
ジャック・ブレルJacques Brel の「優しい心Les cœurs tendres」は、セルジュ・コルベールSerge Korber監督の1967年の映画:Un idiot à Parisに用いられた曲で、作詞・作曲はブレル自身。アルバム:Jacques Brel 67に収録されています。
歌詞はその映画の内容に若干関連していますので、Wikipédiaの記事を参照し、かいつまんでご紹介しておきましょう。
小さな村に住むグービGoubiという男は、パリとエッフェル塔を見ることを夢見ていて馬鹿idiotとあざけられていています。ある日、村の仲間が彼を酔っぱらわせたままパリに連れて行き、翌朝目を覚まして混乱したグービは、緑から赤に変わる信号にとまどって迷子になります。エッフェル塔とシャン・ド・マルスを見たいとパリを彷徨うちにいろんな人と出会ったり、治安を乱したと誤解されて警察に逮捕されたり…。そして「花La Fleur」という名の売春婦に出会って意気投合して結婚を申し込み、ともに村に戻って生活することになる…というお話です。
そういえばブレルには「優しさLa tendresse」(1959年)lという曲もありましたね。似たタイトルですが、歌詞内容や曲想はまったく違います。
Les cœurs tendres 優しい心
Jacques Brel ジャック・ブレル
Y en a qui ont le cœur si large
Qu'on y entre sans frapper
Y en a qui ont le cœur si large
Qu'on en voit que la moitié
とても大きくてノックせずに入れるような
心を持つ人たちがいる
とても大きくてその半分しか見えないような
心を持つ人たちがいる
Y en a qui ont le cœur si frêle
Qu'on le briserait du doigt
Y en qui ont le cœur trop frêle
Pour vivre comme toi et moi
とても脆くて指で壊せるような
心を持つ人たちがいる
君と僕のように生きるには
あまりにも脆い心を持つ人たちがいる

{Refrain:}
Z'ont pleins de fleurs dans les yeux 注1
Les yeux à fleur de peur 注2
De peur de manquer l'heure
Qui conduit à Paris
彼らは目に花を満たす
恐れの花が目に溢れる
パリに行く
時間が無いという恐れの
Y en a qui ont le cœur si tendre
Qu'y reposent les mésanges
Y en qui ont le cœur trop tendre
Moitié hommes et moitié anges
とても優しくてシジュウカラが休めるような
心を持つ人たちがいる
半分人間で半分天使のような
とても優しい心を持つ人たちがいる
Y en a qui ont le cœur si vaste
Qu'ils sont toujours en voyage
Y en a qui ont le cœur trop vaste
Pour se priver de mirages
とても広くていつも旅をしているような
心を持つ人たちがいる
幻想を自らに戒める
とても優しい心を持つ人たちがいる

{Refrain}
Y en a qui ont le cœur dehors 注3
Et ne peuvent que l'offrir
Le cœur tellement dehors
Qu'ils sont tous à s'en servir
解放された心を持ち
それを呈することしかできない人たちがいる
彼らがみんな役立てるほど
解放された心だ
Celui-là a le cœur dehors
Et si frèle et si tendre
Que maudit soient les arbres morts 注4
Qui ne pourraient point l'entendre
その人は解放された
とても脆いとても優しい心を持つ
その人の言うことをまったく聞けない
枯れ木たちはなんていまいましいんだ
A pleins de fleurs dans les yeux 注5
Les yeux à fleur de peur
De peur de manquer l'heure
Qui conduit à Paris
その人は目に花を満たす
恐れの花が目に溢れる
パリに行く
時間が無いという恐れの

[注]
1 Z'ont=Ils ont 1行目のfleur は「花」だが、2行目のfleur は「表皮、表面」で、à fleur deは「…と同じ水準に、…とすれすれに」の意味の成句だと判断する。映画に登場する売春婦の名前がLa Fleur「花」であることと関連させているのかと思われるが、このルフラン部分は、正確には訳せない。
3 dehors一般の辞書には「外に(で)」という訳語しかないが、アルゴ辞書Bobには、En liberté, sorti de prison, hors de la prisonすなわち「自由の身である」という解説がある。
4 que「なんと」は感嘆詞。Maudit soient(soit) qn.(ou qc.)!「コン畜生…め!」。
5 ルフランのZ'ontがAに変わる。主語は前節のcelui-là。
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