
再度、ジュリエット・グレコJuliette Grécoの曲を。「過去への決別Je n'ai jamais été」です。2009年のアルバム:Je me souviens de toutに収録。作詞:マリー・ニミエMarie Nimier、ティエリィ・イルーズThierry Illouz、作曲:ジェラール・ジュアネストGérard Jouannest。
原題は「私はけっして…ではなかった」という意味で、歌詞ではそのあとdoué(e) pour qc.「…の才能がある」という表現が続きます。つまりは「私はまったく…の才能がありはしはなかった」ということで、それは「過去に経験した事柄、それらを振り返ること、安楽や静寂に生きること」についての才能。そして大切なのは、「あなたとの関係」であり、過ぎ行く現在に身を投じて主体的に生きることだというのです。そう、「実存主義のミューズ」といわれたグレコの本領を発揮するような内容ですが、エディット・ピアフÉdith Piafの「いいえ、私は何も悔やまない(水に流して)Non, je ne regrette rien」とほぼ同じ主旨をもう少しひねった表現にした歌詞だとも言えるでしょう。
…という解釈から、「私は器用じゃない」という既存の邦題をあえて選ばず、「過去への決別」といたしました。
Je n'ai jamais été 過去への決別
Juliette Gréco ジュリエット・グレコ
Je n'ai jamais été
Douée pour le passé
Pour les choses bouclées
Pour les choses achevées
Je suis pour que tout change 注1
Et pour tout renverser
Et je n'ai pas fini
De tout recommencer
私はまるで
不得手だった、過去は
けりのついたことは
終わったことは
すべてが変わったほうがいいし
すべてがひっくり返ったほうがいい
そして私はすべてをやり直し
終えてはいない

Je n'ai jamais été
Douée pour les devoirs 注2
Pour les rétroviseurs
Pour les jeux de miroirs
Je suis pour le moment 注3
Qui file entre mes doigts 注4
C'est le seul finalement
Dont je ne doute pas
私はまるで
不得手だった、義務は
うしろ見は
鏡遊びは
指のあいだからこぼれ去る
時間に私はあい対している
それが結局のところ
私が疑わない唯一のこと
Et ce que tu me donnes
Et ce que tu me dis
Ce que tu me pardonnes
Et le goût de ce fruit
Ce sont tous mes trésors
Et je n'en veux pas d'autres
Si ce n'est de donner
Quelque bonheur aux autres
そしてあなたが私にくれるもの
そしてあなたが私に言うこと
あなたが私に許すこと
そしてこの果実の味
それがすべて私の宝もの
そして他のものは要らないわ
それが他のひとたちになんらかの幸せを
もたらすのでないなら

Je n'ai jamais été
Faite pour le confort
Ou la tranquillité
Je voudrais tout savoir
De ce que l'on ignore
Et tenir dans mon poing
Tout ce qui peut sauver
Le monde du chagrin
私はまるで
不得手だった、安楽は
あるいは静寂は
私はすべて知りたいの
ひとの知らないことを
そして手につかみたいの
悲しみの世界を
救えるものをすべて
Et ce que tu me donnes
Et ce que tu me dis
Ce que tu me pardonnes
Et le goût de ce fruit
Ce sont tous mes trésors
Et je n'en veux pas d'autres
Si ce n'est de donner
Quelque bonheur aux autres
そしてあなたが私にくれるもの
そしてあなたが私に言うこと
あなたが私に許すこと
そしてこの果実の味
それがすべて私の宝もの
そして他のものは要らないわ
それが他のひとたちになんらかの幸せを
もたらすのでないなら

Vous direz "Le passé
A bien de l'importance"
Mais le passé pour moi
Jamais ne passera
Ils sont là, mes amis 注5
あなたは言うでしょう「過去は
とても重要だよ」と
でも過去は私にとって
過ぎ去りはしないわ
ここにいるのよ、私の友人たちは
[注]
1 être pour que...「…ということに賛成である」
2 devoir「義務」は自ら望んでおこなうことではなく、状況や他者から課されたことがら。rétroviseur「バックミラー」はうしろ(過去)を見ること。les jeux de miroirs「鏡遊び」は、直視せず媒介を通して見るといったことか。
3 être pour qc.「…に向けられている」
4 filer entre les doigts 「指の間からするりと逃げる、たちまちなくなる」
5 ilsはmes amisを先取りしている。
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