
今回は、ジェーン・バーキンJane Birkinの「いつわりの愛Amours des feintes」。以前取り上げた「それなのにEt quand bien même」が収録された1990年のアルバムのタイトル曲です。セルジュ・ゲンズブールが書いた曲の最後のオリジナル・アルバムで、アルバムのジャケットはゲンズブールが描いたバーキンのポートレート。勢い余ってペンが壊れインクが飛び散った、そのままだそうです。「いつわりの愛」という既存の邦題を採用いたします。
魅力的なメロディーで、このアルバムのヴァージョンではギター伴奏がステキです。そして多用される鼻母音の響きがなんともエロティック。ゲンズブールの言葉遊びには振り回されますが、ともあれ冷めた恋をかこつ内容なんですね。
Amours des feintes いつわりの愛
Jane Birkin ジェーン・バーキン
Amours des feintes
Des faux-semblants
Infante défunte 注1
Se pavanant
見せかけだけの
いつわりの愛
亡き王女然に
パヴァーヌ ステップ
Cartes en quinte 注2
S'édifiant
Le palais d'un prince
Catalan
ストレートフラッシュカードが
揃い
カタロニアの
王子の宮殿

Amours des feintes
Seul un can- 注3
Délabre scint-
Ille au vent
いつわりの愛
燭台だ
けが風に揺
らめく
Où l'on emprunte
Des sentiments
Le labyrinthe
Obsédant
ひとが感情を
取り込むところ
つきまとう
迷宮
Et comme si de rien n'était
On joue à l'émotion
Entre un automne et un été
Mensonge par omission 注4
そしてなんでもなかったように
ひとは感情と戯れる
秋と夏のあいだに
言いそびれたための嘘
Amours des feintes
Des faux-semblants
Infante défunte
Se pavanant
見せかけだけの
いつわりの愛
亡き王女然に
パヴァーヌ ステップ

Etrange crainte
En écoutant
Les douces plaintes
Du vent
妙な恐れを抱く
風の甘いすすり泣きを
聴きながら
Amours des feintes
Au présent 注5
Et l'on s'éreinte
Hors du temps
現在形の
いつわりの愛
そしてひとは疲れ果てる
時を逸して
Et pourtant maintes
Fois l'on tend
À se mainte-
Nir longtemps
だけど幾
度もひとは
長く持ちこたえ
ようとする
Le temps ne peut-il s'arrêter
Au feu de nos passions
Il les consume sans pitié
Et c'est sans rémission
時は私たちの情熱の炎に
とどまることができない
時は情熱を容赦なく費やす
そしてそれは取り返しがつかない

Amours des feintes
Des faux-semblants
Infante défunte
Se pavanant
見せかけだけの
いつわりの愛
亡き王女然に
パヴァーヌ ステップ
Couleur absinthe 注6
Odeur du temps
Jamais ne serai
Comme avant
アブサンの緑色
時の香り
私はけっして
以前と同じじゃない

Amours des feintes
Au loin j'entends
Là-bas qui tinte 注7
Le temps
いつわりの愛
遠くで聞こえる
むこうで誰かが
時を告げるのが
De ces empreintes
De nos vingt ans
Ne restent que les teintes
D'antan
私たちの青春の
これらの足跡は
往時の
色合いしか残らない
Qui peut être et avoir été
Je pose la question
Peut-être étais-je destinée
À rêver d'évasion
誰が存在しうるのか、存在しえたのかと
私は問う
たぶん私は定められていた
逃避を夢見るように
[注]
1 モーリス・ラヴェルのJoseph Maurice RavelPavane pour une infante défunte「泣き王女のためのパヴァーヌ」をもじった表現。ウィキペデシアによるとpavane「パヴァーヌ」は、16世紀のヨーロッパに普及した行列舞踏であり、またそのダンスを伴奏する音楽であるが、ここではse pavanerという動詞として用いている。辞書では「(クジャクのように)気取って歩く、気取る」と訳されるが、結婚式での「ためらいの足取りhesitation step 」はパヴァーヌのステップであるという。
2 cartes en quinte「(ポーカーで)同色のカードの5枚続き、ストレートフラッシュ」。そのうち10 J Q K A と続いたものは「ロイヤルストレートフラッシュ」。édifierは「(大きな建造物を)建立する」の意味なので、s’édifiant「建立される」の主語はpalaisのほうが相応しいかと思えるが、cartes en quinteが「成立する」と捉えた。catalanはCatalogne「カタロニア」(スペイン北東部の地域)の形容詞で「カタロニアの」。モナコMonacoにモンテカルロ・カジノCasino de Monte-Carloおよびモナコ大公宮殿Palais du princeがあり、押韻のために地名を変えたのかと。
3 candélabre「枝付き大燭台、燭台型街灯」。
4 mensonge par omission「言いそびれたための嘘」は「ロスト・ソングLost song」にも用いている言い回し。
5 au présent「現在形で」。「今では、現在は」の意味ならà présent。
6 absinthe「アブサン酒」の色は緑。バルバラBarbaraの「アブサンL' absinthe」参照。
7 quiはj'entendsの目的語。
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