
前回は、ミュージカル「ノートルダム・ド・パリNotre-Dame de Paris」の冒頭でピエール・グランゴワールPierre Gringoire役が歌う「カテドラルの時代Le temps des ⅽathédrales」でしたが、今回は同じくピエール・グランゴワールPierre Gringoire役が歌う「月Lune」です。醜いせむし男カジモドQuasimodoが美しいジプシー女エスメラルダEsmeraldaに対して抱く狂おしくまた虚しい恋情を見守ってやってくれと、詩人は月に語りかけます。この歌詞で思い浮かんだのは「嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな」という西行法師の歌。西行には月を詠んで恋心を表した歌が多く、想いを寄せる待賢門院璋子の面影を月に見立てたものだと言われます。ともあれ古今東西、苦しい片想いと月とは縁の深いもののようです。ミュージカルでは三日月が選ばれていましたが、ノートルダム大聖堂の後方に満月が浮かぶ写真も見つかりました。カジモドを見守ってくれる月はどちらがふさわしいでしょうね?
Lune 月
Lune
Qui là-haut s'allume
Sur
Les toits de Paris
Vois
Comme un homme
Peut souffrir d'amour
パリの屋根々々の
上に
高みに輝く
月よ
見てくれ
いかに男が
恋に苦しみ得るか

Bel
Astre solitaire
Qui meurt
Quand revient le jour
Entends
Monter vers toi
La chant de la terre
Entends le cri
D'un homme qui a mal
Pour qui
Un million d'étoiles
Ne valent
Pas les yeux de celle
Qu'il aime
D'un amour mortel
日がまた昇る時に
死す
美しき
孤高の星よ
聞いてくれ
大地の歌が
ぬしにむかって湧き上がるのを
苦しむ男の
叫びを聞いてくれ
やつにとっては
死ぬほどまでに
愛する
くだんの女の瞳には
千の星も
値しない

Lune
Qui là-haut s'embrume
Avant
Que le jour ne vienne
Entends
Rugir le cœur
De la bête humaine
C'est la complainte
De Quasimodo
Qui pleure
Sa détresse folle
Sa voix
Par monts et par vaux
S'envole
Pour arriver jusqu'à toi
Lune
Veille
Sur ce monde étrange
Qui mêle
Sa vois au chœur des anges
高みに霞む
月よ
日が昇る
前に
聞いてくれ
獣人の
心が咆えるのを
それはカジモドの
呻き声だ
耐えきれない苦悩を
嘆いている
やつの声は
ぬしのところまで届かんと
山を谷を
越えて翔び行く
月よ
見守ってくれ
やつの声を天使のコーラスに
混ぜ合わせる
この不思議な世界を

Lune
Qui là-haut s'allume
Pour
Eclairer ma plume 注
Vois
Comme un homme
Peut souffrir d'amour
D'amour
私のペンを
照らすために
高みに輝く
月よ
見てくれ
いかに男が
恋に苦しみ得るか
恋に
[注]「月明かり」と「ペン」というのは、フランスの古い童謡「月明かりでAu clair de la lune」を踏まえていると理解される。「褐色の髪の女性La dame brune」の記事の後半にその歌詞を示した。
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