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2022
02.02

ロリータ、ゴー・ホームLolita Go Home

Jane Birkin Lolita Go Home


ここ1年、「シャンソンマガジン」で、宇藤カザンが記事を書きYouTubeで編集者の山下さんと対談し、私が付録CDで解説しています。「グレコ特集」「トレネ特集」「モンタン特集」に続き、今回、2月に発売される「2022 春号」はゲンズブール特集です。
ということで前回の「愛なき愛L' anamour」に引き続き、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgが作った曲を取り上げます。ジェーン・バーキンJane Birkinの「ロリータ、ゴー・ホームLolita Go Home」です。作曲:セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourg、作詞:フィリップ・ラブロPhilippe Labro。1975年の同名のアルバムに収録されています。タイトルは英語ですがフランス語の曲。このアルバムには、スタンダードナンバーほか英語の曲が半分を占めています。イギリス生まれのバーキンにとっては英語は母国語です。

ミレーヌ・ファルメールMylène Farmerが作詞しアリゼAlizéeが歌った「あたし…ロリータMoi…Lolita」のページに書いたとおり「ロリータLolita」は、ウラジーミル・ナボコフVladimirovich Nabokovの小説のタイトルで、小説に描かれた中年の男性が愛する年の離れた少女の名前です。「ロリータ、ゴー・ホームLolita Go Home」では、人々が「私」をロリータと呼び、ゴー・ホームと言って追い出そうとします。中年男性の関心を引く「私」の佇まいがイケナイのでしょうか?舞台はアメリカでしょうか?イギリスでしょうか?フランスに帰れというのでしょうか?

Bardot6.jpgフランスの女流思想家シモーヌ・ド・ボーヴォワールSimone de Beauvoirが1960年「ブリジット・バルドーとロリータ・シンドロームBrigitte Bardot and the Lolita Syndrome」(英訳され、アメリカで出版)というバルドーの写真集を兼ねた評伝を発表し、「彼女こそ戦後の新しいエロティシズムのシンボルだ」と称賛しました。彼女の愛称のBBは、頭文字であるだけでなく、赤ちゃんbébéという意味で彼女なあけっぴろげな魅力をも表しているようです。そしてフレンチロリータと言われるヌーヴェルヴァーグの女優たちや歌手たちがバルドーの後に続きました。よく知られている通り、ブリジット・バルドーBrigitte Bardotとゲンズブールは1967年から1年ほど恋仲になり「ジュ・テーム…モワ・ノン・プリュJe t'aime... Moi non plus」や「ボニーとクライドBonnie and clyde」をデュエットで歌い、「イニシャルB.B.:Initials B.B.」で彼女の魅力を歌っています。そして続くフレンチロリータとして挙げられる女優たちや歌手たちには、ジェーン・バーキンはもとより、フランス・ギャルFrance Gall、アンナ・カリーナAnna Karina、イザベル・アジャーニIsabelle Yasmine Adjani など、ゲンズブールが曲を提供した相手が数多く含まれます。彼女たちは、ナボコフの描いた13歳の女の子とは違って大人の女性で、気品を持ちながらもエロティックであり、媚態と不服従、臆病さと大胆さといった相反する要素をそなえた特性がロリータ的だとされます。この曲に描かれた「私」もしかりで、ファッションでも演出でもなく匂って来る特性すなわちゲンズブールの好むイケナイ、アブナイ要素が「まっとうな」人たちを警戒させるのです。

後年の1984年、ゲンズブールはバーキンとの間に生まれた当時13歳の娘のシャルロット・ゲンスブールCharlotte Gainsbourgとのデュエット曲「レモン・インセストLemon Incest」を発表しました。この曲は、ナボコフのロリータに立ち返りつつ近親相姦的な形に発展させています。



Lolita Go Home ロリータ、ゴー・ホーム
Jane Birkin   ジェーン・バーキン


Tous les gens "comme il faut" se retournent sur moi 注1
Principalement les femmes, je ne sais pas pourquoi
Elles reluquent mes chaussures, mes chaussettes et ma jupe
J'les entends murmurer des drôles de mots comme "pute"

 「まっとうな」人々はみんな私に背を向ける
 主に女たちが、なぜだか分からない
 彼女らは私の靴、私の靴下や私のスカートをじろじろ見る
 彼女らが「雌犬」といった変な言葉をささやくのが聞こえる

Bardot2.jpg


{Refrain:}
Lolita, Lolita, go home
Lolita, Lolita, go home
Lolita, Lolita
Lolita, go home

 ロリータ、ロリータ、ゴー・ホーム
 ロリータ、ロリータ、ゴー・ホーム
 ロリータ、ロリータ
 ロリータ、ゴー・ホーム

On me chasse de partout, comme une boule de flipper 注2
Qui s'cogne aveuglement dans les machines en fer
J'ai tout mis dans un sac de cartons et ficelles
J'pouvais plus supporter leur sarcasme cruel

 ピンボールゲームの球のように、どこでも私を追いかけて
 やみくもに鉄の機械のなかでぶつかる
 私はすべてを厚紙と紐の袋にしまい込んだ
 私はもう彼女らの残酷な嘲弄に耐えられなかった

{Refrain}

Bardot4.jpg


Derrière les volets clos, j'ai senti leurs regards
Et je courbe le dos en chemin vers la gare
On dirait que, vraiment, à tous, je faisais peur
J'ai vu, en rangs serrés, les femmes crier en chœur

 閉じたシャッターの後ろで、私は彼女らの視線を感じた
 そして駅に向かう途中で背を丸める
 実際、みんなを、私は怖れさせたようだ
 私は見た、整列して、女たちが声をそろえて叫んでいるのを

{Refrain}

Au wagon-restaurant, j'ai commandé un thé
Je ne fais rien de mal, j'ai les jambes écartées
Et pourtant, devant moi, un vieux monsieur salive
Et j'écoute le chant de la locomotive 注3

 食堂車でお茶を一杯注文した
 私はなんにも悪いことはしていない、私は脚を広げている
 だけど、私の前で、ジジイが涎を垂らす
 そして機関車の歌が聴こえる

Lolita, Lolita, go home (×11fois)

 ロリータ、ロリータ、ゴー・ホーム (×11回)

Bardot3.jpg


[注]
1 comme il faut「立派な、きちんとした」
2 flipper「ピンボールゲーム」傾斜した箱の中で金属球を2つのバーで弾き、的に当てて得点するゲーム。「スマートボール」「パチンコ」「コリントゲーム」も同類。
3 le chant de la locomotive「機関車の歌」とは、蒸気機関車の場合は「シュッシュ、ポッポ」という蒸気・煙の排出音だろうが、この場合は、車輪がレールの継ぎ目に当たる「ガタン、ゴトン」というジョイント音で、それがLolita, Lolita, go homeと聴こえるのであろう。



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