前に移動して、Chaqu’ fois qu' je meurs, fidèlementとした方がいいと思われるが、chaqu’ fois qu' je meurs「(何度も)死ぬたびに」という表現がすでに風変りであり、「律儀に死ぬ」ほうがかえって相応しいだろう。
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