
パトリシア・カースPatricia Kaasの1993年のアルバム: Je te dis vousはすばらしい曲ぞろいです。このブログではそのうち、タイトルナンバーの「私はあんたを貴方と呼ぶ(永遠に愛する人へ)Je te dis vous」をはじめ、「何も持たない人々Ceux qui n’ont rien」「ホテル・ノルマンディHôtel Normandy」「はかない愛だとしてもIl me dit que je suis belle」「待ちくたびれてFatiguée d'attendre」「満天の星Y'avait tant d'étoiles」「かもめの歌Juste une chanson」をすでに取り上げています。
今回はアルバムの3番目の曲:Je retiens mon souffleです。「あふれる想いを」という邦題がついていますが、これは用いず、原題の意味を活かして「息を止めて」といたします。歌詞のリフレインの部分では「あなたに身を投げ出すために走った」という状況が示されています。水に飛び込む時に息を吸って止めるようなこと、あるいは、あなたの胸でJe reprends mon souffle「ひと息つく」ための前提として一旦「息を止める」ということと捉えていいのでしょうが、呼吸するのを忘れるほど一時的に激しく沸き起こる感情に対して言う「息を呑む」という表現もあり、気持ちの高ぶりをもあらわしているのでしょう。でも今、何かの行き違いで二人は離れている。もう一度あなたに逢いたい!そう、「あの胸にもう一度」という映画のタイトルが合うような歌詞内容です。作曲:Fabrice Aboulker、作詞:Pierre Grillet &Marc Lavoine。
Je retiens mon souffle 息を止めて
Patricia Kaas パトリシア・カース
Je n'suis qu'une demoiselle sans balançoire
Les yeux au ciel, j'regarde filer les stars 注1
Depuis nous deux, je n'écoute plus Mozart 注2
Ah mon seul regret tu peux me croire
私はブランコをなくした女の子にすぎない
空を仰いで、私は星が流れるのを見る
私たち二人になってから、私はモーツァルトを聴かなくなった
ああそれだけが残念なの、信じていいわ

L'amour, l'amitié, ça n'a rien à voir
Faudra un jour rattraper ce retard 注3
Ce soir j'aimerais bien la refaire l'histoire
J'ai une envie claire de te revoir
恋、友情、そんなのどうでもいい
この遅れをいつか取り戻さなきゃ
今夜、物語を書き直したい
あなたにまた会いたいとはっきり望む
{Refrain:}
J'ai couru pour venir me jeter contre toi 注4
Je retiens mon souffle, Ah... Ah...
J'ai couru pour venir, j'ai couru, me voilà,
Je reprends mon souffle, Ah... Ah...
あなたに身を投げ出すために走った
私は息を止める、ああ…ああ…
私はそのために走った、私は走って、私は今、
私は息をつく、ああ…ああ…
Le temps qui passe a des reflets bizarres
Comme un glaçon dans la Marie Brizard 注5
J'ai l'impression qu'on m'a volé ma part
J'ai une envie folle de te revoir
過ぎ行く時は妙なきらめきを持つ
リキュ―ルのなかの氷のかけらのような
誰かが私の立場を盗んだような気がする
あなたにまた会いたいと狂おしく望む

{Refrain}
Il doit bien exister ce monde à part 注6
Pour les comme nous, les amis qui s'égarent 注7
J'étais ton p'tit diamant, ta perle rare
Dis, je brille encore dans ta mémoire
この世界は別のところにあるはず
私たちのような道に迷った恋人たちにとっては、
私はあなたの小さなダイヤモンド、あなたの希少な真珠だった
ねぇ、私はあなたの記憶のなかでまだ輝いているかしら
[注]
1 étoilesではなく英語のstarsを用い、スターではなくスタ-ルと発音。balançoire Mozart croire…と曲の最後まで「…アール」の同じ韻を踏んでいる。ルフラン部もそれに近い「ア」の音を響かせている。
2 depuis nous deux「私たちが二人いっしょになってから」。 à nous deux「私たち二人で」などと同様に理解。
3 Il faut+inf.「…しなければならない」の未来形で、非人称主語のilが省略されている。
4 venir+inf.は可能性・強調などのニュアンスを表す。
5 Marie Brizard「マリー・ブリザール」アニゼットAnisette(アニスのリキュール)などで知られるフランスのリキュール・ブランド。ここではリキュールの代名詞。
6 Il y a...「…がある」→Il doit y avoir...「…があるはずだ」と同様、Il existe...「…が存在する」→Il doit exister...「…が存在するはずだ」。意味上の主語はce monde。
7 les comme nous=les amisで、comme nousは名詞扱い。

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