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2014
12.05

涙(友が泣くのを見る) Voir un ami pleurer

Jacques Brel Voir un ami pleurer


今回は、ジャック・ブレルJacques Brelの「涙(友が泣くのを見る) Voir un ami pleurer」という素晴らしい曲です。1977年に出した最後のアルバム「偉大なる魂の復活(レ・マルキーズ)Les Marquises」に収められています。たいへん深い内容で、力が及ばないのを自覚しながら精一杯訳しました。ブレルに関しては、「見果てぬ夢La quête」の記事に解説していますので参照ください。
歌詞の2節目は、ブレルが晩年に住んでいたヒバオア島のポリネシア人の友人が 妻に逃げられ、息子の教育に悩んでいたことにインスピレーションを得て書かれたそうですが、他の節は、紛争、金、都市生活、人種など、世界的な社会問題をテーマにしています。個人的な問題、社会的な問題を挙げながら、各節は、タイトルであるVoir un ami pleurer「友が泣くのが目に浮かぶ」で締めくくられます。「愛しかない時Quand on n'a que l'amour」は、こう生きたい、こう行動したい、こうしてあげたいと想ってもそのための手立てを何も持っていない。だけど、その「想い」すなわち「愛」が唯一の「力」となる…という歌詞であると解説しましたが、その肯定的なメッセージがこの「涙」では「友が泣くのが目に浮かぶ」という無力感に変わったようにも感じられます。でも、ブレルの深い愛は同様に、いえ、ますます強く語られています。



他の歌手のカヴァーとしては、ジュリエット・グレコJueliette Gréco(←Daily motion動画)を筆頭に挙げたいです。


モラーヌMaurane




ララ・ファビアンLara Fabian も歌っています。

Voir un ami pleurer  涙(友が泣くのを見る)
Jacques Brel      ジャック・ブレル


Bien sûr, il y a les guerres d’Irlande 注1
Et les peuplades sans musique 注2
Bien sûr, tout ce manque de tendre
Et il n’y a plus d’Amérique 注3
Bien sûr, l’argent n’a pas d’odeur 注4
Mais pas d’odeur vous monte au nez 注5
Bien sûr, on marche sur les fleurs
Mais, mais voir un ami pleurer! 注6

  むろん、アイルランドの紛争がある
  そして音楽を持たぬ人々がいる
  むろん、こうしたすべての愛情の欠如がある
  そしてもうアメリカは存在しない
  むろん、金には匂いはない
  だが鼻に感じられる匂いがないというだけだ
  むろん、我々は花々を踏みつけて歩く
  だが、だが友が泣くのが目に浮かぶ!

Voir un ami pleurer1


Bien sûr, il y a nos défaites
Et puis la mort qui est tout au bout
Nos corps inclinent déjà la tête
Étonnés d’être encore debout
Bien sûr, les femmes infidèles
Et les oiseaux assassinés 注7
Bien sûr, nos cœurs perdent leurs ailes
Mais, mais voir un ami pleurer!

  むろん、我々が味わう敗北があり
  そしていちばん最後には死がある
  我々の身体はすでにこうべを傾がせている
  いまだに立っていることに驚きつつ
  むろん、不実な女たちがいる
  そして殺された鳥たちも
  むろん、我々の心は彼らの翼を見失う
  だが、だが友が泣くのが目に浮かぶ!

Voir un ami pleurer2


Bien sûr, ces villes épuisées
Par ces enfants de cinquante ans
Notre impuissance à les aider
Et nos amours qui ont mal aux dents
Bien sûr, le temps qui va trop vite
Ces métros remplis de noyés 注8
La vérité qui nous évite
Mais, mais voir un ami pleurer!

  むろん、50歳の子供たちによって
  疲弊させられたこれらの街がある
  我々の助力の無力さ
  そして歯の疼くような我々の愛情
  むろん、時はあまりにも速く過ぎゆく
  この地下鉄はあぶれた人々でいっぱいだ
  真実は我々から目を逸らせる
  だが、だが友が泣くのが目に浮かぶ!

Voir un ami pleurer5


Bien sûr, nos miroirs sont intègres
Ni le courage d’être juif
Ni l’élégance d’être nègre
On se croit mèche, on n’est que suif 注9
Et tous ces hommes qui sont nos frères
Tellement qu’on n’est plus étonné
Que, par amour, ils nous lacèrent
Mais, mais voir un ami pleurer!

  むろん、われわれの鏡は清明だ
  ユダヤ人であるための勇気も
  二グロであるための優雅さもなく
  我々は自分たちがろうそくの芯だと信じるが、蝋にすぎない
  そして我々の兄弟であるこれらの人々は皆
  これ以上驚くことはないが
  彼らは、愛によって、我々を結びつける
  だが、だが友が泣くのが目に浮かぶ!

Voir un ami pleurer3


[注]
1 les guerres d’Irlandeは、Le conflit nord-irlandais「北アイルランド問題」(英語ではThe Troubles)と呼ばれるものだが、北アイルランドnord-irlandaisの呼称に疑問を持つためにnordを外し、長年にわたり継続している紛争なので複数形にしているのであろう。
2 peuplade「(未開社会における)小部族」。古くは「(未開地への)移民、人の供給、人口増加」だが、「ある種の人々の集団」くらいの意味でとらえた。sans musiqueは、心を癒すものを持たぬという意味か。
3 Amérique「アメリカ大陸」「アメリカ合衆国」は「新世界」「自由」等を象徴しているのだろう。
4 l’argent n’a pas d’odeur「銭に匂いなし」→「不浄な金も金は金」
5 monter au nez「(からしなどが)鼻につんとくる」vous「あなた方の鼻に」ということだが、ここでは不特定な人、人間一般を指す。
6 voir un ami pleurer! 不定詞の文にはいくつかの用法があるが、感嘆詞がついており感嘆を示す。また、voirは「見える、想像する、気づく」などの意味合い。題名であり、歌詞のなかでももっとも重要な部分だが、自分なりに解釈した。邦題には、直訳して副題として加えた。
7 oiseauは、「鳥」とは訳したが、「人」を指す。
8 noyé「溺死者」だが、比喩的に用いられている。
9 mècheは、「ろうそくやランプの芯」。suif「獣脂、油脂」。すなわちchandelle de suif「獣脂ろうそく」の「芯」と「脂」のことで、真ん中に立って主導権を持つ立場と周辺部の受動的な立場とを喩えている。分かりやすいように「脂」を「蝋」とした。



コメント
ロワイヤル仏和中辞典によりますと、
mourir àは「…と決別する、…を捨てる」という意味のようです。
朝倉ノニーdot 2023.09.15 13:13 | 編集
素晴らしいですね! ところで不躾ながらフランス語の質問をさせてください。

詩人アロクールの

Partir, c’est mourir un peu,
C’est mourir à ce qu’on aime :
試訳) 旅立つ、それはちょっと死ぬこと/その死は、愛した片隅で

mourir à ce queを場所と解したいのですが、いかがでしょうか?
興味を持たれたら、ご検討いただければ幸いです。

関係する記事はコチラ。
https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/20/204714
弾十六dot 2023.09.09 13:22 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.02.24 23:22 | 編集
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