
クリストフChristopheは、一昨年2020年の4月に新型コロナ感染による肺気腫で亡くなりました。7月14日の《東京パリ祭》のソワレの部でゲストのスブリームさんが歌われた彼の曲「失われた楽園Les paradis perdus」を今回ご紹介しましょう。以前取り上げた「青い言葉Les mots bleus」の前の年1973年の曲で、同じく、作詞は、シンセサイザー奏者としても知られるジャン・ミシェル・ジャールJean Michel Jarre。老年の歌手が往時を回想しているような歌詞内容ですが、クリストフは1945年生まれですから当時はまだ28歳。74歳になっても歌っているだろうなんて、想定していたのでしょうか…。冒頭からトントンと響くのは、足音でしょうか?それとも心臓の音?けだるいメロディーに乗せて彼特有の高い声でメランコリックな歌詞を歌っていますが、途中から低い声に変わります。彼が声を変えたのではなく、どうやらこれはジャン・ミシェル・ジャールのようです。後半、予想外の展開を見せる曲です。
2020年2月。亡くなる2ヵ月前です。
2015年に、Christine and the Queensがこの曲をよりポップでモダンなサウンドにアレンジしました。ルフラン部分はフランス語風発音の英語です。
Heartless
How could you be so heartless?
How could you be so heartless?
How could you be so heartless?
Les paradis perdus 失われた楽園
Christophe クリストフ
Dans ma veste de soie rose
Je déambule morose
Le crépuscule est grandiose...mais 注1
バラ色の絹のジャケットを着て
僕はむっつりして散歩する
黄昏は壮大だ、けれど…

Peut-être un beau jour voudras-tu 注2
Retrouver avec moi
Les paradis perdus
おそらく君は望むだろうか、いつの日か
僕といっしょにもう一度見つけたいと
失われた楽園を
Dandy un peu maudit, un peu vieilli, 注3
Dans ce luxe qui s'effondre
Te souviens-tu quand je chantais
Dans les caves de Londres
Un peu noyé dans la fumée
Ce rock sophistiqué
Toutes les nuits tu restais là
崩れゆくこんな奢侈をまとった
少し呪われた、少し年老いたダテ男、
僕が歌っていた頃のことを覚えているかい
少し煙に包まれた
ロンドンの地下で
このしゃれたロックを
毎夜、君はそこにいたね

Peut-être un beau jour voudras-tu
Retrouver avec moi
Les paradis perdus
おそらく君は望むだろうか、いつの日か
僕といっしょにもう一度見つけたいと
失われた楽園を
Dandy un peu maudit un peu vieilli
Les musiciens sont ridés 注4
Sur ce clavier qui s'est jauni
J’essaie de ma rappeler encore une fois les accords de
Ce rock sophistiqué
Qui étonnait même les anglais 注5
少し呪われた、少し年老いたダテ男
黄ばんだこの鍵盤の上の
ミュージシャンの手は皺くちゃだ
イギリス人さえも驚かせた
このしゃれたロックの
コードを僕はもう一度思い出そうとする

Peut-être un beau jour voudras-tu
Retrouver avec moi
Les paradis perdus
おそらく君は望むだろうか、いつの日か
僕といっしょにもう一度見つけたいと
失われた楽園を
[注]
1 crépuscule自然現象の「黄昏」の壮大さに、人生の「黄昏」のみじめさを比している。
2 「青い言葉Les mots bleus」では、自分の気持ちを語る部分に未来時制を効果的に用いているが、この歌詞のルフランでも未来時制を用いている。疑問形だが、実際に君に問いかけているというより、peut-être「たぶん」であり、un beau jour「いつの日か」であり、自身の想像であろう。
3 dandyは英語由来の語で、まさしく「ダンディー」。
4 鍵盤(単数形)の上の皺くちゃのミュージシャン(複数形)は、ピアノの弾き語りで歌う自分の両手のことであろう。
5 アメリカのブルースやロックンロールを基盤に1950年頃にイギリスで生まれたロックは、UKロックと呼ばれる。ローリング・ストーンズThe Rolling Stones、ビートルズTHE BEATLES、レッド・ツェッペリンLed Zeppelin、ディープ・パープルDeep Purpleなどに続き、1973年にはクイーンQueenがデヴューした。そうした本家のイギリス人たちも驚かせるロックであるという。sophistiquéは「凝りすぎた、不自然な」の意味もあるが、「洗練された、気の利いた」の意味。この曲自体UKロック風だとされるようだ。
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