
ジャン・フェラJean Ferratは、1966年にボリス・ヴィアンBoris Vian(1959 年没)へのオマージュの曲「かわいそうなボリスPauvre Boris」を作りました。前回の「マリアMaria」と同じアルバムに入っています。ボリス・ヴィアンは、第1次インドシナ戦争(1946~1954)の終盤の時期1954年に、翌55年から始まる第2次インドシナ戦争すなわちベトナム戦争を意識して「脱走兵Le déserteur」を作りましたが、彼自身の歌はラジオでの放送が禁止されて幻の歌となりました。そして、のちに知られるようにはなったけれど世の中はちっとも変わらない。Pauvre Borisというタイトルは、レオ・フェレLéo Ferréの「哀れなリュトブーフPauvre Rutebeuf 」(1955年)を意識したものかなと勝手に思っていますが、今回は「哀れな」じゃ合わない気がして「かわいそうな」にしました。「気の毒な」でもよかったかな…。
Pauvre Boris かわいそうなボリス
Jean Ferrat ジャン・フェラ
Tu vois rien n'a vraiment changé
Depuis que tu nous a quitté
Les cons n'arrêtent pas de voler
Les autres de les regarder
Si l'autre jour on a bien ri
Il paraît que" Le déserteur "
Est un des grands succès de l'heure
Quand c'est chanté par Anthony 注1
Pauvre Boris
ほら何も変わっちゃいないんだよ
君が僕たちの元を去ってから
バカどもは盗み続け
ほかの奴らはそいつらを傍観し続ける
いつかひとが嘲笑ったとしても
「脱走兵」は、アントニーに歌われて
時代のヒット曲の一つとなったようだね
かわいそうなボリス

Voilà quinze ans qu'en Indochine 注2
La France se déshonorait
Et l'on te traitait de vermine
De dire que tu n'irais jamais 注3
Si tu les vois sur leurs guitares
Ajuster tes petits couplets
Avec quinze années de retard
Ce que tu dois en rigoler
Pauvre Boris
もう15年だ、インドシナで
フランスが恥知らずな行為をしてから
そしてひとは君を蛆虫あつかいした
君のことをまったくイカさないと言って
彼らが君の小さな曲を
15年も遅れて
ギターに合わせるのを君が見たなら
それを君は笑うべきだよ
かわいそうなボリス

Ils vont chercher en Amérique
La mode qui fait des dollars
Un jour ils chantent des cantiques
Et l'autre des refrains à boire
Et quand ça marche avec Dylan 注4
Chacun a son petit Vietnam
Chacun son nègre dont les os 注5
Lui déchirent le cœur et la peau
Pauvre Boris
彼らはアメリカに探しに行った
ドルを稼げるスタイルを
ある日は彼らは賛歌を歌った
ほかの者たちは酒盛りの歌を歌った
そしてディランとともにそれが始まったとき
各々が自分の小さなヴェトナムを
各々が自分の黒人を持ち
その骨は彼らの心と皮膚を引き裂く
かわいそうなボリス

On va quitter ces pauvres mecs 注6
Pour faire une java d'enfer
Manger la cervelle d'un évêque
Avec le foie d'un militaire
8aire sauter à la dynamite 注7
La bourse avec le Panthéon 注8
Pour voir si ça tuera les mythes
Qui nous dévorent tout du long
Pauvre Boris
僕たちはこれらの哀れな男たちを離れる
地獄のジャヴァを演奏し
司教の脳みそを
軍人の肝臓といっしょに食らい
ダイナマイトで
パンテオンもろとも財布を吹っ飛ばすため
ずっと僕たちをむしばみ続ける
神話をそれが滅ぼすのかどうかを見るため
かわいそうなボリス
Tu vois rien n'a vraiment changé
Depuis que tu nous a quitté
ほら何も変わっちゃいないんだよ
君が僕たちの元を去ってから
[注]
1 Anthony=Richard Anthony「リチャール・アントニー」は、「脱走兵Le déserteur」をカヴァーした歌手のひとり。彼のカヴァーが特にヒットしたかどうか不明。→動画
2 quinze ans 「15年」この曲が作られた1966年の15年前、すなわち1951年に「ヴィンイエンの戦い」で新兵器ナパーム弾が投下されている。6行あとのquinze années「15年」は、「脱走兵Le déserteur」が作られた1954年の15年後だとすれば1969年で、この曲より未来のこととなるが、後年くらいの意味合いでとらえよう。anは年数の単位で、annéeは特定の1年間を言う語であったが、anに代わり年数の単位とされるようになってきた。音調にも左右されて用いられる。
3 tu n'irais jamaisは、動詞aller「行く」を独特な意味合いで用いている。日本語の「イケる、イカす」が「行ける、行かす」から派生したのと同様。
4 Dylan=Bob Dylan 「ボブ・ディラン」 代表作「風に吹かれてBlowin' in the Wind」(1963年)は、アメリカ公民権運動の賛歌と呼ばれるが、ヴェトナム戦争への反戦歌でもある。 çaはそうしたディラン風プロテストソングを言う。
5 os「骨」(発音:オス)は、複数形(綴りは同じ、発音:オ)で「遺骨」の意味にもなる。
6 最後のパラグラフは、表現内容が理解しづらいが、ces pauvres mecs 「これらの哀れな男たち」すなわちボリス・ヴィアンやボブ・ディラン等以後の展開を示している。彼らのプロテスト精神を継承しつつ、政治行動や人種、性別、セックス、薬物使用に対する社会的態度を盛り込み価値観の転換をもたらした、ビートルズを筆頭とするロック・ミュージックを言うのか?しかし、フェラ自身がこの曲のアルバムのタイトルである「マリアMaria」、そして「夜と霧Nuit et brouillard」といった、より強い反戦のメッセージの曲を歌っている。
7 faire sauter la banque(ゲームで)「胴元(親)を破産させる」という熟語のla banque「銀行」をla bourse「財布」に替えたと思われる。
8 panthéonは一般名詞としては、ギリシャ語由来の語で、古代ギリシャ・ローマで神々を祀った「万神殿」。Pが大文字の固有名詞としては、紀元前27年にアグリッパによってローマに建てられたle Panthéon「パンテオン神殿」と、フランスの偉人たちを祀る霊廟である le Panthéon de Paris「パリのパンテオン」がある。次行のmythes 「神話」との意味的なつながリが重要なので、特定せず一般名詞的に、「パンテオン」と訳す。
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