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2021
11.18

ブラック・トロンボーンBlack trombone

Serge Gainsbourg N° 4


今回は、セルジュ・ゲンズブールSerge Gainsbourgの「ブラック・トロンボーンBlack trombone」という曲です。1962年のアルバム:Serge Gainsbourg N°4に収録されています。この曲は、歌詞・メロディーともにあきらかにナナ・ムスクーリNana Mouskouriの「ソナタSonata」 (1961年)をもじっていると私は確信するのですが、そのデータは見つかりません。

トロンボーンとは何ぞや?と、ウィキペディア等で調べてみました。tromboneは、トランペットを意味するイタリア語trombaに「大きい」を意味する接尾語-one を付けた「大きなトランペット」という意味の名称で、非常に古い歴史を持つ金管楽器です。中世期に十字軍の戦利品として直管の楽器がヨーロッパに伝えられ、その後、保持上の都合から次第に管が曲げられ、15世紀には自然倍音以外の音を出すために、管の長さを自由に変化できるスライド・トランペットが考案されました。このスライド・トランペットがトロンボーンの前身で、「引く・押す」の意味でサクブットsaquebouteと呼ばれました。16世紀から18世紀に至るまで、サクブットはもっぱら教会で使用されました。スライド・システムにより微妙な音程の変化にも対応して声楽の旋律に合わせることができ、カソリックのミサにおける聖歌の合唱等の伴奏、オラトリオやレクイエムなどに重用されたのです。もともと人間の声に最も近い音質の楽器だといわれますが、アルト、テノール、バスなど、音域の異なるものが作られて、合唱の各声域をユニゾンで伴奏しました。18世紀には、より大きく力強い音が得られるようにベルの大きさが徐々に拡大されました。教会音楽への適合性、生み出されるハーモニーの美しさから「神の楽器」と言われるまでに発展しましたが、世俗の音楽での使用は自重され。初めて交響曲に使用されたのは、ベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」第4楽章でした。

「ソナタSonata」との関連にこだわる私、トロンボーンが用いられたソナタを探してみましたら、ありました!
ヴィヴァルディAntonio Vivaldi:トロンボーン・ソナタ 第1番 変ロ長調Sonata No.1 en si bemolle(楽器はトロンボーンとピアノ)
アルビノーニTommaso Albinoni:ソナタヘ長調Sonata en fa majeur(楽器はバストロンボーン・ピアノ)、トリオ・ソナタTrio Sonata(トロンボーン三重奏)
ヒンデミットPaul Hindemith:トロンボーン・ソナタ Sonate pour trombone en fa majeur(楽器はトロンボーンとピアノ)
などです。

automne(秋)とfredonne(震える)の2語が「ソナタSonata」と共通します。ゲンズブールは、その押韻の延長で tromboneの語を思いついたのでしょうか、執拗なまでに-neの押韻を連ねる歌詞です。タイトルは英語交じりで、トロンボーンはジャズを演奏します。中国の陰陽五行説で秋の色は「白」だということをゲンズブールが知っていて、その陰画の意味を込めて「黒いトランペット」とした、とまでは思えませんが、結果的にそうなったということでしょう。



Black trombone  ブラック・トロンボーン
Serge Gainsbourg セルジュ・ゲンズブール


Black trombone
Monotone
Le trombone
C'est joli
Tourbillonne
Gramophone 注1
Et bâillonne
Mon ennui

 モノトーンの
 ブラック・トロンボーン
 トロンボーン
 それは美しい
 トロンボーンは
 渦巻き
 クラシックを流す
 そして黙らせる
 僕の倦怠を

Trombone1.jpg


Black trombone
Monotone
Autochtone 注2
De la nuit 注3
Dieu pardonne 注4  
La mignonne
Qui fredonne
Dans mon lit

 モノトーンで
 ネイティブな
 ブラック・トロンボーン
 夜もすがら
 神よ許せ
 僕のベッドで
 娘が
 震えている

Black trombone
Monotone
Elle se donne
À demi 注5
Nue, frissonne
Déraisonne
M'empoisonne  
M'envahit

 モノトーンな
 ブラック・トロンボーン
 彼女は身をささげる
 ほとんど
 裸で、震え
 うわごとを言い
 僕を毒し
 僕を侵す

Trombone2.jpg


Black trombone
Monotone
C'est l'automne
De ma vie
Plus personne
Ne m'étonne
J'abandonne
C'est fini

 モノトーンな
 ブラック・トロンボーン
 それは僕の人生の
 秋だ
 もう誰も
 僕を動じさせはしない
 僕は放棄する
 もう終わったんだ

[注]
1 Gramophone蓄音機ドイツ・グラモフォンは円盤型レコードを発明したエミール・ベルリナーEmil Berlinerによって1898年12月6日に創設されたクラシック音楽のレコードレーベル。ここでは動詞化したgramophonerの三人称単数形。
2 autochtone「土着の、現住の」という本来の意味より押韻のために選んだ語であろう。
3 de la nuit「夜通し」
4 Dieu pardonne / La mignonne 「娘を許せと神に願う」というつながりだが、Dieu pardonneを単独に訳した。
5 à demi 「なかば、ほとんど」



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